この空の向こうに
(ネット最強)

18






     
アキラが勲に電話をしたのは緒方と話をした翌日だった。

「ネット最強戦ですか?」

電話に出た勲は神妙にアキラの話を聞いていた。

「わかりました。でも出場を決めるのはオレじゃないし・・・
とにかく伝えます。」

そう言って勲が電話を切った後アキラは小さく溜息をついた。
本音を言えばヒカルと直接でなくても話が出来るかもしれないと
少し期待していた。
でも勲はヒカルに取り次いでくれなかった。
周りに誰かいたのかもしれないと思ったが落胆は隠せなかった。





その晩遅くに勲からアキラの携帯に直接電話があった。

「はい、もしもし、勲くん?」

返事には一瞬の間があった。

「ああ、オレだけど。勲から話を聞いたから。」

アキラの心臓が止まりそうになる。
受話器を持つ手が自然と震えた。

「進藤なのか?」

アキラの質問にヒカルは笑って答えなかった。

「お前が心配するのわかるけど、オレこの棋戦出場するぜ。」

「君ならそう言うと思ってた。」

「ああ、せっかく緒方先生がオレの為に用意してくれたんだ。
先生からの挑戦受けてたつぜ、
まあ先生の期待に応えられるかどうかはわかんねえけど、」

「悔しいよ。君のことでは緒方さんにいつも出し抜かれてる。」

ヒカルはアキラのつぶやきに苦笑した。

「先生の執念ってやつだな、」

名残惜しくなる気持ちを断ち切ってヒカルは言った。

「それじゃあ、また、連絡くれてサンキュな」

「待って!!進藤」

アキラの叫びにヒカルは置こうとした受話器をもう一度取り直した。

「ごめん塔矢、夜中にこっそり起きてきて電話してるんだ。
だから、」

アキラは握りしめる受話器にしらずしらず力を込めた。

「ずっと気になってたんだ。君がそう・・・長くないと言ってたこと。
どういう事なんだ?」

「ごめん、」

ヒカルは再度謝って笑って誤魔化した。

「オレにもわかんねえよ。いつまでこんなことやってるかなんてさ。
ひょっとしたらお前の人生より長くお化けやってるかも
しれねえぜ。」

「本当に?」

ヒカルはなるだけアキラに心配かけないように言った。

「ああ、心配させるような事言って悪かった。」

そのまま受話器を置いてしまいそうなヒカルにアキラは言葉を
探したが気の利いた言葉がみつからない。
ヒカルもまた受話器を掴んだまま動けなくなる。

「・・・また会える?」

約束することでアキラは縋ろうとしているようだった。

「ああ、」

「またこうやって話が出来る?」

それでも言わずにいられなかったんだろう。

「ああ、だからもうそんなに心配するなよ。」

ヒカルがそう言っても不安なのだろう。
アキラは受話器を置こうとしなかった。
ヒカルは小さく溜息をついて受話器につぶやいた。

「塔矢・・愛してる、」

胸の中が熱くなる。生きていたころだってそんな事をヒカルが
口にしたことはほとんどない。
だから余計不安が広がっていくのかもしれない。

「進藤・・・」

ヒカルはそんなアキラの不安を吹き飛ばすように言った。

「棋聖戦の朝お前ベッドでオレを抱きしめてくれただろ?
オレお前が見えないのをいいことにいろいろ悪戯したんだ。」

アキラはそれに噴出した。

「やっぱり寝たふりをしてたんだ。
それでどんな悪戯をしたの?」

「バカ野郎・・・そんな恥ずいこと言えるか」

「せっかく『そんな恥ずかしいこと』を告白してくれたのに
教えてくれないだ。でも君にだったら僕は何をされてもいい。」

「そんなこと言ったら憑りついて呪っちまうぞ。」

「構わない。君が僕の傍にいてくれるなら」

アキラは本気のようでヒカルは呆れたように笑った。

「もう冗談だって、」

軽口を言ってお互いに笑ってヒカルは言った。

「いつまでもこうしてるわけ行かねえだろ。今日はもう寝るな、」

「ああ、」

ようやくアキラは電話を切り上げてくれそうだった。


「棋聖最後の1戦にしろよ。」

「ああ、必ず・・・。僕も愛してる。」




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ただの二人の会話になってしまった(汗)
18話が短かかったので19話は間を開けずに更新予定です。




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