ひかる茜雲


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その夜の事、ヒカルの元へ布団一式を携えた筒井が入ってきた。

今日は芦原でなく、筒井が夜付き添ってくれるのだろうか?
それに申し訳なく思っていると筒井の背後から不意に声がした。


「今夜はオレがお前に付き添う」

ヒカルは緒方の声に驚いた。
緒方はすでに寝間に着替えていて
『滅相もない』とすぐ言い返すことも出来ない。

筆を取りヒカルが書く前に、筒井が部屋にさっさと緒方の布団を敷
き終えた。
しかもそれはヒカルの布団に並べるように敷かれ、それにも狼狽えた。

「筒井、今日はもういいぞ」

筒井は心得ていたようで、ヒカルに目だけで合図を送ると「失礼します」と
部屋を退出していった。

このようなむさ苦しく、狭い部屋に緒方が寝間を取るなど
全く似つかわしくない。
他の者が知ったら緒方も苦言されるだろう。もっとも緒方がそんな事を
気にするとは思えないが。
現に緒方は何を誰に言われても許せる限りヒカルの元に通っていた。

ヒカルは罪の意識や、申し訳なさに憂い、アキラへの想いが拍車を掛けた。

「顔色が悪いな。また何かよからぬ事を考えていただろう」

緒方はそう言ってヒカルの頭を撫でた。

「最近はそうだな。放っておくとすぐ煮詰まって余計な事を考える。
全くらしくない」

緒方の指摘通りで
ここに来るまでヒカルはあまり深く考える方ではなかった。ましてくよくよ
と同じ事をめぐらすなどなかった。

緒方に頭を撫でられながらヒカルは目を伏せた。
緒方はヒカルを抱えるように抱いた。
それに抵抗しようと構えたが緒方の腕は優しくも、強引であった。

「あっ」

微かに声にならない声を挙げ、拒否を示したが緒方はそれ以上する
つもりはないらしかった。

「オレの胸では眠れないか?」

滅相もないと首を振ると緒方が声を上げて笑った。

「贅沢だな。このオレの胸では満足しないか」

そう言う意味ではないと必死でゼスチャーを試みるが緒方は笑って取り
合わない。
そうして部屋の灯りを落とすとヒカルを抱きしめたまま布団に転がった。

真っ暗で、音もない部屋に緒方の心の臓の音だけがトクントクンと
響いていた。
離れたいのに、離れられない心地よさに引き込まれる。

先ほど余計なことは考えるなと言われたばかりなのに、ヒカルが今想うのはアキラで、
自己嫌悪が付きまとい、それはあの日の夜を鮮明に思い出させた。

「もう2度とあんなマネはするな」

緒方に今考えていることを言い当てられ、ヒカルは微かに震えた。
ややあって緒方はそれを口にした。

「・・・塔矢アキラは諦めろ」

微かだった震えが体中へと伝染していくようだった。
だが緒方も震えていたことなどヒカルは知らなかった。

不意にヒカルの顔に何かが伝ったような気がした。
ヒカルは自分を抱きしめ頬を寄せる緒方は泣いているように見えた。

「お前があいつを忘れたらオレは咎めはせん。塔矢アキラも
お前を忘れると言った」

アキラがここに来た?
緒方はアキラに会いそしてアキラがそう言った?

緒方に問う事も出来ず、ヒカルは心の中でもう1度緒方が言った事を
繰り返した。
『オレが忘れたらアキラは咎めがない・・・。アキラもオレを忘れる・・・と言った』

わなわなと溢れだしそうになる涙に必死に耐えようとしたが無理だった。

緒方はヒカルを抱きしめる手に力を込め、寝間に指を滑らせた。
回復に向かっていると言えまだ予断ないヒカルを抱く事には多少の抵抗があった。

だが緒方はヒカルの容態は精神的なものがそのすべてを左右してる・・・と
そう結論づけた。
抑えようとしていた独占欲も欲望も緒方はヒカルの涙ですべて
消し飛んだのだ。

今日あったあの男の顔も声も態度も何もかもが緒方は気に食わなかった。
許すことなど絶対に出来ない。

緒方が唇に口づけると痛みなのか、抵抗なのかヒカルはますます体を
震わせた。構わず緒方はヒカルの体に唇を指を滑らせた。

ヒカルが感じる箇所ばかりに唇と指を落とし直接は刺激を与えなかった。
少しずつ変化していくヒカルを楽しみながら
ヒカルが自分から求めるまで緒方は根気よく愛撫を続けた。

緒方との行為で急速に目覚めた性にヒカルは翻弄される。
ヒカルがようやく緒方を求めた時、緒方はヒカルに問うた。

「あいつを忘れるか?」

一瞬の間の後、小さく頷いたヒカルは体中、緒方に染まっていた。

緒方はほくそ笑んだ。
見せつけてやりたい程だ。




だがヒカルの中に欲望を叩きだした緒方の心には空しさがあった。


「それでも、なぜあいつなのか」・・・と。

緒方は胸の隙間を埋めるようにヒカルを抱きしめた。
お前はオレのモノだと示すように。



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事には至らないで置こうと思っていたんですが。
なぜか・・・こういう事になってしまいました(汗)あはは・・・つうかお話進んでない(滝汗)





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