SAI〜 この手が君に届くまで 6





光と影が消え去ったあと廃墟の空にヒカルが『ムラカミ』と呼んだ
堕天使が浮いていた。

「仕留められなかったのか!?」

アキラが放った射線上にいたはずなのに堕天使はまるで泳ぐように
悠々と空を舞っていた。

「まさか操り天使たちがこんなにあっさりやられてしまうとは、オガタさんも
まだまだツメが甘い。」

僕は震える拳を握り締めた。
もし次の攻撃があればもう持ちこたえられない。

だが堕天使はもうこちらには用はないとばかりにくるりと背を向けた。

「まあいい。今日の所は見逃してやる。」



堕天使が指を慣らすと空に裂け目が現れその中から暗黒の
闇が覗いた。

彼がその中に投じると裂け目は消えやがて何事もなかったように
空は青空を取り戻していった。


「行ったのか?」

「もうあいつの気配はここにはねえぜ。」

ヒカルの言葉を聞いて安堵した僕はサイにすべてを預けるように沈み込んだ。
消耗した精神と体力はもう限界に達していた。

「ヒカル、僕も君も限界に達してる。早く戻った方がいい。」


僕がサイを自動操縦に切れかえ発進させようとした時、
ヒカルの気配が突然消えた。本当に突然、忽然と消えてしまったのだ。
自動操縦にしていてもガクンと体中にサイの負担がのしかかって僕の思考は
ぐらついた。

「ヒカル!?どうした。何があった!!」

先ほどまであれほど傍に感じた彼の気配はどこにも感じ取れなかった。
すると不意に僕を呼ぶ声がした。

『アキラ、オレはここだぜ。』

ヒカルはサイの前に立ちはだかるように空宙に浮いていた。

「ヒ・・カル!?」

僕の心臓の音がドクンと大きくなった。
ヒカルの背にうっすらと何かが浮かび上がる。

「お前はさ気づいてるんだろ?
こいつは・・・サイはお前ら人間の作ったものじゃねえってことをさ。」

僕は操縦席からヒカルをじっと見据えた。

「どうしてこいつには翼があると思う?
なんで人間の精神では耐えられねえんだと思う?
サイは唯一堕天使に対抗する武器だってわかってるくせにどうしてお前ら
は大量に作らねえ?」

ヒカルに問われたこと・・・それはずっと僕が考えていたことだった。
そして僕はその答えを本当は知っている。

「ヒカルそれは・・・。」

「そうだよ。こいつは天使の作ったものだからだ。」


的中した予想以上に僕はそう言い切ったヒカルに驚愕していた。
ヒカルに出会ってからそうではないかと少し勘ぐってはいたのだ。
だが、そんなことはないと思いたかった。
信じていたかったんだ。


だが・・・。
今現実に僕の目の前にうつっている
ヒカルの背には大きな白い翼が羽ばたいていた。

「君は・・・。」

「オレはサイがなぜオレたちを裏切ったのかどうしても知りたかったんだけどな。
ま、結局サイに載ってもよくわからなかった。
けど・・アキラに会えてよかった。
また一緒にサイに載ろうぜ。」

ヒカルは微かに笑うと空を飛び立った。

「待て、ヒカル!!」

彼に手を伸ばすと同時にヒカルは暗闇の中へと消えていった。



僕は胸の中に大きな穴が開いてしまったような怒りとも悲しみともつかない
想いに駆られていた。
どうして君が・・・堕天使なのだと。





僕はその後どうやって基地まで戻ったのか覚えていない。




                                         7話へ




                                          

あとがき

次回は唐突にサイヒカになります(笑)
ヒカル総受けというわけではないのですが・・・;