SAI〜 この手がキミに届くまで 2
 





学園は地下基地の中にあるがそうは感じさせない程自然が溢れていた。

水も木も風もここにはある。ないのは空だけだ。

外部から隠すために閉ざされた空間はともすると
外での戦闘をも忘れてしまいそうになるほど穏やかだった。


僕はひと時の憩を求めて基地に作られた小川のほとりにいた。
(とはいってもいつ戦闘が起こるかわからない状況だから心の準備はいつもしているのだが。)


その時「バチャバチャっ」と川の水が内側から大きく噴出したんだ。
大きな魚でもいるのかと思ったら突然川の内から子供の顔が飛び出したんだ。

「うわ〜やっちまった!!」

吹き上げた水しぶきを浴びながら少年がきょろきょろと周りを見回してる。
歳は僕と同じぐらいだろうか?
少年のぬれた前髪は水に濡れて光輝く太陽のような色をしていた。

僕は川の中に座り込んでる彼に手を伸ばした。

「大丈夫?君はひょっとしてテレポーターなのか?」

テレポーターと言うのは空間移動能力者のことを言う。
サイのパイロット候補生はみなそういった特殊能力を持っていた。

「テレポーター??なんだそれ?」

逆に聞き返されて僕はそれに応える前に苦笑した。
彼は体のあちこちに藻や水葉をくっつけていたんだ。
この様子なら服の中はもっとひどいことになっているのだろうと思ったら、彼の服の内から小さな魚が飛び降ちてきた。

僕はそれで今まで堪えていたものが堰を切ったようにこぼれた。

「くくくっハハハハハ。」

「ちぇ、そんなに笑うことねえだろ。」

彼は不貞腐れたように言うとちょっと困ったように頭を掻いた。

「すまない。あんまり可笑しかったものだから・・。」

僕は地面でぴくぴくしている魚をすくい、川へと戻してやった。

魚はたちまち元気になって水面に消えていった。
そうすると彼がはじめて笑顔をみせた。


「僕は候補生の塔矢アキラ。君は?」

「オレは進藤ヒカル よろしくな。」

もう1度手を差し出すと彼はそれに応えてくれた。
その手はとても温かかった。


「ところで君は・・・クラスは?」

僕が聞くと彼は困ったような顔をしてた。

「あのさ、オレ今日ここ来たばっかでよくわかんねえんだ。」

ここにいるということは彼もパイロット候補生として選ばれたのだろう。
僕の見解が正しければ、彼の特殊能力はテレポーターでこれから
サイのパイロットとして訓練を受けるのだろう。
だとするとクラスはCかFクラスか。

「だったら僕が基地を案内しようか?」

「本当か?よかった。オレどこがどこかさっぱりわかんなくてさ。
アキラサンキュな。」

ずぶ濡れに濡れた彼はくったくなく笑うとそうそうとばかりに僕に言った。

「だったらオレ、サイが見てえんだけど。」

「サイを・・?」

「お前あれのパイロットなんだろ?」

「そうだけど・・。」

「なあ、サイに載ったかんじってどう?すげえ気持ちいいんだろ?オレも載ってみてえな。」


僕はその彼の口端の軽さに怒りにも似た感情を覚えた。

確かにサイを操縦すると気持ちが高揚する。パートナーのパイロットとシンクロ
すると体中がサイに取り込まれたように感覚が麻痺し恍惚な感覚さえ起こしてしまう。
そしていつもそんな中で堕天使との戦闘は終わってしまうのだ。

だが、あれは戦闘マシーンだ。
例え相手が殺戮を起こす相手だったとしても、戦うことに快感など感じては
ならないんだ。

「君は間違ってる。戦うことに痛みを感じないものがサイに載ってはならない。
もし君がそんな好奇心だけでここに来たのなら帰れ。」

僕は自分が思った以上に昂揚していた。
彼が僕を逆撫でするようなことを言ったからだが、
なぜこんなにも腹がたったのかわからなかった。





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