ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 

4章 正体2



 


退室後
病院正面からアキラとヒカルが振り返ると空と直が窓から手を振っていた。
それに応えて笑顔で手を振る。少し名残惜しさがあった。

ヒカルはアキラに小声で言った。

「アキラ、院内か近辺で不自然じゃねえ場所ないかな?」

「どうかしたの?」

「佐為に残ってもらってる」

「ああ」

アキラはそれだけで理解したようだった。
一端病院を出て、ぐるりを見回し人気のない小さな公園に落ち着く。

「このぐらいの距離なら大丈夫?」

「ああ、しっかしこの時間に誰もいねえ公園って」

高層のビルとビルの間の公園は日もあまり入らず公園としてはどうかと思う。
空いていたベンチに自然に二人並んで腰かける。

「なんだか不思議な感じだよな」

照れ隠しのように言う。
島では当たり前だったことが、東京では
アキラとこうしてただベンチに座ってるだけなのに、なんだか照れくささがあった。

「僕もこれが日常なんだな、と実感してた」

「うん、この当たり前の生活がすげえ大事なんだなって、
けど、島で空や直にあいつらに会えてよかった」

「そういえば、次の任務が来てたね」

ヒカルは知らなかった。
というよりあまりにも早すぎて、驚いた。

「ええ?もう来てるのか?」

ざらに何年もない仕事だと聞いてただけに焦る。

「次と言っても・・・」

アキラは口を濁らせ苦笑した。

「なんだよ、はっきり言えよ」

「たぶん君には願ったりじゃないかな?」

「そうなのか?ってだから勿体ぶんなよ」

ヒカルが口を尖らせたのにアキラは笑っていた。
こういう時怒ってるわけじゃないのだが、どうも間が悪かった。

「空と直、あの二人の監視らしい」

「監視?そんなのオレ望んでねえぜ?」

「一言でいうと任務は監視だ。
けれど内容は二人に島で行われていた実験の後遺症が出ないか
また相沢が何か仕掛けてこないか。
今後僕らは彼らの友達として、見守っていく、そういう
事だ」

ヒカルはそれで合点が行った。

「つまり堂々とオレたちこれからも付き合えるという事か?」

「そういう事だね」

「ならよかった」

らんとの最後の約束は「空と直とずっと友達でいる」ことだった。
それをこの場で口にしなかったのは、軽い気持ちじゃなかったからだ。
空と直が『夜』や『らん』を忘れても、ずっとずっと、忘れない。

佐為がふわりとヒカルとアキラの前に舞い降りる。

『大丈夫でした。二人ともあと二日もすれば退院するそうです。また彼らが
通う学園は組織のマーク対象になるようです』

「そっか、」

アキラに佐為の言葉を告げ立ち上がる。

「またしばらくオレたち会わねえかな?」

「その方がいいんだろうけど」

アキラが顔を曇らせ口ごもる。
言いたいことはわかって、ヒカルは小さく頷いた。

「またな、空と直が退院して落ち着いたら、会いに行こうぜ」






笑顔で手を振りアキラと反対の道を歩みだす。
そうして別れてわずか10分と経たないうちに、ポケットの携帯が震える。
組織からの電話、それも緊急の回線だ。

慌てて電話に出たヒカルはすでに嫌な予感がしていた。

「あー、もしもし」

「今から本部に来るように」

相手も確かめずに、それだけが告げられる。
こちらの都合などお構いないしの突然の通達だった。

「今から?」

「どれくらいかかる?」

出先でさほど遠くはないが・・・。

「30分、いや40分かな?」

「わかった」

「アキラは、アキラも一緒なのか?」

ヒカルがそれを聞いたときにはもうすでに電話は切れていた。
何ってタイミングだと思う。

『ヒカル、何かあったのですか?』

「これから本部に来いって、」

『ヒカルだけですか?』

「わからねえけど」

ヒカルは一瞬今来た道を振り返った。今ならまだ戻ればアキラに会えるかも
しれない、と思ったからだ。

「アキラくんに連絡を取ってみてはどうでしょう?」

「そうだな」

だが、アキラに掛けた電話は通じずヒカルは止む無く簡素なメールを送る。

【これから本部に来いって、お前は何か言われてねえ?】

電車に乗ってる間も携帯を握りしめたが、アキラからの返信はなかった。


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