空と直がここに監禁されて7日がたった。
相沢は期待に満ちた表情で研究員の報告をきいていた。
「・・・でして残念ながら見た目には何の兆候もありませんが。」
モニターにはぐったりした空と直が寄り添うように横になっている姿が映し出されていた。
が、相沢はそれには全く興味を示さず研究員の書き示したデーターだけを目で追っていた。
「水が通っていたのが不味かったか。」
いまや直と空の生命を維持しているのはこの部屋に通っていた水のみといえた。
研究員は異常なほどの相沢の執着心にぞっと背筋が凍る思いがして自ら進言していた。
「でしたら水道を止めましょうか?」
「まあいい。それよりも監視は怠るな。特に日没後は
目を光らせろ。何か変わったことがあったらすぐに私のもとに連絡してこい。」
「わかりました。」
相沢は研究員の返事に満足するとくっくっと低い笑い声を上げた。
まるで湧き上がる感情を我慢できないといったように。
『もう少しだ・・・もう少しで手に入る。』
地を這うようなその声をオレの中にある別の意識ははっきりと捕らえていたのを
オレはまだ知らなかった。
すでに動く事も億劫になったオレと藤守は寄り添うように硬いベットに
沈んでいた。
ここに囚われてから数日二人でやれることは試していた。
まず俺たちはベットによじ登り藤守をオレの肩に立たせて高窓からの景色を
見下ろした。
それで驚くべき事実がわかった。
ここの建物は断崖絶壁の上に立ってるってこと。しかも下は荒れ狂う海。
まず窓から逃げだそうと言う考えはこれでぶっとんじまった。
それでも付近を通る船があるかもしれねえし・・・って話したんだけど、
この状態(藤守を肩に乗せてっての)を保つのは1時間が限界でその間
船も1隻も通らなかった。
それにかりにもし船がこの下を通ったとしてもこんな小さな鉄格子の中のオレたちに
気づいてくれる可能性は1パーセントもあるとは思えなかった。
無駄な労力は持久戦にはむかねえとおもった俺たちはそれからほとんど動かなくなった。
幸いしたのは水道がこの部屋にあるってことだけだった。
俺たちがここにつれてこられて7日目の夜。
藤守はただぬくもりを求めるようにオレの腕にぎゅっとしがみついてきた。
「くうちゃん。」
藤守がオレの名を呼ぶ声は蚊がなくほどに弱かった。
「おね・・がい。」
藤守の声は震えていた。
「オレを・・・・置いてかないで。・・・一人にしないで。
こんな所で一人で・・・死ぬのは・・怖い・・。」
「藤守・・・!!」
藤守が弱音を吐くなんてオレはいままでに一度だって聞いたことはなかった。
負けず嫌いの頑固で・・・けどオレだってこの状態でかなり精神的にまいってきてる。
いままで考えなかったわけじゃねえんだ。
ここからどうやっても抜け出せないってわかった時から、ずっと心の奥底で
思ってた。
オレたちはこのままここで死んじまうんじゃねえかって。
どちらかが先に死んだら一人になっちまう。
そして・・・そのあとの事なんて考えただけでも気が狂いそうだった。
けど、そんなことを認めちまったらあいつらに負けちまうような気がした。
だって俺たちはまだ生きてるんだぜ?
こんな事で諦めたくねえだろ。
オレは励ますように藤守の頭をぽんぽんと撫でた。
「藤守・・あいつらがもしオレたちを殺すつもりなら、監禁なんてまどろっこしい
マネしなかったんじゃねえかって思うんだ。」
これは探偵見習いやってるオレの推理だけど。
「もっと別の目的があるんじゃねえかって思う。」
けどどう考えたってその目的ってのもかなりやばいことだろうってのは
察しがつく。
いきなり誘拐して監禁するようなやつらだからな。
けど命があればやれることはきっとある。
オレが今一番怖えのは藤守が諦めちまう事だ。
「藤守大丈夫だ。だから絶対諦めんな。」
オレはふり絞るようにそういうと藤守は小さくうなづいて
ようやく眠りへと落ちていった。
それから2日がたった。
オレも藤守ももう立ち上げることもできねえほど衰弱していた。
水で誤魔化し続けた空腹も限界で一日ぼんやり天井を眺めているだけになった。
その日の深夜−−−
今まで傍にあったはずの温かさがなくなってオレははっとして目を覚ました。
朦朧とかすむ目をなんとかひらけるとベットのすぐ傍に気配があった。
「藤守トイレか?」
「ううん。あのね、くぅちゃん。お願いがあるの。」
先日と同じ言葉なのに藤守の口調は妙にはっきりしているような気がした。
「どうした?」
「僕ねえもうお腹すいてペコペコで、我慢できなくなっちゃった。」
藤守はそういうと自分の着ていた服を脱ぎだした。
オレは突然の藤守の行動に驚きはしたものの体を動かすことも出来なくてその様子を
ぼんやり夢でも見ているように眺めてた。
気づいたときには藤守は全裸になっててオレの上に跨ってた。
「な・・・なにやってんだよ。藤守!!」
「だってくぅちゃん、美味しそうなんだもん。
それに僕たちもうすぐ死ぬんだよ。だったら気持ちいいことしようよ。
大丈夫。何も怖くないよ。
何もかも忘れるぐらい気持ちよくさせてあげる。死ぬほどね。」
藤守の誘惑は甘かった。
藤守の顔が近づいてきてしっとりと唇を奪われた。
執拗に絡みつく藤守の舌。乾いていたはずの唾液が口内から流れ落ちては
つたいおちていく。
たったそれだけのことでオレの体も精神も欲情なんて呼ぶだけには収まらない快楽の
渦に巻き込まれていた。
「くぅちゃんいいの?もっと気持ちいいことしてあげるね。」
藤守がオレの服に手を忍ばせた。
藤守に触れられるだけでオレの体がどこもかしこも反応してビクリと跳ね上がった。
「ナ・・・オ・・はあっ・・ああああっ!!」
たしかに・・・の・いうとおりかも・・。
どうせ死ぬなら藤守と抱きあって死ぬのも悪く・・・ねえ・・よな。
何も考えられないほどの快楽に飲み込まれた瞬間オレは急速に湧き上がってくる何か
にすべてを乗っ取られていた。