2重らせん 1





     
覚醒しはじめたヒカルはまだ眠い身体をタバコ臭い毛布に沈めた。

もう少し眠っていたい。
だるい体がまだ昨夜の甘い余韻を残していた。


温かい毛布の中、傍にいるであろう相手に腕を伸ばすと
あるはずの体は通り抜け落ちた。

「緒方・・・先生?」

「起きたのか?」

横になったまま瞳をこするとすでに出掛ける支度を
終えた緒方が目の前に立っていた。

「ごめん。オレ・・・、」

起き上がろうとしたヒカルを緒方が制止した。

「構わん。無理をさせたのはオレだ。まだ寝てろ、」

「うん。」

その言葉に甘えてヒカルは横になったままうなづいた。

「それより・・・・」

緒方は一旦言葉を区切ると言葉を選んでいるようだった。

「お前に新しい仕事だ。」

「オレに仕事?」

ヒカルは訝しむように緒方を見た。

「そう、お前でないと出来ないな。」

もったいぶるように言われてますますヒカルは胡散気に
表情を曇らせた。

「何だよ。それ、」

緒方はほくそ笑むと言った。

「塔矢アキラを知ってるな?」

『塔矢アキラ・・・。』

その名にヒカルは胸がドクンと高鳴るのを感じた。







塔矢は・・・
アキラはヒカルと同じ施設で育った。

ヒカルが育った施設、
孤児を保護し育てるといってもそれは便宜上あくまで表向きのもので。

施設は孤児を集めては子供たちの能力分析をし
クライアントの要望によってあらゆる学習や能力開発を施した。

そうして引き取り手が決まるまで子供たちを養育し高い金取引するのだ。
そして特に能力を見出せず、引き取り手のみつかりそうにない
ヒカルのような子供の末路も決まっていた。

ヒカルは唇を噛むと小さく頷いた。

「知ってる・・・。」

「塔矢アキラを誘惑しろっ。お前の体でだ。それで
あいつのスパイ活動を体よく引き出すのが今回のお前の任務だ。」

ヒカルの心臓がますます高鳴りだす。

「カラダって、オレ男なのわかってるだろ!」

「そんなことはオレもよく知ってる。」

緒方は意味深にそういって笑った。

「だったら、」

「知らなかったのか?塔矢アキラは施設にいた頃お前に
随分惚れてたそうじゃないか。」


そんな昔の事・・・・。
ヒカルはぎゅっとつかんだ毛布を握りしめた。




ヒカルの引き取り先が決まったその日、
ヒカルはアキラにだけはそのことを告げた。

引き取り先もその目的さえヒカルは知らされてはいなかった。
ただわかっていたことはここを出たらもうアキラともここで一緒に育った
仲間とも会うことはないだろう。

・・・・それだけだった。


「オレここを出ることになったんだ。」

ヒカルはなるたけ湿っぽくならないようにそういった。

「そんな、早すぎるだって君は・・・。」

「そうオレには見込みがないってさ。だから・・・。」

「まさか・・・、」

言葉をなくしたアキラにヒカルは無理やり笑った。

「大丈夫だって、詳しくはオレも聞かされてねえんだけど
オレを引きとりたいって人がいるらしいんだ。」

ヒカルはアキラを心配させないためにそういったがアキラは
全身を震わせていた。

「ごめん。オレお前にだけは言っていこうと思ったんだけど、
言わなかった方がよかったか?」

アキラは首を横に振った。

「そうじゃないんだ。けれど・・・。」

アキラはヒカルを抱き寄せた。今アキラが出来ることは
それだけしかなかった。

アキラの悔しさや悲しみが抱きしめる腕から伝わってくる。
ヒカルもそれに応えるようにアキラの背に手を回した。

「どうして僕はこんなにも無力なのだろう。」

「お前は無力なんかじゃないさ、お前には無限の可能性があるって教授も
言ってたろ。」


アキラは何をやっても優秀で引く手数多の施設や研究所から
有望視されていた。
それに明らかになっていないが特殊な能力があるとも言われていた。

「そんなものはいらなかった。」

アキラは高ぶらせた激情にまかせてヒカルの唇を捉えた。

「・・・アキラ・・?」

重なった唇と唇。
熱くて・・・。
熱くてそこから全身に熱としびれが伝染していくようで
ヒカルは震える体を抑えることができなかった。


唇が解放された後アキラの唇がわずかに動いた。

「ヒカル、ずっと・・・君の事が好きだった。」

アキラの告白はヒカルには衝撃だった。
同じ男同士なのに・・・・そう思ったと同時にこそばいような
うれしさもあった。
自分のことを好きだと必要だといってくれる人がいる。
佐為と同じように・・・。

「ありがとう、アキラ。オレここを出てもお前のこと絶対忘れねえよ。」

「僕も忘れない。いつか僕がここを出たら君を探す。
必ず君を見つけ出す。だから・・・。」


『さよならは言わない。』



そういってあの日アキラと別れてから4年がたっていた。



                                  2話目へ
     

2重らせんです。ブログにチマチマ更新していたこともあって
つながりが悪くなってます。(いつものことかも;)





碁部屋へ


ブログへ