If ・・・(もしも)7章 
決別 7




これは夢?
オレはつかみどころのない、ふわふわと宙に浮いたような空間にいた。
そこは薄暗くて、ほのかに温かくて、けど居心地がよくて

ドクンドクンという規律正しい音が時を刻むようになっていた。
ずっとずっと昔ここに来たことがあるような懐かしい感じ。

その中にくぐもるような声が響いてる。

『・・・・愛してるぜ、』

『・・・、ずっとずっと、この呪縛が・・・けなくて・・えてしまっても?』

『・・・解けるさ、オレたちが信・・ねえで・・するよ。』

途切れ途切れの会話。
この二人の声に聴き覚えがあって、オレは声の方を仰ぐように見上げた。
丁度空の天辺にぽっこりと穴が開いてるようにそこから少し陽が差し込んで
いた。

その柔らかな日差しの隙間から微かに相手の横顔が見えた。
ドクンとオレの心臓が一際大きく波打つ。

『藤守??』

途切れ途切れの2人の会話が続く。

「でも・・もし・・・の時は・・・、」

藤守は固唾をのみ相手の言葉を待っているとうだった。

「・・・の時は・・・しょだ。」

「・・んでも?」

「ああ、・・に誓ってな」

空はこの時になって相手が藤守でなく「らん」だって事に気づいた。
夜の声は判断つけねえぐらい自分に似ていた。ここからでは姿も見えないし
わからなかったがそうなのだろう。

「ちっ、オレの呼びかけにも出てこねえくせに夢の中に出てくるなんてな
・・・・ってこれ本当にオレの夢なのか??」

空はこの時になってあることに気づいた。
これはひょっとして現実の事ではないか?あるいは過去に
夜とらんが会話した時のもんじゃねえかっ?

夜はずっとオレに何か隠してる。
それが何かはわからねえ、
けど絶対何か隠してる。
でなけりゃオレの前に現れていいはずだ。

そしてこの夢。
最近は藤守を夢でさえ見ることはねえんだぜ?
夜がオレに何か伝えようとしてる?

空は聞き耳を立てるように二人の会話を必死で聞こうとした。
けれどもう会話の続きは聞こえてこなかった。

何かが繋がりそうなのに繋がらない。ピースが欠けているのだ。
それが何なのかわからない。

『おい、夜、はっきり言えよ。こんなじゃわかるわけねえだろ。
こら、夜っていい加減に何とか言えよ。らんと何約束したんだよ。
藤守は一体・・・!!』


「空先輩!!」

いきなり耳元で大声で叫ばれて飛び上がるようにオレは起き上がった。

「なってっ夜・・・!?」

そこまで言って空は手をついた。
そこに居たのは待ち望んだ夜じゃなくて学だった。

「空先輩大丈夫か?なんかうなされてたみてえだったけど、」

「ああ、」

そうは応えたものの落胆は隠せなかった。

ここまで来たものの、真一郎にも藤守にもそして夜にさえ会えなかった。
改めて学を見ると目がひどく充血していた。
本人はいたって明るく振舞っていたが学も辛いことがあったのだ。

「永瀬になんかされたのか?」

「ううん、何も。それより藤守先輩の事だけど、」

その名に空は固唾をのんだ。

「教授や真一郎って人と一緒にアメリカに行ったかどうかはわかんねえんだけど
もうここにはいねえって芥が・・・。
空先輩に役に立てなくてすまなかったって、謝って欲しいって言ってたぜ。」

「永瀬がオレに・・?」

あの永瀬が空に謝るというのが良くわからなかった。
でもあの永瀬がいうのだから本当にもうここには真一郎も藤守もいないのだ
と思う。

空は断ち切るように作った拳を解いた。
握り締めていた髪がふわりと床に落ちていった。

「市川、戻ろうか。」

学はそれにただ頷いた。

空は研究所を出る前にもう1度研究所の長い廊下を
振り返った。

兄ちゃん、藤守、
もう本当に2度と2人に会うことはないのだろうか?


「空先輩。」

立ち止まった空の手を学が即すように握った。

「先輩みんなが待ってるぜ。」

「ああけどもう少しだけ、」

空は瞳を閉じるとここにはいない2人に話しかけた。

「兄ちゃん、藤守オレ別れはいわねえからな。」

その言葉を言ってしまうと本当に会えなくなってしまいそうな気がする。
だから、この先はこの扉の向こうで・・。


「待たせたな、」

空と学は自分たちの手でその扉を開いた。





                                             
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先に続きが気になる方は番外編飛ばして最終章へ。
番外編は夜とらんが悪い魔法使い?にかけられたお話です(冗談っす)