ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 

4章 正体1



 


島から戻って3日、ごく平凡な日常が、当り前の幸せなのだと実感したことは
これ以上 なかったかもしれない。
拘留所もそうであったが、ハンターの職務というのは非日常すぎる。

島での報告は(ヒカルが献血で体力を落としているだろうと)アキラが
すべてしてくれた。

「空と直は人間を人外のものにする実験の検体として連れ出されたこと」
同時にアキラは『ここ数日彼らと寝食を共にし、問題はないと判断したこと』も
報告していた。

また学と芥の事には一切報告書に触れていなかった。
隠し部屋の報告も研究施設の地下1階まで、それ以上はおそらく組織
でも見つけられはしないだろう。
(もともと施設の地下すら把握してなかったことを踏まえても)

そうして彼らが島で検体としてひどい扱いを受けた事を踏まえ、組織で保護する
とともに一時病院での検査という形で収まることになった。

もちろん組織には疑念があるだろう。
アキラからの報告書に目を通し、ヒカルは大きくため息を吐いた。

心配は尽きない。彼らの中の夜とらんが本当に消滅してしまったのか?
そして今回の検査で人としての存在を組織が確信できなかったら・・・?


『ヒカル、二人に会いに行くことはできないのでしょうか?』

もどかしい想いは佐為も同じだったようだ。

「オレもそれ考えてた」

『アキラくんも誘ってはどうでしょう?』

「その方が自然だよな」

ヒカルがアキラにメールすると、すぐ返事が返ってきた。

「アキラも行くってさ」

『それは良かったです、ヒカル!またアキラくんに会えますね』

「もうお前まで何言ってんだよ」

ややうんざりぎみに言ったのは、夜とらんだけでなく、別れ際に空と直にまで
アキラとのことを揶揄ったからだ。
まったく自分たちが恋人だからって誰かれそういう関係にするな、って思う、
アキラだって困惑していた。

『私が何か言いましたか?』

惚けたように言う、佐為にため息を吐く。

「佐為お前な」

『私もアキラくんに会うの楽しみですよ』

佐為は本当にうれしそうに笑った。





病室の部屋は二人部屋で 入室も遠慮なかった。

「おっ、ヒカル、アキラ待ってたぜ?」

空と直は窓際に並んで座っており、ヒカルとアキラは思わず顔を合わせた。

「実は二人が来るのここから見てたんだ」

『それで』と納得する。
ヒカルは直の好物だと空が言ってた袋いっぱいの駄菓子を渡した。

「わあ、これいいの?」

「駄菓子ばっかで口に合うかわかんねえけど」

空から聞いていたからそんな事はないと思っていたが、中身は本当に
色とりどりの駄菓子ばかりだった。

「直はこういうの子供の頃から好きでさ、嬉しいよな?」

「もちろんだよ、退院したら一番に買いに行こうと思ってたんだ。
すごく可愛いし、美味しそう」

赤や青黄色のセロファンに包まれたお菓子に直の顔が蕩ける。
それを見られただけでも買ってきてよかったな、とヒカルは思う。

「それで体の具合はどう?」

和んだ雰囲気を見てアキラが二人に話しかけた。

「もともと悪くなかったけどな。けどやっぱ少し栄養失調ぎみで、
体に細けえ傷も結構あるって」

「オレたち何であそこに監禁されてたか知らなかったけど、
それも教えてもらったから」

直が声を落とす。

「それってオレたちに話せることなのか?」

ヒカルは妙に乾いた自分の声に焦る。こういうのは苦手だ。

「口外するな、とは言われてねえし、それに二人には助けてもらったし」

空はそう言って、言葉を区切った。

「なんでもオレたちを人じゃないモンスターにするためだってさ、
けど突然そんな事言われても信じられねえだろ?」

「オレも羽柴も両親亡くなってから施設に預けられて、その施設の子供たち
はみんな・・・だったって」

声を震わせた直の肩を空が抱く。

「悪いな」

アキラは首を横に振った。

「精神的にも落ち込んでるみてえだから、
オレは大学に行った方が早く回復すると思ってるんだけど、何かした拍子
にって事もあるだろ?」

直をぎゅっと抱きしめる空の腕は、逞しく見えた。
その姿が夜とらんに重なる。
守るべきものがあるとこうも、強く生きられるのだろうか?

『二人なら大丈夫ですよ』

そういったのは佐為で、ヒカルは頷くと空と直に伝えた。

「二人なら大丈夫だっ、て」

「ありがとうな、そうそうお前らも二人なら大丈夫だろ?」

空はにやにや笑いながら言った。

「それってどういう意味だよ」

「そのまま、わかんねえか?」

仕事の事なのか、そうでないのかわからない。また揶揄ってるのだろうと
思うと、少し呆れた。

「もう心配してるのに、オレとアキラの事なんてどうでもいいんだよ」

ヒカルがそういうと今まで泣いていた直がクスリと笑った。

「照れ隠しっていうか、ヒカルくんってツンデレでしょ。アキラくんヒカルくんの
言ってることは間に受けないほうがいいよ」

直に言われるとは心外としかいいようがない。

「僕はでも、ヒカルとなら大丈夫だと思います。彼が照れ隠しなのか
どうかはわかりませんが」

アキラの返答は苦肉だったのだろうが、ヒカルは呆れて苦笑いした。

「なんだよ、それ」

思わず4人顔を合わせ噴き出した。


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