ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 暗闇の中で15
『昨日の事はオレもなかったことにするから、アキラもなかったことにしてくれよ』
それからどうしようかと迷ったのですが、CPで芥と学を出すことを予告していたので、感情を押し殺ろそうとしたヒカルの声に、我に返る。 「そうじゃない!!」 『お前は夜の気に充てられただけだ。それにオレも 流されただけだ。だからもう二度とこの話はなしだ』 ヒカルは立ち上がり、用はそれだけとばかりにテントから出て行く。 『違う!!』 そう叫びたいのに、声が出ない、体が動かない。 その背を抱きしめたいと思うのに、 もし今拒否をされたら、本当に君をなくしてしまいそうな気がする。 「ヒカル!!」 上げたその声に驚き目が覚める。冷や汗が伝っていた。 傍にあるヒカルの寝袋はすでに仕舞われ、すでにそこにいない。 夢?!だったと理解するのにそれほどかからなかった。 アキラは慌ててテントを飛び出す。 眩しい光にくらっと体が傾いたような気がした。 朝食を用意するヒカルが物音にアキラを振り返る。 「よ、起きたか?」 「どうかしたのか?つうかお前顔色悪いな。大丈夫か?」 ヒカルは昨夜の事などなかったようにアキラに声を掛ける。 いや、昨夜の事は・・・? 頭を押さえたアキラにヒカルは作業の手を止め駆け寄る。 「昨夜遅かったし、朝方までうなされてたぜ? ひょっとして夜の邪気に充てられたんじゃねえのか?」 駆け寄ってきたヒカルの首筋にはアキラが噛みついた痕は なかった。 『あれが夢?まだこの手に胸に感覚が残っているのに?』 先ほどの事も含め、アキラは呆然と立ち尽くす。 まだ白昼夢の中のようだった。 「僕は昨夜何かうなされてただろうか?」 「あー」 ヒカルは少し言いにくそうに顔を顰めた。 「時々オレの名を呼んでたっていうか、叫んでた。だからオレも明け方 眠れなかった。怖い夢でも見たのか?」 これが現実なのだと悟り、 アキラは罪悪感とともに、そのくせ、どこかホッともしてる。 起き抜け見た夢も影響してるかもしれない。 「ああ。夢でよかった」 そう言った声は自分で驚くほど掠れてた。 ヒカルの手がアキラに伸びびくりとする。 「ちょっと触るぜ」 ヒカルはそう念押ししてからアキラのおでこに触れた。 「熱はねえか?もう少しねてろよ。朝飯出来たら起こしてやるから」 「いや、船に行ってシャワーを浴びてもいいだろうか?」 「いいぜ、そんなの気にせず行けよ」 貴重な水なのにヒカルはそう言ってアキラを送り出す。 アキラがテントに戻ってきた時にはヒカルが朝食の準備は終えていた。 「すまない」 「そんなのいいって」 「それより、佐為が空と直がこっち向かってるって」 「そうなのか?」 そういえば起き抜け、アキラは自分の事がいっぱいで気づかなかったが佐為は ここにはいなかった のだろうと思う。 「なんかこれから雨になりそうだって、オレたちを呼びに来るらしいぜ」 「だったら早く朝食を食べたほうがいいね」 ちょうど二人が食べ終えるころに空と直が連れ立ってテントにやってきた。 「おはよう、悪いなオレたち遅い朝食で」 「いや、オレたちこそ急で悪い」 「二人は食べたの?」 直が気にしないでというようにウィンクする。 「うん、オレたちは食べたよ」 「それよりこれからたぶん大雨になると思うんだ。お前らテントじゃ大変だからさ、建物の方に 来ねえか?」 「そんなのわかるのか?」 ヒカルは佐為から聞いていたが、もちろんそんな事は知らなかったと装う。 「ここにいて、暇だし、長いだろ?そういうこと何となくわかるようになってきたんだ」 「観察力のある空がいうと説得力あるよな」 「実は監禁されていた時も、日にちと天気は付けていたんだよ」 直がそうも言ってる間に風の流れは速く、先ほどまで陽が出ていた空は雲が集まって きていた。 「思ったより、早くきそうだな。オレたちも手伝うから建物の方へ行こうぜ?」 空と直が荷物運びを手伝ってくれ、4人で2往復して建物に運び込んだ。 ちょうどそのころ雨が降り始めた。 「ドンピシャだったな」 「ありがとう、二人のおかげで、ぬれずに済んだぜ」 壊れ掛けた施設の一室にひとまず4人でひとまず落ち着く。 昼間というのに、薄暗い部屋は壁も薄く、 激しい雨がたたきつける度に小刻みに揺れる。 それでも雨がしのげるだけましだと、窓の外をみる。 空に光が走った瞬間、地響きが起こり、思わずヒカルは近くにあった、ベッドに しがみつく。 『ヒカル!!』 傍にいた佐為が突然大声を上げた。 振り向いた瞬間、また稲妻が走り、軽い目まいがした。 ヒカルは佐為が言わんとしたことが分かった。 空と、直の存在そのものが変わってる。 アキラもその異変にいち早く気づいたらしい。 「お前ら結構勘がいいな」 地を這うような声はやはり空のものではない。 「昼間でも代われるのか?」 ヒカルの問いに夜は笑った。 『今は、場所も時間も選んでる場合じゃねえからな、 それより、オレの気に充てられ結構辛そうじゃねえか』 夜はアキラを見ており、ヒカルはやはりアキラが無理をしていたのだろうと 思う。 「充てられた気はどうしようもないのか?」 聞いてわかるものかどうかだ、何もしないよりはいい。 「囚われた欲望に忠実になるか、それを飲み込むか、その二つに一つだよね」 らんが歌うように軽く言う。アキラは顔を顰め、顔を横に振った。 「僕は大丈夫だ」 「強がっちゃって」 らんは笑いながらヒカルに近づき、アキラもヒカルは身構えた。 「何もしないよ。ただヒカルにはちゃんとお礼を言っておきたくて。 直に優しくしてくれてありがとう!!」 「そんなの大したことじゃ、」 「ヒカルにとっては大したことじゃなくても直と空は嬉しかったんだよ、だから ありがとう」 らんに軽くハグされて、ヒカルは自然とらんの背に手を回した。サキュバスなんて そんな事もうどうでもよかった。これが直とらんなりの気持ちなのだろうと思ったからだ。 離れたらんは照れ笑いを浮かべていた。 「それで、もう一つの頼みの方だけどよ」 そのことは昨夜アキラから聞いていた。 「オレたちに出来ることなのか?」 「もしお前たちにやってできないなら誰も出来ない。その時は諦めもつく」 ヒカルはアキラを見る。 普段と変わりないような気がしたが、夜が指摘するぐらいだから相当無理をしてる はずだ。 「アキラ、オレだけで行くぜ」 「何を言ってるんだ。僕も行く」 「無理してるくせに!!」 「無理などしていない!!!」 その様子を見ていた夜が苦笑した。 「アキラは行くと思うぜ?そういうやつだろ」 「けど!!」 「男の意地ってやつだよね、それだけヒカルが大切なんだよ」 そばにいたらんが朧気に笑う。その笑みに胸がドキリとしてしまうのは 男の性なのか、サキュバスの性なのかわからないが、なぜか切なかった。 「ホント、ヒカルも鈍いな」 クスクスと笑う、らんに居心地を悪くしたようにアキラが顔を顰める。 「ああ、もうわかったよ。けど、アキラこれからまだまだ邪気にあたるんだぜ。 オレは今のところなんともねえけどさ」 「どうしようもなくなったら、リタイヤする」 「ホントだな?」 念押ししたが、アキラははぐらかせた。 「まあ今はこんな雨でも昼間だし、少しはマシだと思うぜ」 「じゃあ行こうか」 「ああ」 夜とらんの後に付いて、向かう先は・・・。 もう一人の『彼ら』がいるという闇だ。 →16話へ つぶやきです…💦 夢オチですみません。最初からここはそうしようと思ってたんですが、 そのうち夢でないやつが描けたらと思います(爆) 少し描こうと思います。ひょっとすると後々出てくる?相沢教授に絡むかもしれないし。 あまり考えなしで描いているので、設定とかきちんとできてません。毎度の事ながら辻褄 合わせが発生するかも・・・。m(__)m
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