2重らせん 2





     
緒方がベッドのサイドテーブルに書類を置いた。

「お前の今回のミッション内容だ。施設を出てからの
経歴もある。」

ヒカルは素肌のまま起き上がるとそれを手にとった。

アキラは施設を出た18歳にフロンティアAP社に入社。同時に
一流のT大の工学部に入学と記されていた。

アキラがT大は納得できたが工学部はヒカルは予想外だった。

「T大って緒方先生が教授してる?先生知ってたの?」

「いや。学部が違うからな。」

「けど・・フロンテイアAPか・・。」

つぶやくように言ったヒカルに緒方はタバコに火をつけると苦笑した。


フロンティア AP社。
表向きは日本のIT最大手企業だ・・・・が。

クライアントから受けた以来で諜報員を差し向け情報を得て売るという
その方面でも国内ではズバ抜けたネットワークを持っていた。

また顧客クライアントは著名人や大手会社社長、大物議員はては国家主席
にもおよび、AP社の情報にリークされ撤退、退却に持ち込まれた組織や個
人は数多く存在する。

その正確かつ俊敏な仕事内容は定評があり、国から組織的に恩恵を受ける
までに急激に成長したスパイ企業だ。
そして緒方やヒカルが所属するソアンド(SOANDSO 名前を口にしてはいけないの意味)
とはライバル社でもあった。

ただヒカルが所属するSOANDSOは国内よりも世界での諜報員活動が主で
フロンティアAP社とは市場が異なっていた。

同じ顧客でも依頼によってはAP社とSOANDに使い分けるといった
者もいる程だ。





ヒカルは深いため息をついた。
この仕事はアキラからAP社の情報を盗むということだ・・・。
が、アキラも諜報員ならそう簡単にいくはずがない。

ヒカルはもう1度ため息をつくと今度は
自分の経歴を追った。
それはヒカルがこの仕事をするために作られた偽の経歴だ。


資産家の桑原の養子に望まれ施設を出所。実際は男色家の桑原の
稚児として愛され20歳に解放。
T大工学部の編入試験に合格。3年生より通大。


冒頭を読んだヒカルが思わず噴出した。

「なんだよ。このオレの経歴は、」

「何が可笑しいんだ。そんなもんだろう、」

「だって桑原のじいちゃんってそんな趣向があったのか?」

「気色の悪いことをいうな、」

想像を絶することを言われた緒方は不機嫌になってタバコを
灰皿に押し付けた。

「だってこれ、」

「やつは気に食わんが、仕事には間違いない。
もしむこうさんがお前のことを調べても そういった経歴しか拾えん
ようにしてある。
それにお前はもともとそういう所に売られるはずだったんだ。」

『そういう所・・・』

緒方ははっきりとは言わなかったが、施設を出る前ヒカルには養
子縁組の話が
あった。バツイチの大物議員の養子だった。

『申し分ない縁組』などといわれたけれど本当のところはそんな甘いもの
じゃなかったことぐらい今のヒカルにはわかる。


「うん。オレ緒方さんには感謝してるんだぜ。」

「あんな色ボケた親父のとこにいくよりましだったろう?」

ヒカルはそれに小さく笑った。

「緒方さんもその色ボケ親父とあんま変わんねえけどな」

「うっ、」

二本目のタバコに火をつけた緒方がむせる。
ヒカルはくすくす笑い出す。

「色ボケ親父で悪かったな。」

「否定しないんだ。」

「まあな。」


最後まで資料を読み終えたヒカルが渋い顔になる。

最後にヒカルの育ての親の佐為は死んだと書かれていたからだ。
そのほうが都合がいいのだろうが・・・。
ヒカルはそれが作られたうそであれ簡単には納得できなかった。

「佐為のことか?」


そんなことなどお見通しの緒方だ。
死んだことにするなど口に出していうのもヒカルは嫌で
ただそれにうなづいただけだった。


「そういうことにしておく方がいい。向こうに余計な詮索をされたとき誤
魔化せなくなる。塔矢アキラはお前と佐為の関係を知っているのだろう?」

「うん。」

佐為の話はよく施設でした。
ヒカルの育ての親だったこと。
事故にあって今はずっと病院にいること。
施設に入ったのは佐為の入院費が必要だったからだ。

そして今佐為を保護しているのはSOANDだ。
SOANDは最先端医療技術をもって佐為の治療にあたってくれてる。
施設にいたころよりずっとそれは安心できた。
だがそれは逆をとれば人質をとられているもおなじなのだ。


「先生、オレこのミッション無理だと思う。」

「またどうして?」

「オレT大に入るわけだろ?まずオレの頭じゃ無理だ。」

緒方はやれやれと頭をかいた。

「そんなことはない。編入はこちらから操作するからまず問題ない。
それにお前は自分で思っているほど能力が劣るわけじゃない。
ことにプログラマとしてのお前はウィザード級だろう。
塔矢アキラにだって劣らん。
出来ん仕事を押し付けたりはしないさ、」

「けど、あまりにも不自然だろ?こんな偶然ってありえねえよ。」

ヒカルがいうのは塔矢アキラとの接触のことだ。

「ああそのことか。まあ勘ぐられるのは間違いないな。」
だが・・・だからってクライアントにこの仕事はできませんってそんなことを
いうのか?お前は。」

ヒカルは返事を返せなかった。

この仕事にはクライアントがいる。当然のことだが、
なんとなくヒカルはSOAND自身がAP社の情報を掴もうと
しているのではないかと思ったのだ。

「大丈夫だ。塔矢アキラは勘ぐってもお前になら情報も渡すかもしれん。」

「そんな・・・。」

「まあその前に密偵なんてやめさせようとするか、
お前をAP社に引きづりこむか・・・。」

「なっ?オレはAP社にはいかねえよ。」

「佐為のことがあるからな。」

ヒカルはぎゅっと唇を噛んだ。
心情を察して緒方がヒカルの頭をぽんぽんと叩いた。

「ミッションに入る前に佐為に会いに行っておくか?」

「うん、」

ヒカルはそううなづいた後『やっぱりいい』といって首を横に振った。

「佐為にはいつでも会えるから、そうだろ?」

「そうだな、」

「来週明けにはT大を案内してやる。住むマンションもそのころには手配
されているはずだ。準備しておけよ。心の準備もな。」


一瞬の間のあと緒方はヒカルの唇にそれをあわせた。
ヒカルもそれにこたえる。
舌が触れ甘い痺れが体をかける。
緒方との長くて濃厚なキス。

名残惜しそうに「ちゅっ」と音を立てて唇が離れた。

「じゃあ行ってくる。」

ひらひらと手を振って部屋を出ていった緒方を見送った後
ヒカルはもう1度書類に目を通した。


アキラに会える。
期待と不安が胸に渦まいていた。


お前を騙すことになるのに。
そしてその先には辛い別れがくることがわかっているのに。
それでも、オレはお前に会えるってだけでドキドキしてる。


ヒカルは握り締めた書類をひとつのこらずシュレッダーにかけた。



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しょっぱなからオガヒカという・・・(汗)

編集(読み返)しながら「うぎゃー」と叫んでしまった。後半と設定が噛み合ってない;
書き直せる所は修正して、辻褄あわせしてます(滝汗;)



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