「君が好きだ」
アキラの声が触れた背から、腕から・・・そのまま伝わって体中が熱くなる。
『好き』って友達だって事だよな?それとも・・・
背後から抱きしめるアキラを振り返る事が出来ず、
ヒカルは自分が考えそうになったことに「絶対にありえない」
と首を振った。
恥ずかしいはずなのに『ずっとこのままでもいいと』体が動かなくなる。
ややあって、アキラがヒカルの体を解放した。
「引き留めて悪かった」
そのままこの部屋から出て行ってくれと言うように、背を少し突き飛ばされたような気がした。背はまだアキラの体温が残っていて
自分の腕を抱きたくなる。
「あの、アキ・・」
「振り向くな!!」
振り向こうとした瞬間アキラの声が部屋に響き、びくりと体が震えた。
「すまない、振り向かないで、このまま部屋を出て行ってくれないか」
2度目はすまなさそうに、きっとアキラも泣いていたからだと思う
「お前はオレを好きだって言ったじゃねえか。
なのにどうして拒否るんだ。
オレバカだから意味わかんねえよ」
「それは・・・」
「オレやっぱ今お前と一緒にいたい」
溢れる感情にヒカルはくるりと向きを変えアキラを見た。
アキラの瞳もいっぱいに涙が滲んでいた。
「君は・・・どうしてわからない!!」
アキラはヒカルを荒々しく掴むと乱暴にベッドに放り投げた。
何が起きたかわからず起き上がろうとしたヒカルにアキラが馬乗りになる。
「こんなみっともない姿は君に晒したくなかったんだ。なのに君は・・・」
「みっともないって何だよ」
「君にはわからないだろう。軽い気持ちで君は誰にでもキスもハグもする。だけど僕は・・・その都度振り回されて、僕はそんな器用な人間じゃない」
アキラはヒカルの唇を奪った。
熱くて、体中が沸騰したようだった。
唇はすぐ離れたが間髪入れず、アキラがヒカルの首筋へと顔を落とす。
「な、何?」
「まだわからないのか」
アキラの指はシャツを捲し上げ、唇はヒカルの肌蹴た素肌を滑った。
抵抗しようとしたが、触れた箇所からまるで力が抜け落ちていく
ようだった。
ヒカルはあまりの恥ずかしさに、息を飲み、目を瞑ったが、
アキラの触れる感覚はやりすごす事が出来なかった。
やがて荒い息を整えるようにアキラが顔を上げた。
「これでもまだ僕と一緒に居たいと思うの?」
ヒカルは涙と鼻水を啜った。
「思ってるよ…今お前を一人にしたら絶対後悔する」
「君と一緒に居たら僕は君を縛り付けて、
何をするかわからない。それでもか?」
「お前がそうしたいならしたらいい」
「随分投げやりだな」
「オレだってどうしたらいいかわかんねえんだ」
ヒカルは止めどなく流れる涙を止めることが出来なかった。
腕で泣きはらした顔を拭うと、離れたアキラに両腕を伸ばした。
「オレが誰にでもこんな事すると思うのか?」
「君は・・・バカだ」
崩れ落ちそうなアキラの背をぎゅっと抱きしめると
互いに求めて唇が重なり合う。胸が痛いのに
もっともっとと乞うようにそれは深く、長くなる。
胸が潰れてもいい。
アキラの指が、唇ががむしゃらにヒカルの肌を求める。
アキラがこんなにも想ってくれていた事をヒカルは知らなかった。
ヒカルはただアキラをその腕で抱きしめることしかできなかった。
自分自身の想いにヒカルは初めて気づいたのだ。
まだ朝も明けきらぬ早朝にヒカルは物を引きずるような音で目が
覚めた。
はっとして、起き上がったヒカルはほぼ全裸で、寒気が体を纏ったが、そんな事は今はどうでもよかった。
「もう少し寝ていてくれたら良かったのに」
そう言ったアキラはすっかり身支度を整えており、ヒカルが寝ている間に出て行こうとしたのだろう。
「行くのか?」
無言のまま頷いたアキラにヒカルは何と言っていいかわからず
お互い言葉が無くなる。
アキラがドアノブに手を掛けヒカルは慌てたようにその背に言った。
「オレ、絶対お前より強くなるから」
「僕の眼前にあるのはプロ棋士だけだ」
冷たく言い切られてヒカルは唇を噛みシーツをぎゅっと掴んだ。
わかっていたことだ。
「でも・・・。」
アキラが振り返る。
「君を見てる。だからずっと歌い続けて欲しい」
優しいアキラの笑顔だった。その笑顔に吸い込まれそうになる。
ヒカルは涙を必死に抑えながら頷いた。
「オレも・・・お前を見てる。絶対にプロ棋士に・・・それで」
「なるよ。君がどこにいてもわかるように、僕は僕の場所を示す」
アキラがノブを回す。
1歩踏み出したアキラに心の中で『行くな』と叫んだ。
でもそれは声にならなくて・・・扉が閉まった瞬間ヒカルはアキラのベッドに崩れていた。