目覚めたらんは髪の一糸さえ夜で満たされたようなそんな気がした。
らんは幸せな余韻に包まれ、当然傍にいるだろう夜に向かって手を伸ばしたが
ただ何もない空間だけを握り締めただけだった。
「よるぅ?」
声をかけても返事はなく不審に思って起き上がったらんは夜の気配すら感じない
部屋に唖然とした。
「よる・・よる・・?」
ぐるりと部屋を見回したが夜はおらずらんは満たされた心が急激に冷えて行くのを感じ
胸の上で拳をぎゅっと握り締めた。
「らん 起きたのか?」
「夜!!」
壊れた壁から顔をだした夜にらんの心細さは吹き飛び顔を破顔させた。
たったそれだけの事なのにらんは心がほんわり温かくなるのを感じた。
体温だって1度はあがっただろう。
「悪かったな。らんが目え覚ます前に戻ってくるつもりだったんだがな。」
「ううん。」
夜は両手いっぱいにペットボトルにお菓子やパンを抱えていた。
「夜もお腹すいたの?」
「違えよ。」
夜は笑いながら確保してきた食料を床に置いた。
「オレが人間の食いもんを口にするわけねえだろ?これは空と直のだ。」
「そっか。」
二人が目覚めたのは空と直の生命の危機を感じたからだ。
それはつまり直の空腹はらんの空腹であり空と夜もまたそうなのだろう。
「それよりらんもう体はいいのか?」
「うん。すごく調子いいよ。
僕の体が全部夜になっちゃったんじゃないかって思うぐらい。」
らんは恥ずかしそうに顔を真っ赤すると夜が笑った。
「オレもらんに全部持って行かれちまうかと思ったぜ?」
夜はそういいながららんの髪を撫でチュっと頬にキスを落とした。
「あのね よるぅ〜。」
らんはもじもじしながら上目遣いに夜を見上げた。
「どうした?」
「夜は大丈夫?お腹すいてない?その・・・僕の血でよかったらって あっ!」
らんが言う間にも夜はらんの首筋に歯を立てていた。
ゴクンとらんは唾を飲み込んで次に来るだろう痛みに耐えるようにぎゅっと目
をつぶった。
が予想に反しそれは訪れない。
らんがおそるおそる目を開けると目の前で夜がくすくすと笑っていた。
らんはからかわれたのだ。
「ひどい!夜、僕本気だったのに!!」
ポコポコと胸を叩くらんに夜は苦笑して悪かったと謝りはしたものの悪びれた様子はない。
「でも、まあよ。確かにらんは旨そうだよな。甘い匂いもするしな。」
夜はわざとらしくらんの首筋に顔を近づけるとくんくんと匂いを嗅ぐしぐさをした。
らんはいつになく真剣に夜を見つめて熱っぽくつぶやいた。
「僕いいんだよ。夜にだったら全部あげるよ。」
夜はらんと同じ仲間といえ吸血鬼族だった。
吸血鬼族は仲間の中でも崇高とされ特に能力が高く、一族の中でも別格に位置づけられてた。
それゆえ、吸血鬼族の雄に所有の刻印を刻まれたものは未来永劫そのものの所有物となり
しもべにならなくてはならない。
けれどそんな掟を口にしたらんを夜は昔の事だと笑った。
「バカだな。らんは。そんな掟にしばられなくてもらんはずっとオレのもんだろ。」
らんは心の中がほっこりと温かくなっていくのを感じて夜の胸に飛び込んだ。
「よるぅ」
「愛してるぜ。らん」
「僕も・・。」
東の空がやんわりと白んで来ているのをらんは感じていた。
まもなく夜との永遠とも思える別れが来てしまう。
けれどらんは怖くはなかった。
だって僕は夜とずっと一緒だもの。
夜の腕の中で急激にナオが覚醒してくる気配を感じてらんは寂しさと同じぐらいほっとしていた。
夜もらんもとうの昔に人であることを選んだのだ。
だが、眠りへと落ちていったらんはこの後すぐ覚醒してしまうになるとはこの時夢にも
思ってはいなかった。