今日はオレは仕事で団体のイベント旅行に来てる。
細かに書かれたスケジュール表を受け取りオレは目を潜めた。
『緒方先生と同室か・・。塔矢が知ったら嫌がるよな。
けど、仕事だからどうしようもねえか』
そう思って、自分に言い訳するようで嫌な気持ちなる。
それほど広くないツインルームに入ってぐるりと部屋を見回した。
自分が与えられた部屋にはまだ緒方の荷物はなかった。
部屋の奥にどっかりと荷物を置いてどうしたものかと思う。
どうしようもないことだが、塔矢には正直に言っておいた
方がいいだろうか?
悩んだ末携帯を開けた。
『今日のイベント、緒方先生と同室になっちまって。
けど心配しなくても大丈夫だから』
そう打ったものの、躊躇って送信できない。
大体こんな事を塔矢にメールした所でどうしようもない気がするのだ。 あいつに煩わしい思いをさせるだけじゃないか。
迷っていると部屋に人が入ってくる気配がしてオレは慌てて 携帯を閉じ、ズボンのポケットに押し込んだ。
「おう進藤!」
緒方は鼻歌でもうたっているように楽しそうだった。
「おはようございます。緒方先生」
「肩苦しいな」
それに何も返さず、さっさと部屋を出てしまおうと準備していると おもむろに緒方が聞いてきた。
「今日オレと同室だって事は恋人に報告したのか?」
オレの内心など見透かされているようだった。
「恋人って、そんなじゃねえし」
「そんなじゃなければ、どうなんだ?その後アキラくんとは何の進展もないのか?」
『はあ、』とオレは長い溜息を吐いた。
「先生の逞しい想像に任せるよ」
面白、可笑しく言う緒方はただからかわれている事はわかっていて軽くあしらう。こういうのに付き合えば図に乗るだけだ。
緒方は鼻で笑って、それに少しむっとしたがここは平常心でいるのが一番だった。 緒方が着替えを始めそうなのでオレは断った。
「先生着替えするみてえだから、部屋でるわ」
部屋を出るタイミングを計っていたオレはこの機に緒方の小脇を抜けようとした所で背後から肩を抱き寄せられた。
「オレの着替えなんて見飽きてるだろう。それより今晩どうだ、久しぶりだろ?」
耳元に囁かれた台詞に胸が不謹慎にもドキリとなる。 その瞬間頭に血が上りオレは肘で先生の脇腹を突いた。
「辞めろよ。そういうのを、セクハラって言うんだぜ」
背後の緒方は笑っていたがオレは無視して
そのまま振り払うと思いっきり部屋の扉を開けてバタンと締めた
怒りのままオレが向かったのはホテルのフロントだった。
空いてる部屋があれば移りたかったのだが。 生憎今日はイベントもあって、満室という事だった。
その上今日は仲の良い同期や先輩はイベントには参加していない。 どこか別の部屋に泊めてもらうというのも無理そうだった。
「たく、困ったな」
緒方はつかみどころがない。
ただオレをカラかいだけかもしれないが、付け込まれる要因を作る事はしたくない。
塔矢はオレが先生と関係を持っていたことに敏感になってる。 緒方が塔矢に報告したかどうか聞いたのもオレをからかう半分
試すためでもあるだろう。
「本当に困ったな」
もう1度口について出た言葉に溜息を吐く。
ポケットにしまった送り損ねたメールがオレを試しているようだった。
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