ヒカルが緒方に突然メールで呼び出されたのはアキラがS社の藤堂と
打ち合わせをした数日後だった。
4年近く緒方と一緒に暮らした部屋に帰ってもヒカルのものは何もない。
それでもなんとなく落ち着くのは緒方がここにいるからかもしれない。
リビングに足を入れるとすでに残骸となった山積みのタバコが灰皿に残って
いた。
当の緒方はどっかりとソファに横になっている。
ヒカルが盛大にため息をつくと緒方がソファから起き上がってその残骸を
増やすためにタバコに火をつけた。
「帰ってきたか?」
「急に呼び出したりして何かあったのか?」
「お前が報告にくるといってて全然こないからな。」
「接触しねえ方がいいかと思ったんだよ。」
言い訳のようなヒカルの言い分に緒方は笑った。
「それで・・・大丈夫なんだろな?」
「何が?」
ヒカルの問いに手話を使った。
『尾行、盗聴、それにお前の素行・・・。』
ヒカルも手話とゼスチャーで応えた。
『アキラは今日は出掛けるって言ってた。だから尾行はないと
思う。それにオレ相当用心したぜ。ここに来るの。』
緒方は手話を辞めた。
「出掛けたってどこに?」
「知らねえよ。今あいつを詮索するのは得策じゃねえって思うから。」
「ほお〜、だがあちらはお前のこと詮索してるぜ?」
「アキラが?」
「さあな、それはわからん。アキラに近づいたお前にAPが危険分子だと
感じたのかもしれんが、
探りをいれてきたのは確かだ。ただお前がじじいの養子だってわかった
途端その動きも
なくなった。まあ心配いらんだろう。」
ヒカルはそれに苦笑するしかなかった。
「まあ、相手が桑原のじっちゃんじゃな。APでも手がだせねえよ。」
「ああ、しゃくだがな。」
緒方はなぜか桑原とは折り合いが悪かった。
もっとも嫌っているのは緒方の方だけだと
ヒカルは思っている。
信頼しているから言えることもある。
もちろんそんなことを口にすれば緒方は怒るだろうが。
「で、どうだ?骨抜きにできそうか。」
ヒカルは噴出した。
「骨抜きってなんだよ。」
緒方は再び手話を使った。
『それがお前の任務だろう。アキラをたぶらかして情報を得る』
『ひでえ任務だな。それ、』
ゼスチャーで返して、でもその後はヒカルは言葉にした。
「・・・、けど、そうだな、それも言い得てるかも。でも骨抜きにされてるのは
オレの方かもしれない。」
「おいおい、しっかりしろよ。」
「うん、わかってる。」
そうわかってる。忘れちゃいねえんだ。
ヒカルはもう1度自分に言い聞かせるように心の中でつぶやいた。
「あいつの部屋には仕掛けられなかったけど、研究室に一時
しかけたんだ。それで担当者とアキラの会話を聞いた。
例の方オレ推薦してもらえるかも。」
「そうか。」
「そうすればあいつから情報得なくてもそっちに渡せるだろう。」
どこから得た情報を流してもヒカルはソアンドのスパイであることには変わりない。
緒方は少し寂しそうに微笑むとくわえていたタバコを灰皿に押しつけた。
「ところで、今日は泊まってくんだろ?」
「えっと・・・。」
その意味を計りかねてヒカルは返事に困った。
「久しぶりだ。相手をしていけ、」
「けど・・・。」
「なんだ、あいつに操を立ててるのか?」
「違うけど・・・もしもって事もあるだろう。」
「盗聴されてるなら聞かせてやればいい。お前が他の男の腕で喘いでる
声を。」
「なに言ってんだよ!?」
始めは抵抗したがやすやすと緒方の腕に捕らえられヒカルは組み敷かれた。
ヒカルもそれ以上抵抗をしなかった。
緒方はヒカルの素肌を見て苦笑した。
「随分派手に付けられたものだな。」
ヒカルの体にはアキラが残した情交の後が全身に散らばっていた。
その上に緒方がきつく唇を這わせる。
「痕つけんなよ。」
「いいだろう。こんなについてるんだ。誰がつけたかなんてわからんさ。」
「ばか、あいつはそういうの勘がいいんだぜ。」
「面白くないな、」
「緒方さんひょっとして妬いてるとか?」
「さあ、どうだろうな。」
誤魔化したということはそうなんだろうとヒカルは心の中で苦笑した。
タバコ臭いキスに顔をしかめると緒方がヒカルの中心に指を絡めた。
「あっ、」
敏感な部位をやさしく撫で上げられてヒカルの体がわずかに震えだす。
ヒカルは「全くしょうがねえな。」とつぶやくとただ緒方にその身を任せた。
14話へ