ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 

暗闇の中で10


 


空と直とは一旦別れて、夕方落ち合うことになり、アキラとヒカルは
テントに戻る。

「あいつらの事どう思う?」

お互い口したくても彼らがいる前では出来なかった。

「夜と空、らんと直、彼らが別人か同一なのか僕もわからない」

簡易椅子に腰かけ、ヒカルも腰を下ろした。もう一つ用意された椅子は
アキラが佐為の為に用意したもので、そういうアキラの気配りを佐為は喜んでいた。

「ただ『夜』の瞳の色はオッドアイで左目が金色だった。『らん』は直より髪が
もう少し赤みがかっていた。声色の違いは、あの程度なら人によって使い分けられる
ような気がする」

昨夜のあの状態でよく見ていたな、と思いながらヒカルは頷いた。

「相違点もあるってことだよな?それにオレはあの二人が嘘をついてるとも
思えねえし。オレがあの部屋で見たビジョンはあの二人だ」

「君は確信があるんだな?」

「確信っていうか。けど昨日の夜とらんにもダブるんだ。
容姿が似てるからかもしれねえけど」

「空と直の言っていたことに関しては、疑問は沢山ある。
組織がここに上陸して調査を進めていた間の事とかね。
もし彼らがいれば一番に助け出されたはずだ。僕らがここに来てからの事もね。
佐為は何か気づいたことはないだろうか?」

空いた椅子にアキラは話しかける。

『私は、『夜と空』、『らんと直』は同一人物ではないかと思ってます』

佐為は先ほど、あの二人は人間だとヒカルに言い切ったばかりだ。

「お前それ矛盾してねえ?」

『矛盾は承知です』

「根拠があるのか?」

『あの言いにくいのですが・・・』

佐為は『コホン』と咳払して袖で顔を隠すしぐさをする。ヒカルにしか見えてないのに
何をやってるんだ、と言いたくなる。

「もったいぶんなよ」

『あの・・・ヒカル、アキラくんも気づいてると思いますが
昨夜のサキュバスの『らん』と先ほどの『直』。
うなじと脚に情を交わした痕跡が数か所ありましたが、まったく同じ場所でした』

ヒカルは思わず噴き出した。
『どこ見てんだ』、って佐為に言いたくなる。
しかもそんなあからさまな事をアキラに伝えなければならないと・・。
ヒカルの方が『まったく』と咳払いした。

「アキラ、佐為は矛盾してるかもしれねえけど、あいつら同一だと思ってる。
理由はまあ、痕跡が一緒だったってさ」

「痕跡?」

聞き返されヒカルは顔を染めた。アキラも解れよ。

「情を交わした跡だよ。アキラも気づいてんじゃねえかって佐為が言ってるぜ?」

アキラは『ああ』っとようやく理解したようだった。

「すまない。先ほどの状況で恋人の空がいる前で直をあまり見てはいけないような
気がして。そうなんだ」

「直って美人だもんな。オレもあんまし見ないようにしてた。こんなこと言うと本人に
怒られるかもしれねえけど、ホント男なのか?って、思っちまった」

「サキュバスならそういう容姿でも、頷けるだろう」

アキラの言う通り、夢魔の容姿は男女とも人目を惹くし、引き寄せもする。

「けど、たとえあいつらが同一だとして、あの二人がオレらに頼んだ事って
矛盾してないか?」

空と直が『ここから助け出して欲しいといったこと』 と昨夜『夜が告るな、といったこと』だ。

「一概に矛盾とは言えないと思う。夜が告るな、と言ったのは組織に対してだろう。
対して、空と直はここから助け出して欲しい。ここに人外の者がいた事を
報告せず、二人を助け出せば通る」

「そうするつもりなのか?」

「わからない。ただ僕はやはりもう1度夜とらんに接触しなくてはいけないと思う」

「すべてを知ってるのはあいつらだけか」

「ああ、夜とらんはすべてを知ってる。それは間違いないだろう」

夕飯に空と直を誘ったのも、アキラにそういった狙いがあったからだとヒカルは思う。

「わかった。空と直もここに2か月もいたなら詳しいだろうし。調査にも出来る限り協力すると
言ってたろ?助け出すにしてもあいつらの事もっと知らねえとな」

そういうと二人の会話を聞いていた、佐為が口を挟んだ。

『ヒカル、まさかとは思いますが、ある時間になったら彼らが入れ替わるというような事も
考えられませんか?あの地下室に続く階段のように』

「そんな事あるのか?昼夜で人からヴァンパイアになるとか?戻るとか?」

そんな都合のいい話聞いたこともなかった。

『私も知りません。ただ色々なことを想定しておいた方がいいでしょう」

佐為はあくまで彼らが同一人物であることを、前提にしてる。

「僕らの想定外ばかりの事が起こってる。佐為の言う通り常識的なことに
囚われていてはいけないのだと思う」

「わかってるよ」

二人から言われ少し拗ねたようにヒカルは口を尖らせた。


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