ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 暗闇の中で11 夕方まではと、アキラが羽柴空と藤守直の情報収取を、ヒカルは佐為とともに
空と直がここ二日潜伏していたという洞窟を組織の地図を片手に出かけた。 2時間後ヒカルと佐為がクルーザーに戻ると、アキラは作業の手を止めた。 「どうだった?」 「やっぱ、アキラが言った通り、洞窟で凌いだ形跡はなかったな」 「そうか」 「満ち潮になると入り口は海水が満ちるようなところだぜ? 奥まではわかんねえけど、狭いし暗すぎるし、そんな所オレだったら 絶対嫌だな。 ただ時々は足運んでるんじゃねえかな、人が並べたような岩が二つあったし。 その岩にバケツひっかけてた。そのバケツが水満タンになってたからな、」 バケツで満ち潮の時の水高を確かめていたのかもしれないとも考えたが。 「お前の方は?」 「ああ、彼らが通っていると言ってた〇〇大学に問い合わせてみたの だけど。 4月から欠席してる。それに昨年も二人は長期の入院で 出席日数が足りず留年したようなんだ。大学側は今回もその時の後遺症 で休んでるんじゃないかと、口を濁された」 「後遺症?二人とも入院してたのか?」 「大学で化学薬品の爆発があって巻き込まれたらしい」 爆発の事故が大学側の落ち度なら口を濁すかもしれないとヒカルは 納得した。 「そんな事故だったら記事になってねえの?」 「大きくはなかったが、探したらあったよ」 そういいながらアキラがPCから記事を上げてくれた。 【薬品反応で爆発したのだろう、と重症2人、軽症が4人・・・】 けが人の名前はなかったが、大学名が一緒であったし間違いないのだろう。 ここには電力がないので、PCを使うのも持ってきたバッテリーだけが頼りだった。 ヒカルと佐為が一通り目を通したのをみてアキラはPCを閉じた。 「それで二人は知人の病院に入院して同室だったようだ。ただ・・・彼らは 子供の頃から不運な事故が度重なってる」 「不運事故って?」 「直も空も子供の頃両親が事故に遭って亡くなってる。どうやらそれも 同時刻だったみたいで、二人は一緒にいたんじゃないかと僕は推察してる、 その後施設に入所したけれど、空だけがすぐ引き取られて施設を出てる」 「直は?」 「直は高校生になってから施設を出たようなんだ。ただその施設は今は無くなってる ようで、詳しくはわからない」 「あの二人離れ離れになってた期間があるんだな」 『子供ではどうしようもなかったのでしょうね』 しみじみと佐為に言われ、ヒカルは頷いた。 「今回の事と言い、二人の絆つうか強さを感じるよな」 「ああ、だが、この情報も鵜呑みするわけにいかないだろう。これだけ事故に 巻き込まれてるなら何かあるとみていい」 「アキラは組織への連絡どうするつもりだ?」 「いつまでも隠し通せることじゃない。ただあと、2,3日は猶予があると思うんだ」 「わかった。とりあえず約束の時間も迫ってるし、夕飯の準備しようぜ」 ヒカルとアキラがテントに戻ると待ち合わせよりも随分早く、空と直が来ていた。 アキラは笑って二人を迎え入れた。 「早いね。まだ何もしてないんだ」 そうすると空が『違う違う』と顔を横に振った。 「お前ら仕事もあって忙しいだろうし、オレたち何か手伝えないかと思ってさ」 「こんなものしかなかったけど、捕ってきたから」 直が持っていた籠にはアサリと小エビが入っており、粋がよく 踊っていた。 「おっ、これ料理に使おうぜ」 アキラとあらかじめメニューは決めていたが、せっかくだし新鮮な食材の方がいい。 「アキラ、船にトマト缶があったよな。あれで味付けたらどうだろう?」 「それをパスタにしようか。船に取りに行ってくる」 直が思わずうれしそうに微笑んだのを見て、ヒカルはホッとする。 「オレも一緒に行っていいか?」 空に聞かれ、アキラは『もちろん』と答えたが佐為は顔を小さく横に振った。 アキラとヒカル、『分散させることで何かするつもりかもしれない』とヒカルに耳打ちする。 ヒカルは小さく頷き佐為にアキラたちに付いてくようジェスチャーした。 ヒカルだって直と二人だと何かあるかもしれないが、空の方が油断ならない気がしたのだ。 空とアキラと(佐為)を見送り、直と二人になる。。 「オレらはその間下ごしらえでもするか」 「そうだね」 石で固定したカセットコンロに鍋を置き直が火を掛ける。その横顔に見惚れそうに なり、心の中でヒカルは自身に叱咤した。 食材の下準備もして、手持無沙汰になるとお互い話すこともなく、なんとなく気まずい 雰囲気にもそわそわする。 「あの、ヒカルくんに聞いてもいいかな?」 唐突すぎるほど突然に、直に話し掛けられドキっとした。 「ああ、なんだ?」 少し素っ気なくなったのは、見惚れてしまいそうになったことへの自分への 言い訳のようだった。 「ヒカルくんとアキラくんとはどういう関係なのかな?って」 「どういうって?」 「空とね、恋人じゃないのかなって話してたんだ」 ヒカルは思わず吹き出した。 まさかそんな事を話題にされていたとは思ってもみなかったのだ。 「いや、オレたちオ・・・いや、そういうんじゃ全然ねえから」 『男同士だぜ』と、もう少しで口にしそうになって辞めたのは空と直が そうだからだ。彼らの想いをヒカルが否定するわけにいかない。 思わず語尾を強調して、ヒカルは顔が赤くなるのを感じた。 「えっ?ああそうなんだ。変なこと聞いてごめん」 「いや、構わねえけど」 せっかく会話が出来たので繋げる話題はないかとヒカルは探す。 「そういや、直と空は付き合ってるんだろ?いつ頃からなんだ」 ヒカルが聞くと直は顔を真っ赤に染めた。ヒカルにまで伝染しそうなくらい 耳まで真っ赤にだ。 「そういうのじゃないから」 心の中で『嘘だな』と突っ込みを入れヒカルは思わず苦笑いした。 「い、今、笑っただろ?」 ますます顔を染めた直が可愛いと思いヒカルは押さえていた笑みがこらえきれず 口から洩れた。 「ごめん、ごめん」 「だから違うんだって!!」 ぽかぽかヒカルの腕を叩いた直の手は全く痛くはないが、 必死のようだった。 「直って結構意地っ張りって言われねえ?」 「うっ」 言葉を無くした直に図星だな、とヒカルは思わず笑った。 「わかったけどさ、でも空の事好きなんだろ?」 「うん」 少し間のあったその声は蚊の鳴くような声であった。 「ちょっと羨ましいな」 「オレが?」 不思議そうに聞き返す直にヒカルは笑った。 「空が羨ましいっていうか。直みたいに可愛い恋人がいるのがさ。 俺なんて付き合った人もねえんだぜ?」 言ってしまってから陳腐な口説き文句のような気がして、心の中で 苦笑いする。 ホント付きまとわれるのは幽霊ぐらいだと自笑ぎみに『うんうん』と 頷く。 「そうなんだ。オレはてっきりヒカルくんはアキラくんの事が好きなん じゃないかと思ったけど」 またその話題かとヒカルは小さくため息を吐いた。 「ないないって。けどあいつのこと信頼してるんだぜ? オレのパートナーだしな」 拘置所でも、この島でも、ヒカルが背を預けれれるのはアキラだけだ。 口論することはままあっても、オレを佐為をよく理解してくれてるし、理解してくれようと 努力もしてる。 「ヒカルくんとアキラくんもいろんなことがあってここにいるんだね」 しみじみ言われた直の言葉が染みていく。 佐為が心配したような、事は何もなかった。 →暗闇の中で12話へ 全く予想にも、予定にもしていなかった話を描いてしまった(苦笑) 『すきしょ!』を知らない人にもわかるようにちょっと空と直の生い立ちなんかも プラスしてみたり、 思い切り自己満足でも描いてて楽しかったから、良しデス。
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