If ・・・(もしも)7章 番外編 絆と呪縛2 ※絆と呪縛1に続き内容が痛いです。 流血シーンがありますので苦手な方はご遠慮くださいね。 夜は落とした血で滲んだナイフを拾い上げた。
凍えつきそうなほどにそれは冷たかった。 『生きているかぎり013を傷つける。永遠に、』 相沢はそういった。 オレの存在価値は空を直をそして何よりも愛しいらんを 守るためのものだった。 なのに・・・、 夜はナイフを振り上げると思いきり腕の動脈に振り落とした。 心臓を貫かなかったのは空を思ってのことだ。 消えるのは自分ひとりでいい。 「いや、夜、やめて、」 傍にいたらんがその時初めて反応した。 まるでスローモーションを見ているようにらんが夜の腕に飛び込む。 血ふぶきをあげた夜の腕をらんが押さえた。 「らん、離れろ、」 「やだ、絶対にやだ!!」 「オレはお前を殺そうとしたんだ、」 「夜の意志じゃない。」 らんはわかっていた。目の前で殺戮マシーンになった夜は本当の夜じゃないことを。 「オレの存在がお前を苦しめる。」 「それでも離れない。僕は夜から離れない。お願い夜、いかないで、」 らんの瞳から大粒の涙がとめどなく流れ落ちる。 「らん、」 動脈を切った腕からドクンドクンと血が噴出す。 らんの両手を夜の血が染める。 らんはショックで気を失いそうだった。 けれどもしこのまま気を失えば夜と2度と会えないような気がして 必死で自我を奮った。 「止血しなきゃ、」 その時、監視をしていた相沢と研究員数人が部屋の中に現れた。 らんは恐怖で震えた。このまま夜も自分も殺されてしまうかもしれない。 「外のモニターで見させてもらった。 また随分派手にやったものだ。まさか自分の親も014の親も 躊躇なくヤッてしまうとは。私の最高傑作なだけのことはある、」 今の夜にもらんにももう相沢に対峙するだけの気力はなかった。 相沢は傍にいた研究員の3人に目配せした。 3人は夜に応急処置を施すと 担架が運び込まれ、夜はそれに載せられた。 らんは担架にすがりついた。 「お願い。夜を連れて行かないで、」 「013はそう簡単に殺しはしない。私の大事な 検体だからな。」 らんは振りほどかれ研究員たちに夜が運びだされていく。 「014も連れ出せ。013の抑制剤だ。 ・・・例のを至急用意しろ。髪1本、指紋一つも残すな。」 「はい、」 研究員に連れ去られる前らんは、精神世界で直に呼び止められた気がして 部屋をもう1度振り返った。 折り重なるように倒れた両親、優しかった空の両親、 そしてその大好きな空に殺されかけた恐怖と悲しみ。 直の心はこの現実を受けきれないで今にも発狂し 壊れそうだった。 研究所で生まれたらんは直の記憶から両親を見たことはあっても その温かさを直接知っているわけではなかった。 それでも直の痛みを悲しみが五感を通じてらんに伝えてる。 この全てを誰かのせいにしたい。憎みたい。恨みたい。 そして無力な自分への嫌悪。直はもう立ち上がることさえ出来ないほど 苦しんでいた。 らんは直の精神を支えると立ち上がった。 『直、空を恨んじゃダメ。今『一番」苦しいのは空なんだよ。 空を守ってあげられるのは、直だけでしょ。直立ち上がって 僕がついてる。』 らんの呼びかけに直は微かに反応した。らんは今はそれだけで 十分だった。 らんと直が車に乗って数分、背後で地響きのような爆音がなり響いた。 みると家の方向から火煙がのぼっていた。 らんは震えながら瞳を閉じた。 両親も帰る家もなくしてしまった。 らんは祈るように両手を合わせた。 出来ることならこれが夢であったらどんなにいいだろうと思う。 だが、現実はどこまでも容赦しない。 研究所に戻されてかららんはしばらく独りぼっちだった。
空(夜)とは隔離され、直も心を閉ざしたままだった。 らんも直のように心を閉ざせたらどんなに楽だろうと思う。 いつも辛くて嫌なことはらんが押し付けられる。 直の危険回避だとわかってはいる。 けれど自分の存在理由だと諦めなければいけないのだろうか? らんは自分に自問して冷たい壁に体を預けた。 「よる、よる、よる・・」 口からもれる言葉はそれだけしかなかった。 お願い・・・必ず戻ってきて、出ないと僕、ホントにもう・・・、 夜がいなければらんは生きる意味さえなくしてしまいそうだった。 夜が戻ってきたのは夜がこの部屋から連れ出されて10日 もたった晩だった。 ベッドごと研究員に運ばれてきた夜はらんが見てわかるほどに衰弱していた。 研究員の一人がらんに言った。 「毎日消毒と経過を見に来る。食事もきちんと食べさせろ。 目を放すとロクなことはしない。014目を放すなよ。」 らんはそれに無言で頷くと運ばれてきた夜に目を移した。 体のあちこちに鬱血した後と包帯が巻かれていた。 けれど手首の包帯が一番痛々しくてらんは悲しくなった。 らんは何と声を掛けて良いかわからなくてそっとその手に触れようとした。 だが、夜はそれを払うとらんに背を向けた。 今まで夜に拒まれことはない。 らんはくじけそうになった心を振り絞った。 「夜、僕の事きらい?」 「・・・・」 「お願い・・・。」 返事をしてくれない夜にらんは涙が溢れてきた。 らんは恐る恐るもう1度夜の手に手を重ねた。 拒もうとした夜の手が震えていた。らんは慌てて両手で 温めるように夜の手をきつく握り締めた。 「よる・・・、」 夜は何も言わなかったがらんをもう拒むこともしなかった。 らんはそのままベッドの夜に頭を預けるようにももたげた。 今の2人には言葉は要らなかった。 ただそのぬくもりだけが二人が生きている証のような気がした。 らんは消灯時間を待って服を脱いだ。 消灯時間を過ぎるとこの部屋は仄かに窓から入る非常灯の明かりだけになる。 らんが服を脱ぎ終えると夜が息を呑んだのがわかった。 らんはそのまま夜のベッドにもぐりこむ。 「らん、」 夜がたしなめるとらんはいたずらが成功した子供のように笑った。 そうして布団を取ると夜に跨った。 「よる、すきだよ、」 らんはそういうと夜に口付けし、夜の服に手をかけた。 夜は微かに微笑むとらんが服を脱がしやすくするために体を持ち上げた。 7章 番外編絆と呪縛3へ お互いの心を癒すのにこんな方法しか思いつきませんでした。 まだ小学生のはずなんですが、 |