ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 

暗闇の中で3

 


佐為の提案で島の小高い場所にテントと張り蚊帳を下ろす。
そこまで行くと、調査書の施設の一部が見えた。

何もないこの島と人口な鉄筋コンクリートがひどく似合わない。
ひょっとしたら、雨風はあの施設でしのげるかもしれないが、できれば
遠慮しておきたかった。

夕飯はアキラが船で調理したものを運んでくれ、その間ヒカルがテントに
蚊帳と寝袋を運んだ。
日が落ちる前に夕食を食べたことなど、子供の頃から記憶にない。

夜の帳が降りると何もかもが静かで本当に何もすることがなく
佐為が先回りして施設を見に行ってくれた報告をアキラと聞いた。

「部屋は地下も含め30ぐらいか」

それは報告書の内容どおりだった。

『ええ、人外のものが一人で使用していたと思えませんでしたね」

「身をかくすために、家族とか集団で生活してたってこと?」

『それには少し違和感がありますね。もっと何か嫌な感じです。
拘留所の雰囲気と似ていたというか」

報告書の写真で拘留所と似ているという雰囲気はヒカルにも想像できた。

「悪霊的なものがいたのか?」

『いえ、獣程度の霊しかなくて会話になりませんでしたが、
痛々しい感覚というか、悍ましいという感覚だけがあちこち残っていて』

「バンパイアがここに連れ込んで人を襲ってたとかじゃねえの?」

『だとするともっと人の霊があるはずです」

「そうなると何のためにここにあいつらがいたのか。さっぱりだな」

それまで会話を聞いていた(といっても佐為の声はアキラには
聞こえないのだが)アキラが察して口を挟む。

「自分たちで見てみないとわからないこともあるだろう。佐為に危険がないか
先にみてもらっただけでも良かったと思う。明日は早朝から行ってみよう」

「ああ、そうだな」

寝袋に包まり横になる。
充電式のライトを消すとそこは暗闇で、波の音とやや距離のあるアキラの静かな
吐息だけだった。
佐為の様子はわからないが、今はここにいないだろう。
ややあって、ヒカルはアキラに聞くまでもないことを口にした。


「もう寝たのか?」

「どうかしたのか?」

「いや、なんか変な感じがしてさ」

アキラは返事を返さなくて、ヒカルはそれでもよかった。

「この世界に二人だけになっちまったようなさ」

言ってからヒカルは何言ってんだと苦笑した。

「わりい、オレ何言ってんだか」

背を向けていたアキラが振り返る

「わかるような気がするよ。でも不思議と今不安は感じてない」

「オレもお前がいるから。安心してる」

暗闇でもアキラが少し困ったように笑ったのがわかる。
ヒカルも自分で照れくさくなって、顔が染まる。

それからは本当に静かで、ヒカルは安堵だけがあった。





翌日は昨夜が早かったためか、日の出とともに自然と目が覚めた。
アキラと佐為とともに絶壁の岩と草の中の施設に向かう。
近づくたび、見えない大きなプレッシャーも近づいてくるようであった。
すくんだ足が自然に止まる。

「どうかした?」

「アキラは何も感じねえ?」

「すまない、僕は霊的なものはわからないから」

「ちょっとそういうのとは違ってて」

ヒカルはこの時になって佐為が言っていたことがわかるような気がした。
建物はもうほんの目の前だ。

「僕だけで行った方がいい?」

「いや、オレも行く。ただ・・・」

ヒカルが躊躇してると佐為が言った。

『アキラくんに手をつないでもらったらどうですか?』

佐為の提案にヒカルは思わず声を上げた。

「バカ、それは恥ずいだろ!!」

『そうでしょうか?ここには二人しかいないのですよ?誰も見てませんし。
まあ私を入れるなら3人ですが』

ヒカルは思わずアキラの顔を見て、ますます照れくさくなって頬を染めた。

「佐為は何って?」

「あっ、いや、その・・・」

アキラは何も言わずヒカルの手を握りしめた。温かい少し汗ばんだ手のひらに
ヒカルの手のひらも汗ばんだ気がした。
胸がトクンと高くなる。

「ちょ、何でわかったんだよ!!」

「何となく」

苦笑するアキラにますます焦る。

「これで歩けるだろうか?」

どこを見ていいかわからず視線をさまよわせ頷く。
だが、先ほどの嫌な感じはすっと引いている。


人と触れ合うという事がこんなにも安心するのだとヒカルは初めて知った。



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あまり進まずで、すみませんm(__)m