2重らせん 18





     
「ほら、」

アキラはヒカルからわざわざ離れて見せた。
ヒカルは困って視線をさ迷わせた。

「えっと・・・、」

ヒカルが助けを求めるようにアキラを見たが微かに笑っただけだった。

「あああ、もう知らねえからな、」

照れを誤魔化すように大きな声をあげてヒカルはいったんベッドから降りた。
その様子をアキラが追う。


「じろじろ見んなよ。」

ヒカルが顔をますます頬を染めるとアキラが声を上げて笑った。

「そんなに意識されると期待してしまうのだけど。それでどうやって僕
を誘惑するの?」



ヒカルはアキラの前にしゃがみこむと服の上からアキラ自身に触れた。
アキラにとっては予想外の行動だったがヒカルのやりたいようにさせた。

そのうち口と手を使いだすとそのじれったい愛撫に堪らなくなってアキラは
ヒカルに声をかけた。

「直接してくれないか、」

アキラが感じていることを察してヒカルはうなづいてベルトに手をかけた。

「アキラ気持ちいい?」

「ああ。でもこんなことを君に強要した人がいるのだろう?
ひどく嫉妬する。殺したいほどだ」

ヒカルは含みながら笑った。

「物騒だな。お前がしろっていったんだろう。」

「僕は誘惑するように言っただけだ。」

アキラは我慢できぬとばかりにヒカルを引っぺがした。

「アキラ?」

「すまない。優しくできそうにない」

アキラの本音に思わずヒカルが苦笑した。

「そんなのする必要ない。」

「ヒカル・・・」

アキラはヒカルに口付けるとそのままベッドになだれ込んだ。

言葉通りアキラは激しかった。
何度も噛み付かれてヒカルはその痛みで甲高い声を何度も漏らした。


噛み付かれた場所が緒方が痕を残した場所だとヒカルが気づいたのは
後のことだった。





翻弄されもう指ひとつだって動かすことができそうにない。
ヒカルがベッドに沈み込んだ

「ごめん。オレもう・・。」

「動けそうにない?」

小さくうなづくとアキラが微かにわらったような気がした。

「お前ホント遠慮なしだよな。」

「君が優しくしなくていいって言ったんだろう。」

「言ったけど・・・。」

虚ろ虚ろなヒカルにアキラが問いかける。

「眠い?」

「ん、ひょっとしてオレまだ薬が利いてる?ぼっとしてる」

アキラはヒカルの瞳に口付けた。

「今は何も考えずに眠ったらいい。」

「うん。」

「おやすみ」

アキラの声が心地よく心に響く。まるで何も心配いらないと言うように。
意識が遠のく中アキラの声を聞いた。

『僕が全ての呪縛を断ち切ってくる。君はもう何ものにも縛られることはない。
僕だけのものだ。』


アキラは眠るヒカルにそっと口付けた。









随分長い間使っていなかった認証カードと暗証番号を入れ施設の
奥へと進む。


両側真っ白な壁がどこまでも続いていた。
昔とかわらない。
アキラは子供の頃からこの威圧的な空間がこの施設が
好きにはなれなかった。


アキラは佐為の部屋に入ると眠り続ける佐為に話しかけた。

「ようやく貴方との約束を果たしに来ました。」

『待っていましたよ。』

言葉でなくつむがれた意思にアキラはうなづいた。

「本当にいいのですか?」

『ええ、どうかヒカルをお願いします』

佐為につながれていた生命線をアキラは握った。
ずっと覚悟を決めていたはずだった。
それでもヒカルのことを思うと決断が鈍り指が震えだす。


『ごめんなさい。優しい貴方にこんな辛いことをお願いして。
でも大丈夫です。』

佐為の心がアキラの心に重なっていくようだった。
そうしてアキラの手に佐為の意思が添えられる。

『これは私が選んだ未来なのだから。』

生命線が引きちぎられた。

「佐為!!」

だらりと落ちた佐為の手をアキラは握り締めた。

『ありがとう。これで楽になります。あの人に伝えてください。
もう私の亡霊を追わないで欲しいっと。
自由に生きて・・・・。
愛しいあの子をお願いします。』

握りしめた手から佐為の意識が遠のいていく。

アキラはずっとその手を握り締めた。
最後の声が聞こえなくなるまで、ずっと・・・。





アキラは決心が鈍らぬよう立ち上がった。

佐為の部屋を出たところで白スーツを着た長身の男に会った。



「久しぶりの凱旋というわけだ。」

「凱旋?冗談でしょう。」

「だったらなぜここに戻ってきた。」

「貴方には覚えがあるはずでは?」

「さあ、オレには何のことだか。」

アキラは長身の男をにらみつけた。それでもすっとぼけて見せる長身の男を
鋭く睨み付けた。

「あいつのことならオレはお前に恨まれるようなことはないだろう。」

「あの人の判断ではないはずだ。」

それに長身の男は笑った。

「オレは進言しただけぜ。」

「佐為のことも?」

「さあな、」

はっきりと応えなかったことが肯定を表していた。

「佐為の意思は?」

「佐為に意思があると思うのか。」

「もちろんです。でもあなたにもあの人にも生涯わかることなんてない。」

アキラは踵を返すと緒方を見据えた。

「僕はソアンドもフロンティアも両方手に入れる。もちろんヒカルを
あなたに渡すつもりはありません。」

「欲張りだな。」

「ええ、僕は欲張りだ。」

アキラは懐から拳銃を取り出すと緒方に突きつけた。

「・・・・だから貴方にも佐為にも消えてもらう。」

アキラは何の躊躇もなく発砲した。
それは寸分違わず心臓を貫通し、緒方を後方へと飛ばした。

「・・・お前・・・。」

倒れ落ちた緒方にアキラは表情ひとつ変えなかった。

「こんなことをして、済むと思ってるのか?」

「知らなかったのですか?今日からこの僕がSOANDの会長です。」

「まさか・・・自分の父親を、」

胸を押さえる緒方にアキラは近づいた。

「さあ。でも死んでいく貴方が知る必要はないことだ。」

アキラは今度はしっかりと緒方の頭にそれを突きつけた。

「あいつをずっと騙し続ける・・・。」


緒方の最後の言葉をアキラは聞かなかった。
発砲とともに緒方の断末魔が施設に響き渡った。


「ええ、騙し続けますよ。何を犠牲にしても。
例え地獄に落ちようとも・・・。」






施設員たちが緒方と佐為の亡骸を片付け始める。

アキラはまた長い回廊を歩きはじめた。


そして未だアキラの部屋で眠っているであろうヒカルを想う。

もし君が僕を騙しているというなら僕は騙されていよう。
だから・・・ずっと傍にいて騙し続けて欲しい。




死ぬまでずっと・・・だ。


交わることがないのに永遠に絡み合う2重らせんのように・・・。


                                        



                                     完




                             再編集  2012 7月




あとがき


最後まで読んで下さった皆さんありがとうございます。


しかし・・・最終話に来て「ええっ〜!!」って思った方も多いハズ(苦)
書いた私が思いっきり騙されたような気がしてるぐらいやから(おい;)
だからどうにも編集が進まなかったのかもしれません。

なんだか色々言い訳じみたことを言ってますねえ(苦笑)


最初にプロットを切った時には細かい設定がありました。。
当初はサスペンス風?を目指したので(目指しただけデス)
設定は仄めかす程度にしてみようかな・・・と。

例えば行洋と佐為の関係。或いはヒカルと佐為の関係。
そして遺伝子上のアキラとヒカルの関係も・・・??

そもそも「2重らせん」のタイトルは『DNA遺伝子』から取ったもので・・。

そのあたりはもう想像の域というか(正解というものはあってないので)読者の皆さんで自由に発想を膨らませてもらえたらと思います。

追記 あと番外編1話があります。そちらもよかったら
    お付き合いください〜。




                       『2重らせん番外 盗聴器へ』






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