昼の休憩に部屋に戻ったのは控室にいるだろう緒方と鉢合わせしたくなかったからだ。
あてがわれた弁当とお茶をテーブルに置いて、 靴を脱いでベッドに寝転がった。 束の間の解放感に浸る。
ポケットに入れていた携帯がごつりととして思い出したようにオレは突っ伏したまま携帯を取り出した。
履歴をたどり誰からのメールがないのを確かめるとベッド横の
サイドテーブルにやや荒っぽく投げた。
朝の塔矢に宛てたメールの返事は来るはずがない。
送信してさえいないのだから。 そんなわかりきった事をしてしまう自分に自己嫌悪を覚えて 目を閉じた。
しばらくして携帯にバッテリーがあまりなかったことを思い出し、億劫に起き上がり携帯をつかんだ。
飯を食った方がいいよな?
そのまま椅子に腰を掛けると部屋の扉が何の前触れもなく開いた。
「やっぱり部屋に戻っていたか?」
勝手に入室してくるのは同室の緒方しかないのだが、
気が休まらない事に小さく溜息を吐く。
それで気が付いた。
緒方といて休まらないと感じたことはなかった。 どちらかと言えば、気兼ねした事はなく
言いたいことを言える間柄であったし、その関係い甘えて
もいた。
3か月前までの事だ。 オレの方が塔矢と付き合いだして変わってしまったのだろう。
そんなことを考えていると緒方がテーブルまで来て、向いの椅子にどかりと腰を下ろした。
「先生は弁当食ったのか?」
「食ってきた。だが、あそこは喫煙出来んかったからな。部屋まで戻ってきた」
そう言うなりポケットから煙草を取り出す。
「オレ今から飯食うんだけど」
「いいだろう。オレは食いながらでもタバコを吸うが?」
「飯が不味くなるだろう」
「そうか?」
「そうだって!!」
頭を抱えたくなりそうだった。 オレは仕方なく弁当とお茶を持って立ち上がった。 他に行った方がよさそうだった。もともと緒方を避けたくて
ここに来たのだし。
緒方が不機嫌に顔を上げた。
「どこへ行く?」
「別の所だよ」
緒方がオレの腕を引いた。 突然だったので、オレは持っていたペットボトルを落とした。
「もう何すんだよ!!」
「いいからここで食え、お前が食ってる間は我慢してやる」
本当は吸いたいくせにイライラしてる先生に呆れてオレは止む無くもう1度腰を下ろした。
取り落としたペットボトルを先生が拾ってテーブルの上に置く。
さっさと食えと言わんばかりに睨まれオレは溜息混じりで
弁当の包みを解いた。
なんとも間の悪い昼食だった。
先生はオレが食べ終えると早々にタバコを吹かし始め、オレは今度こそとばかりに立ち上がった。
「先生オレ先行くから」
断って立ち上がり、歩幅を開いた。 三度まで捕まえられたくはなかった。
「まあまて、随分オレを煙たがるな」
呼び止められて足を止めたのは一瞬だった。
「そのままだろ、オレタバコ苦手だし」
「進藤・・・」
緒方は何か言おうとしたが、オレはそれを聞かなかった。
「じゃあ、また後で」
そのまま退散し、溜息を吐く。携帯を置き忘れたことに気付いたが取りに行くのも億劫だった。
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