ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 

暗闇の中で6


 


翌日ヒカルとアキラは日が明けきらぬうちから、絶壁にそびえ立つ施設にむかった。
佐為の後を追い廃墟の建物の中、そこで足を止める。


「佐為ここなのか?」

『ここのはずなのですが』

佐為は困ったようにその場に立ち尽くす。

「まさか道が見当たらないのか?」

「見当たりません」

「壁は、抜けられるだろ?」

そう言って佐為は壁に消えて行ったが、またすぐ戻っきて首を横にふる。

「佐為確かにあったんだよな?」

『当たり前でしょう。そんなウソ私がつくと思いますか?』

「思ってるわけないだろ。そういう事じゃなくて!!」

ヒカルと佐為の言い争いに、アキラが口を挟んだ。

「地下に続く道が見当たらないのか?」

「そうらしい」

『確かにここにあったのに」

佐為は顔と声を震わせた。
佐為が憑いて長いが、今までこんな佐為をヒカルは見たことがない。

「佐為オレはお前を信じてるぜ?」

「僕も信じるよ」

アキラにも言われ取り乱した佐為がようやく顔をあげた。

「ヒカル、この壁下に擦れた跡があるんだ」

アキラに言われ、ヒカルは『ああっ』と気づく。
よく見なければわからないほどのスレだ。

アキラは壁に触れたり、トントンと叩く。入念にそれを繰り返し
やがて深いため息を吐いた。

「多分横に擦れて出来たものじゃないだろうか?
ただ壁の仕組みが今はわからない。継ぎ目らしいものも見当たらないし。
時間帯によって向こうに繋がるとか、何かその条件があるとは考えられないだろうか?」

「そうだな。少なくとも組織が把握出来なかったのだし。
佐為が昨朝来た時は気づかなかったなら。そういう事も考えられるよな」

「君はここで張り込みをする事になっても大丈夫?」

「夜もって事だよな」

むしろヒカルは言ってから、日が暮れてからの可能性が高いだろうと思った。






組織には何が起こるかわからないから、とアキラが報告しその時に備える。
そうしてその時が来たのは、日が暮れてからだった。

「ヒカル、アキラくん道が見えます!!」

佐為の報告を受け向かった施設内はすでに真っ暗で懐中電灯を持つ手が震えた。

ヒカルが佐為が指さした壁を軽く押すと、それは前に浮きあがり次に横にギギギっ
と開いた。
そうしてその奥にポッカリと開いた本物の闇が待ち受けていた。
ヒカルはその闇に吸い込まれそうで、思わず目を逸らした。


「これどうなってるんだ?」

「暗すぎてわからないな」

手に持つ電灯で辺りを照らしたが、アキラにもわからないらしかった。

「佐為、お前はわかるか?」

『この扉の仕組みは私にもわかりません。でも中の様子は見えます。
私が先に行って危険がないか見てきます。それまで待ってて下さい』

「わかった。頼む」

佐為が行ってからアキラが電灯を持つ手と反対のヒカルの左手を握った。

「ごめん、オレ震えてる」

「僕も震えてるよ」

確かに僅かに握ったアキラの手も震えていた。
この状況で恐怖を感じない方がおかしい。

佐為が戻ってくるまでの長く感じた時間、ヒカルはアキラの温かさだけを感じていた。
しばらくして戻ってきた佐為の声は明るかった。

『遅くなりました!!状況は昨夜と同じです。棺の中も見ましたが、何もありませんでした』

『棺の中も見たんだな」

『はい。二人に、もしものことがあってはいけないので、その奥も確かめてきました」

佐為が念入りに調べてくれた事がヒカルにもわかった。

「そっか、ありがとうな、佐為!」



アキラに佐為の報告を伝えた後、意を決しアキラと闇に足を入れる。



『ズブッ』と体が冷たい闇に沈みこんだ。
アキラと繋いだ手だけが、温かさを纏っていた。

「アキラ!!」

繋いだまま少し先を行くアキラを呼び止める。

「これ以上はやめた方がいい?」

「そうじゃなくてさ」

少し言葉を選ぶ。

「手を繋いでてくれるか?お前と一緒だとさ。飲み込まれないから」

「わかった」

アキラは頷き、繋いだ手が離れないようにと、ヒカルの指にそれを絡めた。
照れ臭さに苦笑し、その照れ臭ささのおかげで、恐怖心も和らいだ。
そうして一歩、また一歩と闇に沈む。

ふと、アキラには陰を陽に変える力があるのではないかと、ヒカルは思う。
本人も気づいていないだろうが。

アキラと絡めた指だけが闇に飲まれないよう、心を灯していた。



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