ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 

暗闇の中で5


 


ヒカルは寝すぎたような気がして目を開けた。
横になったまま、高い窓から少し青い空が見えた。
また流れ込んできた感覚はデジャブーのようだった。

「腰痛え」

腰の痛みに顔を顰め大きく伸びをすると、近くにいたのだろうアキラが部屋を覗いだ。

「アキラ?ごめん、オレ結構寝てたんじゃねえ?」

腕時計に目を落とし4時前にもなっていたことにヒカルは驚く。
6時間以上も寝ていたことに
なる。

「うわ!!またアキラに一人で仕事させたんじゃねえ?」

アキラはそれに苦笑した。

「いや、出来る範囲だけだ。
それに僕は先に食事をしてしまったんだ。すまない」

4時にもなれば当然だった。
申し訳なさそうにいうアキラにヒカルは首を横に振った。

「そんなのいいって」

「君は?体調がもういいなら、少しでも食べないか?」

確かに空腹は感じたが、ここで食べる気分にはならなかった。

「ごめん、お腹は減ってるんだけど、ここはちょっとな」

「じゃあ今日は戻ろうか」

「オレ何もしてねえけどな」

「そんなことはない。ここにひと月ぐらい前まで二人が監禁されていたのだろう?
君でなければ分からかったことだ」

「お前だってわかったじゃねえか?」

「僕のは後付けだ」

その後付けのおかげで確証されたのだとヒカルは思う。

「・・にしても佐為はどうした?」

ヒカルが部屋を見回すとアキラも見えないだろうに部屋を見回した。

「佐為はここにいないの?」

「ああ、まあでもあいつは勝手に戻ってくるか」

「だったら戻ろう。6時過ぎには日が沈んでしまうし」

「そうだな」

この島では日が沈むとほとんど何もできなかった。






青ざめた佐為がテントに戻ってきたのはヒカルとアキラが夕飯も済ませ
日も落ちようとしていた頃だった。

『二人とも、心して下さい!!』

「佐為お前どうした?何かひょっとしてわかったのか?」

ヒカルは佐為の慌てように顔を顰めた。
その様子にアキラもただ事じゃないと感じ取ったようだった。

「ヒカル佐為は何って?」

「今から聴くところなんだ。心して欲しいって」

アキラは頷き静かに腰を下ろした。

「それで佐為どうした?」

『あの施設地下に降りていく隠し通路と階段があったのです』

「それは組織も把握してないものか?」

『少なくとも送られてきた資料にはなかったものです。それに私が昨日、そして
今朝ヒカルたちと行ったときにも気づかなかったのです。
何度もその通路を行ったのに。でも夕刻ぽっかりとその入り口が開いたのです』

「オレたちに見える場所にあるのか?」

『いえ、一目ではそれと気づく場所ではありません』

「で、佐為はその先に行ってみたんだな?」

佐為は静かに頷き、ヒカルは息を飲んだ。

『その奥は病院に似たような感じでしょうか?
大きなベッドに台に鎖、薬品のようなものが棚にずらっと並んでいました。
でも地下室でとても暗く、私は嗅覚があるわけじゃありませんが、焦げ臭いと
嫌な感覚がしてきました』

『そういった部屋が並び、また奥に地下に続く階段があって、下りていったのですが・・・。
そこで見たんです。大きな棺を』

佐為の声は恐怖に震えていた。『お化けのくせに!!』と言いたいところだが、ヒカルだって
そんな場所でそんなものを見たらきっと恐怖で震えあがるだろう。

「中をひょっとして見たのか?」

佐為は物を素通りすることが出来る。中を開けることができなくても中身を見ることは
可能なはずだ。

『さすがに出来ませんでした。中にもし何かいたら、
想像しただけで恐ろしくて、恐ろしくて、どうしても見ることが出来なくて、その先も行くことが
できませんでした。ヒカル、アキラくんごめんなさい」

「佐為謝らなくていいって。けどその奥にもまだ何かあったっていうことなのか?」

顔を歪ませ佐為は頷いた。

「佐為はこの島にまだ奴らがいる可能性、あると思うか?」

『あり得ることだと思います』

「そうか、わかった」

静かにヒカルを見守っていたアキラは二人の会話からある程度は覚悟していたのだろう。
ヒカルがアキラに向き合うとアキラは小さく頷いた。

「あの施設、組織も把握していない地下へと続く階段と部屋があるんだ。
その奥に大きな棺があって、棺の中は佐為もわからないって」

かい摘んだのは、アキラにまず真実だけ伝える必要があった為だ。

「ヴァンパアがまだこの島にいる可能性があるんだな?」

「佐為はその可能性があると言ってる」

二人は口をつぐんだ。

まず二人の頭に過ったのはこの島からの撤退だった。
二人は今回調査の為に訪れてる。ヴァンパイアと対峙するだけの力は
持ち合わせていない。組織に連絡するにも無人島では、どうしようもない。

ただこれはまだ可能性でしかない。
佐為は直接見たわけではないのだから。


撤退か、続行か?
沈黙を破ったのはヒカルだった。

「アキラ、オレあの施設すげえ嫌な感じがするんだ」

アキラはもうヒカルが撤退しようというのだろうと思っていた。
それもやむ得ないだろう。

「けどさ、誰かがオレに何か伝えようとしてる気がするんだ。だからさ、
もう少しでいい。オレはこの島に残りたいんだ」

アキラは驚きヒカルを見る。

「でもそれがオレの我儘なら・・」

「いや」

アキラは大きく首を横に振った。

「君の直感っていうのか・・・。僕にはわからないけれど、その感覚は大事な
ものだと思う。だから君がそう思うなら残ろう」

「いいのか?」

「ああ、君1人に背負わせないよ」

ヒカルに気負わせないように、と。そういったアキラは本当に
アキラらしい気がしてヒカルは照れくなって苦笑した。



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核心に迫ってきたかな・・?