2重らせん
 
番外編 盗聴器
     
        




ヒカルが部屋に入ろうとしたら玄関先に何気なく飾られたライトが点滅した。
このライトをヒカルは警報ライトと呼んでいた。貴金属には反応しないが特殊な
電波には反応する。
出掛けるときは何もなかったのだからヒカルの持ち物に何か仕込まれた可能性があった。

ライトは本当は音が出る代物なのだが、音は盗聴器に拾われてしまうためヒカル自信が改良したものだ。



「たく、なんだよ。」

ヒカルはだだっ広いリビングに入ると
一人ごととため息をついて持っていたリュックを広げた。
用心深く探したがそれと思われるものはみあたらない。
だとすると持ち物自身に内臓されたかも知れない。

だが、ヒカルは大学の研究室に入っている間カバンは鍵のかかるロッカーに入れていた。一部持ち出したのは携帯と時計と筆記用具程度で
それもずっと身に着けていたものだ。

しかも携帯や時計を分解してまでとなると結構面倒だ。
といってこのまま放っておくわけにもいかなかった。
誰に監視されているともわからないのは厄介だ。
もし盗聴器をつけられているとして誰が何の目的でそれをつけたかって言うことはかなり重要だ。

それにこちらがそれに気づいたことを気取られるわかには
いかないわけで、それとなくやり過ごさなければならない。

そこまで考えてヒカルはあることに思い当たった。
今日アキラに借りた大学ノート!?
他の講義で使っていたノートをヒカルはアキラから借りたのだ。

まさかと思ってノートを広げた。見た感じ特に変哲もないノートだが
中袋にホンノ数ミリ厚さの金属らしいものが触れる。

『これか!?』


中身を見ることはできないがおそらく盗聴器だろう。アキラのことだから
録音するというだけだはないだろう。
警報ライトがなければ気づかなかったとヒカルは思うほどの小型
なものだ。
このサイズだと機能的なものは期待できないだろうしヒカルがノートを
返すまでと限定される。
ということは仕掛けたのは間違いなくアキラだ。

ヒカルは苦笑いするともう1度ため息をついた。

なぜって今日ヒカル自身も限定的といえアキラに盗聴器をつけた
からだ。





盗聴器があるからと言ってヒカルは特に普段と変わらないよう繕った。

アキラに気取られるわけにはいかない。
だが自身のつけた盗聴器は気になる。ヒカルが気づいた
ぐらいなのだ。アキラだって気づいた可能性はある。
もちろんヒカル自身かなり注意を払ったつもりだ。


小型の上数時間ほどで
その機能を消滅するものだから機能をなくした後も気づかれにくい。
その後で回収すればよいと思っていた。


気になってヒカルは用心深く機器を立ち上げるとアキラに取り付けた
盗聴器の音を拾い上げた。

わざかなノイズ音がする。

数十秒後。

『ヒカル・・・。』

アキラの声がはっきりと聞こえた。
まるで傍にいる自分に話しかけているように声だった。

その声だけで心臓が高鳴って波打ったような気がした。
思わずヒカルはヘッドホンを外した。

まさか、盗聴器を仕掛けたことに気づいて、俺が聞いてることをわかってる?
それともこの部屋に盗聴器だけじゃない、盗撮までしてるとか。

ヒカルは動揺して部屋を見回した。
そんなことをしても逆効果だってわかっていたがそれでもせずにはいられなかった。

おそるおそるもう1度ヘッドホンをかけた。

先ほどと同じわざかなノイズ音。その中に布ずれのような音が続く。

『ヒカル・・・。』

もう1度名を呼ばれて心臓が飛び出しそうになってもそのままヒカルは
音を用心深く拾った。

そうして数分後ヒカルは一人でいると言うのに茹でだこのように顔を真っ赤に染めていた。


まさか一人でHなことヤッてる。あのアキラが?
オレのことを想って?

その事実を悟ると顔だけじゃない。体中がかっと熱くなった。

でも・・・。ヒカルは顔をぶんぶんと振った。
盗聴してるオレをからかってるだけかもしれねえ。

声だけで決めてしまうのは浅はかだ。
なんといっても相手はあのアキラなのだから。
ヒカルよりも何枚も上手だ。

もうヘッドホンを外そうと手にかけた時もう1度アキラの声がした。

「君は僕のものだ。」

はっきりと聞こえたその声に心も体もヒカルは囚われてしまった
ような気がした。

「あ・・・アキラ、」

思わず出た声をノートの中の盗聴器が拾ったかもしれない。

ますます体中が熱くなっていく気がする。
アキラに触れられているみたいに、傍にいないのに。

我慢できなくなってヒカルは下半身に指を伸ばした。
自己嫌悪とか後ろめたさとか。
そういう感情以上にアキラを求める気持ちが高ぶっていく。

ぎこちなく指を動かすと微かにアキラの息遣いがあがった。

『もっと僕を感じて。』

ヒカルはこの声で今までのことが確信にかわった。ヒカルは
それでも指を動かすのをやめることができなかった。

むしろアキラに手を添えられたようにぎこちなかった動きが的確にヒカルの心を体を追い上げていく。

「お前はどこまでオレを翻弄するんだ。」

『君の全てだよ。』

熱いアキラの声。
翻弄されているのはヒカルだけじゃない。アキラだってそうだ。


「あっ、」

吐き出してしまった後、ヒカルは機器を外して浴室に飛び込んだ。
汚してしまった下着と指。

そして・・・羞恥が襲っていくのはいつも後のことだ。





寝室に入って盗聴器から逃れるように布団に突っ伏した。

「バカバカバカバカ・・。」

何度言っても羞恥心が襲ってくる。
そして何度言ってもアキラのことが脳裏から
離れそうにはなかった。

ヒカルは突っ伏したまま盛大にため息をついた。

「何でだろう。オレお前にどんどん囚われていって、怖えほどお前に惹かれて・・・。

今すげえお前に会いたい。」




思いっきりヒカルはベッドから飛び起きると部屋を出た。
机の上の機器とノートをチラッと見たがそこは素通りして着の身
着のままでマンションを出て自転車に跨った。


こんな遅い時間に突然訪問したらアキラはなんっていうだろう。

あいつのことだ。きっと何事もなかったように振舞って抜けぬけと
オレを出し抜くんだろうな。

そう思うと先ほどのこともあって怒りが湧き上がってきそうだったが
そんなアキラも好きだと思うほどヒカルは惚れている。



『アキラ・・・』

まもなく会えるだろう恋人にヒカルは想いを馳せる。
マンションはもう目の前だ。





                                  おわり



ひどい終わり方をしてしまったので少し趣向を変えてみました(笑)







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