眩しい朝の光が突然振り込んでヒカルは思わず光から背向けた。
慌ててもう1度カーテンをしめたアキラが苦笑した。
「まだ、起きられそうにない?」
朝に弱いヒカルは毛布の中で「う〜」とうなって微かに身じろぎする。
「今、何時?」
「8時を回ったところ。」
「・・もうそんな時間か。」
ヒカルは上半身をゆっくりと起こしたとたん顔をしかめた。
「ィててて、」
腰から下はまるで自分の体じゃないように重かった。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃねえよ。お前が無茶ばっかするから、ひでえ筋肉痛。」
「筋肉痛?」
問い返されてヒカルは返事に困った。
そこは聞き流して欲しかった。
「もう、いいから。ってじろじろみるなよ。」
「え?ああ。」
アキラは困ったように視線をさ迷わせた。
ヒカルは全裸だったが、アキラはとうに身支度を整えてる。
アキラがわざわざ別用をはじめたのでヒカルは慌てて畳まれた
下着と衣類に手をかけた。
昨夜脱ぎ散らかっていたはずだった。
「全く、・・・。」
そういった後ヒカルは照れ隠しに「アキラのバカ。」と小さく言った。
「バカとは何だ。バカとは、」
アキラの頬が赤い。
お互い明後日の方向を向いている。
「バカだから、バカって言ったんだ。」
「僕は生まれてこのかた君以外にバカなんていわれたことはない。」
そりゃそうだろうとヒカルは思う。アキラは正真正銘の天才だ。
バカなどと言われたら自尊心が傷つくだろう。
だからなおさらのこと言ってやった。
「だったら何度だって言ってやるよ。史上最大のバカ。大バカヤロウ」
「君は、」
振り返ったアキラがヒカルに飛びついた。
「え?」
狭いベッドに押し付けられてヒカルは頬を染めた。
「あっ、」
唇がふさがれて心臓がとまりそうになる。
「今着た服をまた脱がされたい?」
「バカヤロウ、んなわけないだろう。」
バカと言ってしまった瞬間ヤバイと思ったが、アキラはそれに
苦笑しただけだった。
「君が言うとおり僕はバカだよ。君がいるだけで怒ったり、笑ったり
心が揺れたりこんな風に感情的になる。」
「そりゃそうだろう、人間なんだから。」
至近距離でアキラの髪が揺れた。
「いや、僕はもっと自分は冷静な人間だと思っていた。」
アキラはそういうとヒカルの体から離れた。
「今もどうしていいかわからなくて自分を持て余してる。」
ヒカルはそれに笑った。
「それはさ、お前に惚れられてるってことだろ?オレ別に悪い気しねえけど、」
「そう?」
「そうそう、お前のバカなの知ってるのは俺だけってことだ。」
ヒカルは起き上がるとアキラの腕を掴み自分のおでこにアキラのそれをあてた。
「オレ、そんなお前も好きだからさ、」
「ヒカル、」
自然と合わさった唇はすぐに離れた。
名残惜しそうにアキラが言った。
「僕はもう大学へ出掛けないといけないんだ。君は今日の予定は?」
「オレは今日は午後からの講義があるだけ。」
「午後から、何の?」
「環境情報科学だっけかな?緒方教授がやってる。」
「ああ、僕は取ってないないけれど最近出来た人気の講義だね。
だったらもう少しここでゆっくりしていったらいい。ご飯も用意してあるから。」
そういうとアキラは合鍵をヒカルに差し出した。願ってもない申し入れだ。
ヒカルは喉をごくりとさせた。
「ここにいていいならお前のPCに送ったデーター見てもいい?
オレ纏めたいし。」
ヒカルが見る限りアキラのPCはベッド脇のテーブルのデスクトップ型のが1台、
ノートPCが1台だった。
「ああ。デスクトップの方を使ってくれる?
パスワードは・・・。」
アキラはそう言ったあと少し躊躇した。
「19○○0920だ」
「それって・・・オレの・・。」
嬉しさがこみ上げてくる。
「覚えててくれたんだな。」
施設にいた頃は誕生日なんて祝ってもらったことはなかった。
子供の頃は佐為がケーキを買ってきてお祝いして特別な日だった
けれど。
15歳の時そういうとアキラがオレの為に誕生日をしてくれた。
何もなかったけれどオレの為に歌を歌ってくれた。
「君の誕生日は忘れたくなくて。だから、21歳の君の誕生日は二人で絶対にしよう。」
「うん、お前の誕生日もな。」
お互いまた名残おしくなりそうだった。
「もっと君の傍にいたいけれどもう行くよ。大学で会おう。」
「ああ、また話そうぜ。時間はあるんだからさ。」
「行ってくる。」
軽くキスを交わすとアキラは部屋を出て行った。
ヒカルはもう1度ベッドに体を預けると小さな部屋を見回した。
急に現実に戻されたような気がする。
今までのことが夢だったのではないかというほどだ。
この任務にはいる前緒方に言われたことを思い出してヒカルは顔を険しくさせた。
現実がヒカルにのしかかろうとしていた。
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