ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 暗闇の中で4
佐為が案内してくれたのは建物の裏口だった。
表は物が溢れていて入るのが大変という。 アキラと手をつないだままだったが、裏口は壊されておりそのまま入ることが出来た。 裏口からは倉庫のような部屋に繋がっており、その先は 長い廊下と両脇に扉の向こう小部屋があるのだろう。 ヒカルがなるほど、と思う。 佐為が言う通り確かに拘留所の雰囲気と似てる。 アキラが立ち止まり、少し困ったようにヒカルを見る。 ヒカルは焦る。まだ手をつないだままだったのだ。 「悪い」 慌てて自ら手を解く。 胸がドキドキしたが、先ほどのような恐怖はない。 「大丈夫?」 微笑んだアキラにヒカルは苦笑する。 「ああ、まあ、見ればわかるだろ」 照れ隠しもあったが、足をひっぱるわけにいかない。 アキラとヒカルは調査の為手袋をして、作業着を羽織る。 端から部屋を一つずつ開けアキラは入念に調べる。 アキラを邪魔しないように、ヒカルは資料を照らし合わせる。 佐為は先回りして、危険がないか部屋を見て回りまた戻ってくる。 何部屋か回ってアキラがヒカルに言った。 「やはりこの施設は人を監禁していたか、そういうことが行われていたのだろう」 「佐為が言ってた事と一致するんだな」 「ああ、ここの部屋の大半は外からの鍵がかかるが内側からは、干渉できない。 それに、部屋の隅やくぼみに監視用のモニターが置かれていたようだ」 そういってアキラは壁の窪みを示す。半壊した壁には何もない。 が窪みの奥や角に配線の跡らしきものがある。 ほとんどの部屋の扉は壊されていたし、荒れた部屋の中よくそんなことに気づいたな、と 思う。 「君は?佐為の方は他に何かわかったことはない」 「悪い。今のところは」 アキラに首を振り、また部屋を進む。 そうしてコの字型の1角の部屋でヒカルは足を止めた。 「この部屋?」 足を踏み入れた瞬間、何か感じたのだ。 足を止めたヒカルに先に入室していたアキラが振り返る。 「どうした?」 傍に駆け寄ったアキラにヒカルは『大丈夫っ』と手の平でアキラを制す。 今何か感じたのだ。いや、確かに何か見えたのだ。 「二人いる!!」 アキラは突然のヒカルの言動にも物怖じしなかった。 「この部屋に?」 「男と女」 背の高いシルエットと髪の長い・・・女性? 女性を意識した瞬間思考がダブる。 「いや、ごめん。どっちも男かも」 「ここで何をしてたんだ?」 「身を寄せ合ってる・・・」 そこで思念のような映像が途切れた。 「ごめん、それ以上は、佐為お前は感じなかったか?」 佐為は『う~ん』、と腕を組む。 『そこまではっきり透えませんが、でも長い髪が落ちていますね』 佐為に指摘され、簡易のベッドの足元に転がっていた毛布に確かに長い髪が 残っていた。紫がかった髪は女性のものともとれる。 アキラはその毛を慎重に共栓試験管に保管した。 「アキラの方は?何かわからねえ?」 「この部屋に二人いたのは確かだと思う。異なる手垢が壁やベッドに残って る。それにここのトイレもベッドも最近まで使用されていたのだと思う。 ベッドの裏に何本もの縦傷が残っているんだけど。もし監禁されて いたとすれば月日を数えていたのではないかと思う」 ヒカルはアキラの洞察力に驚くしかなかった。 「まさかあいつらが捕食の為に監禁してたとか?」 そう言ったもののヒカルは何かが違うような気がした。 頭がぐるぐるしだす。そうして気づいたときには床と天井が水平線上に なっていた。まずいっと咄嗟に床に膝をつく。 「ヒカル?!」 傍にいたアキラが急いでヒカルの肩を抱く。 「悪い」 『ヒカル横になった方がいいです!!』 佐為はヒカルの変調を感じて叫んだ。 『アキラくん、ベッドにヒカルを横にさせて下さい』 佐為はアキラに聞こえなくても話し掛けた。 壁に凭れ掛かり、佐為の言葉をアキラに伝えるとベッドの埃を払い、持っていた タオルと作業着を脱いでパイプのベッドに敷いてくれた。 アキラに支えられヒカルはベッドに倒れこんだ。 「ごめん、これじゃオレ足手まといだな」 「そんなことはない。僕にはわからないけど、強い思念を受けてしまったんじゃないのか?」 『そうだと思います』 そう応えたのは佐為でヒカルは、ぐるぐるする目を腕で覆ってつぶやいた。 「佐為もそうだろうって」 「早朝からの調査で緊張もあっただろう。結果もまとめたいし、 今日はこれぐらいで、落ち着いたら戻ろう」 返事をするのも億劫でヒカルは小さく頷く。 やけに硬いベッドだと思ったが、急速に深く思考が落ちていった。 赤い空、赤い壁・・・嫌な色だった。 『助けて!!』と助けを求める幼い子供の声が建物に反響する。 血に染まった手に怯える少年は炎を映す真っ赤な瞳をしていた。 →暗闇の中で5話へ
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