RAIN

7

 

     




明日は移動で明後日は塔矢との名人戦1局目を迎えると言う日に緒方からメールがあった。

>今日はどうだ?

たった一言だけのそれだけのメールだ。
しばらくそのメールを眺め、どうしたものかと思案した後、
ヒカルは緒方にも負けぬ程短いメールを返した。

気分じゃねえ。


携帯をパタンと閉じ、本を手に取ろうとするとまた緒方からのメールが送れらてきた。

「もうなんだよ」

もう1度開いた携帯にヒカルは顔を顰めた。

>.9時ごろ駅に迎えに行く

「なんだよ、ちゃんと断っただろう!!」

悪態をつきながら、再度メールを打とうとしてヒカルは諦めた。


「まあいいか」・・・と。
心はすでに明後日対局へと向かってる。
プレッシャーは感じてる。でもそれ以上に勝っている感情を止める事が出来なかった。
まるで子供が明日を待ちわびるようなそんな、そんな高揚感だ。

だから待てなかったのかもしれない。






緒方の部屋でヒカルは盛大に溜息をついた。

「先生さ、最近女の人とどうなんだよ?」

「どうって?」

ヒカルは苛立ちを隠せず口を尖らせた。

「だからさ、別れたわけじゃねえんだろ?」

ヒカルは緒方と関係を持っているが付き合ってるわけじゃない。
緒方にはそういう関係の女性や男性(男はヒカルだけかもしれないが)がいることをヒカルは知っていた。

「別れたっていうか付き合ってもいないさ」

「ああ、そうだよな、先生はいつも遊びだからな」

緒方は心外とばかりに、タバコに火をつけた。

「遊び?ちっと違うな。オレは真剣だからな」

「その時だけだろ」

呆れたように言って、ヒカルは勝手知ったるキッチンで
自分だけコーヒーを入れようとカップを食器棚から取った。
緒方が『オレのも淹れろ』とテーブルをトントンと叩く。それを無視しようと思ったがしょうがなく緒方のカップにも注いだ。

「先生は虫がいいんだよ」

緒方にカップを渡して、隣に腰かけヒカルは盛大に溜息を
吐いた。

「お前はどうなんだ。このオレをあいつの代わりにして虫がいいとは思わないのか?」

チクリと胸の奥が痛む。
少なくともこの関係を簡単に割り切ってるわけではない。緒方はどうかわからないが。

「ああ、まあ。でもそれは先生がそうしたらいいってオレに言った
ことだろう」

自信を持てなくて、小声になった声に緒方は笑った。

「そうだな、オレはお前を抱けるだけでいい。お前はその辺の女よりずっといい。征服欲も満たされるしな」

露骨な言い方に顔を顰め口に運んだコーヒーをテーブルに置いた。その瞬間大きな手がヒカルの腕を掴んだ。

「先生オレ、今日そんな気分じゃねえんだけど」

「だったらなぜ来た?」

「ちゃんと断わったろ!!」

「だが、お前はここに来たじゃないか」

緒方に掴まれた腕を払う事は容易なようで、出来なかった。

「待ちきれなかったんだ。名人戦が」

本音を吐くと緒方は苦笑いした。

「だったら抱いてやるよ。前哨戦だ」




唇を奪われソファに押し倒され時にはヒカルは目を閉じていた。
いつもの事だ。
そんなヒカルを緒方は鼻で笑ったようだった。
癪だったが今は緒方に手玉に取られてる。

緒方は一旦ヒカルの元から離れると部屋の照明を落とした。
そして戻ってくるとヒカルをソファに俯せにした。

「何する気だ?」

「今日は趣向を変える。オレの顔は見えない方がいいだろ?
声ももう出さないから、そのつもりで」

「先生?」

何をされるかわからない不安と期待が闇をますます落とす。

体を押し付けられ背後から伸びた手がヒカルのシャツに侵入し
感じる部分をくすぐるように何度もひっかかれる。
甘く鈍い痛みにヒカルは弱い。

「先生やめ、」

じれったさに嗚咽を挙げ『早く』と乞うても緒方は素知らぬ
ふりだ。

ヒカルは知っていた。
楽になるにはどうしたらいいか、緒方が何を望んでいるのか。



「あ、アキラ」

指が震え、心も震える。一度その名を呼んでしまったら堰が切れるようにヒカルは落ちていく。

後ろから抱きしめるその手を握り、ヒカル自分の中心へと導く。
耳元で欲情に掠れた吐息は緒方のものだ。
でもそんなものもう関係ない。

脳裏にあるのはアキラだけだ。
どんなに思っても届かない、手に入れることなんて絶対ない。
後ろめたさやジレンマ・・・。感傷は甘さとともに心を傷つける。

それでもどうしようもないほど、アキラを想ってる。

「アキラ・・・。」

ソファに崩れたヒカルの目じりには涙が滲んでいた。



                              8話へ








年明け1番の更新がこれって(オガヒカ)ってどういうこと?って自分で突っ込みいれてます(苦笑)いえ、今年もアキヒカ頑張りますので、皆さんよろしくお願いします。
 緋色 2014 1.7





碁部屋へ