ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 人ならざるもの6 「和谷看守?」
オレの異常に気づいて見回りに来たのか?アキラは? 和谷は後ろ手で房の扉を閉める。 「そうか、お前囚人じゃなかったのか、『塔矢アキラも潜り』だよな? どうりでおかしいと思ったんだ」 乾いた声で、押し殺すような声だった。 その一言でヒカルは伊角と繋がり、ここに導いていたのは和谷なのだと、理解した。 「お前がここに導いてたんだな!!」 「違う!!」 そう叫んだのは伊角の方だった。 「オレが この看守を操っていたんだ」 「何言ってんだ。オレは操られてなんかないさ」 言い争うように言った和谷と伊角をヒカルは見比べた。 二人とも怒りとも、悲しみともわからない震えを纏っていた。 押し殺した声を震わせ和谷は口を開いた。 「オレが言い出したんだ。囚人なら、人の命を奪った死刑囚なんだ。どうせ明日には消える命 なら伊角さんの糧になってもいいじゃないか。むしろその方が楽に・・・」 「和谷!!」 伊角はもういいと言わんばかりに首を横に振った。 ヒカルは堂々巡りの答えのない自問をまたここで繰り返す。 何が正しくて、何が間違っているのか? そんな事わかってたはずなのに、それでもこの二人を見ていると心が空しさに駆られる。 ひょっとしたらこれだって演技かもしれないというのに。 『アキラくんが来ます!!』 佐為のその声に励まされるように顔を上げると、独房の扉が開いた。 「すまない。遅くなった」 アキラの声に顔にヒカルはなぜか涙が出そうになった。 「塔矢?お前は眠ったはずじゃあ!!」 和谷は顔を歪ませた。 「おかげさまで他の看守を眠らせる手間が省けましたよ」 アキラはそのまま伊角と対峙するように向かい、まっすぐに伊角の瞳を見上げた。 ヒカルにはそれがとても勇気ある行動に思えた。ヴァンパイアと目を合わせるという事は リスクが伴う。気を負えば操られる。それをアキラは迷わずやってのけたのだ。 「まもなく組織がここに来ます。投降してください」 「塔矢頼む、伊角さんを見逃してやって欲しい。オレが言えることじゃねえのはわかってる。 ・・・オレはどうなってもいい。だから」 「和谷何言ってるんだ。オレこそもう短いんだ。悔いはないさ。 君たちがハンターならいう通りにしよう。だから和谷は、無関係で何の罪もない」 「それは、僕らが決めることじゃない」 アキラは冷たくもそう言い放った。 そんなアキラの背にヒカルは絞り出すように言った。 「アキラ・・・、こいつら見逃してやってくれないか」 「君は何を言ってるんだ!!」 『そうですよ。ヒカル』 佐為にまで叱咤され、ひるみそうになる。 「ひょっとして、君も操られたのか?」 「違えよ。けどさ、伊角さんがもう長くないのは本当だ」 「どうしてそんな事わかる?佐為の助言なのか!!」 「佐為はそんなこと言わねえよ。けど存在そのものが、もう・・・」 『ヒカルにそんな事わかるのですか!!』 佐為に怒鳴られ、ヒカルは首を横に振った。 少し潤んだヒカルの瞳にはその姿はもう形を留めるので精いっぱいの伊角だった。 「オレだってそれぐらいわかるさ、そうなんだろ、佐為!!」 どうしてそんなことがわかるのかなんてヒカルにもわからない。でも今は感じるのだ。 佐為を見ると視線を逸らし床へと落とす。 「君はやっぱり、普通の人間ではなかったんだな」 伊角は寂しそうに微笑んだ。 その姿が儚くて、本当にもう消えてしまいそうだとヒカルは思う。 「わざわざオレに会うため危険を冒してここに来るなんて変だろ?それにさ、 オレに会うのは口実で看守の和谷に会いに来たんだろ?」 和谷がはっとして伊角を見る。 「そんなにもうダメなのか?」 何も返さない伊角に、和谷の表情は崩れ落ちた。 アキラは拳を握りしめ、堪えるように目をつぶった。 「組織がここに来るまでにはもう少しかかるだろう。 すぐに立ち去れ、次に僕とヒカルの前に現れることがあったときは容赦しない!!」 「ありがとう」 和谷は絞り出すように言って伊角を伴い房を出た。 ややあってヒカルは、二人を追うように房を出て足を止めた。 薄明りの長く真っ白な廊下に、消えていく二人の姿があった。 組織の手がここに向かってる。 逃げ切れるかわからない。けれど願わくば・・・。 尽きようとしている命を大切な人と過ごして欲しい。 背後に人の気配がして、それがアキラだとわかる。 「ごめんな。アキラ」 ヒカルは振り向かずそういった。 少しほっとした気持ちは直接手を下さなくてよかったからだろうか? 無差別な殺人犯ならば躊躇なく殺せただろうか? それでもきっとヒカルもアキラも傷つくだろう。 今は何も感じなくなることの方が怖い、と思う。 伊角を知りヴァンパイアもまた犠牲者なのだと知った。 「2度目はないから」 溢れてきた涙に堪えてただ頷くとアキラがヒカルの肩に手を置いた。 それがアキラのやさしさなのだと思う。 「ありがとう アキラ・・・。」 やがて拘留所が騒がしくなる。 オレたちの初めてのミッションは終わったのだ。 〜人ならざる者終わり →3章 暗闇の中で1 ちょいっと一服 相変わらずの言葉足らずでございますが、第2章になる「人ならざるもの」は終わりです。 何度か書いてますが、倫理観などは求めないようお願いします。とは言え迷いながら進ん いく二人は描いて行こうと思ってますが。 次回から「暗闇の中で」 「すきしょ」の夜とらん 空と直の登場です。 久しぶりにすきしょ!キャラを存分に描きたいな〜。 ※主人公はヒカルとアキラです(^^ 緋色
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