If ・・・(もしも)7章 番外編 絆と呪縛1 ※絆と呪縛は研究所にいた頃の夜とらんのお話です。 流血シーンがあり痛い内容なので苦手な方はご遠慮くださいね。 その日鉄格子の高窓からうっすらと月が浮かんでいた。 夜とらんはこの時を待ち望んだように互いの眠った本体から 覚醒した。 「夜、会いたかったよ。」 「ああ、らん大丈夫だったか?」 「うん、」 らんはそういったがそれは夜に心配を掛けさせないためだった。 本当は今日も研究員にひどいことをされていた。 夜はそんならんをわかっていて、ただぎゅっとその胸に 抱きよせた。 「よるぅ、」 温かい指、温かな胸、 愛おしさにただ抱きしめあうことしか出来なかったがそれは どんな時間よりもかけがえない2人だけのものだった。 けれど安らぎの時間もわずかなものだった。 2人の間に緊張が走ったのはそのすぐ後のことだった。 廊下に足音が響いたからだ。 それが一人なら単なる夜の見回りなのだが複数の足音が一斉に廊下をかけていた。 たちまち震えだすらんを庇うように夜は身構えた。 夜は足音が部屋の前を通り過ぎることを願ったがそれは叶わなかった。 扉が開きそこに立っていたのは飢えた獣のような研究員たちとあの 相沢だった。 「013、と014、いやあの2人のもう一つの人格か、」 相沢はニヤリと不気味な笑みを浮かべると研究員に合図した。 たちまち夜とらんは囲まれる。 夜は大の大人相手に掴みかかった。ある程度予測していた研究員たちも 対応できないほどに夜の行動はすばやく的確だった。 「痛って、」 「このガキ、」 「やれ、」 夜が研究員たちとつかみ合ってる間に相沢はらんを掴んだ。 「らん!!」 夜がらんに気をとられた隙に夜は取り押さえられた。 勝ち誇ったように相沢が笑った。 「もう降参か、」 相沢をぎっとにらみ付けたが相沢はそれに笑っただけだった。 「オレが行く、それでいいだろ、」 「自己犠牲か、見上げたものだ。いいだろう、 014を放せ。013を私の実験室203につれて来い。」 研究員たちに脇を抱えられ夜は引きづられるように連行される。 背後でらんのすすり泣く声が聞こえ 夜は振り返ると微笑んだ。 「大丈夫だって、すぐ戻ってくる。」 だが夜とらんが再びこの部屋で再会したのは10日を経た後のことだった。 夜は手足を縛られていた。 いくつも薬品を飲まされたし、注入もされた。 夜はもう身動き一つできないほどに精神も身体も薬に縛られていた。 相沢は狂ったように何日も夜の体を執拗に調べつくしていた。 そのデーターを追いながら相沢はほくそ笑んだ。 「くくくっ実に面白い。やはりお前は真一郎によく似ている。 本来よりも遥かに優れた身体能力を発揮するその肉体。 この状態になってもまだ自我を保っている精神力 羽柴空以上に興味をそそられる検体だ。」 相沢はそういうと夜の体をねっとりと撫で回した。 夜が微かに反応する。それを可笑しそうに相沢はせせら笑う。 「研究員たちは「014」の方が好みらしいが、私はお前の方がいい。」 相沢は触れるように夜の頬を両の手で包むと言葉を続けた。 「お前の存在意義は014を助けるためのものらしいが、お前はこれから 014を裏切り続ける。永遠にお前が死ぬまでだ。」 夜は必死に抵抗し、動かない体を腕を足をばたつかせた。だがそれはホンの少し 動いただけだった。 「その状態で抵抗しているつもりか? そうだ、いいことを教えてやる。 お前たちの本体が結ばれたらお前にかけた暗示を解いてやる。 ただし本体にそれを言えばその時はお前が消える時だ。」 「んなの初から決まって・・・る。 あいつらの絆は誰にも切れねえ。」 夜はそれだけは自信があった。 オレはあいつらの絆から生まれたのだからと どんなにケンカしても言葉では言わなくても、あいつらの絆の深さは 誰がみてもわかることだ。 「だろうな・・・。だが、それはいつまで続く?お互いに裏切られれば 絆も解ける。そうだ。 七海への見せしめもかねてお前に大事なものを壊してもらおう。」 夜の精神世界にそのまま相沢の言葉が流れてくる。まるで心も体も相沢のものになったようだった。 「ダメだ、」 必死に抵抗しようと試みれば試みるほど夜は底のない闇の中に引きずりこまれて いくようだった。 「お前はもう私の手の中だ。真一郎、さあ、・・・やれ。」 その言葉が頭に響いたあと夜は全てを相沢に明け渡した。 夜の自我が目覚めるのと空の自我がほぼ同時に目覚めたのは 初めてのことだった。 気が付くと夜は自宅の居間にいるようだった。何ヶ月ぶりに帰宅する我が家。 何もかもが温かくいつでも空を迎える「りん子」のイメージが夜にはあった。 だが居間は息がつまりそうな嫌な匂いと暗闇だった。 生暖かなぬるぬるした感触が夜の腕からすり落ちる。 夜は空と同時にその落ちた重みを目で追った。 血のついたナイフ、次第に取り戻す周りの色、音、感覚、匂い、記憶、 夜は咄嗟に頭を抱えた。 これ以上空に記憶を見せるな、 危険回避の警報音が夜の中に響く。 夜は必死で空を封じ込めようとした。 空は少し暴れたがやがておとなしくなった。 完全に覚醒した夜の傍に恐怖で震えるらんが立ち尽くしていた。 「ら・・・」 声を掛けようとして夜はその部屋の惨状に言葉を失った。 夜は恐る恐る自分の手をみる。血のついた手、返り血をあびた 体。 夜はそれで全てを悟った。 この惨状は自分がやったのだということを、 7章 番外編絆と呪縛2へ |