If ・・・(もしも)6章 囚われの学1 ※前話との繋がり悪いです。すみません; 学は手足を鎖で繋がれていた。
ジャラジャラと冷たい鎖の音だけが狭い部屋に響いている。 学は部屋を見回すように唯一動かせる瞳をうつろに動かした。 殺風景な部屋は拘束具のようなものが置かれているだけで それ以外なにもなく人の気配も感じられなかった。 一体どうしてこんな事になってしまったのか学にはわから なかった。深く思考を動かそうとするとまるで頭の中に霧がかった ように働かなくなった。 何か大切なことを忘れてしまってるような気がする。 学は必死にその霧を払うように抵抗しようとして 体のうちから湧き上がってくるような声に学は身震いした。 その声主は芥のものだった。 うっすらと甦ってくる記憶、思考の中で芥が泣いていた。 あの芥が泣くなんて学には信じれらないことだった。 けれど芥は泣きながら学を抱きしめ何度も許しを請うていた。 『がく・・ガク・・・すみない、・・・』 「芥、なんで泣いてるんだなんで謝んだよ?芥、芥!!」 そこで学は自身の腕を触れた感触のあまりの冷たさにびくりと 体をよじった。 「気分はどうだ?学」 冷たい手の感触とは違い声は優しかった。 顎を持ち上げられて学はその相手をみた。 これはホンモノの芥? 先ほど思考の中でみた芥と目の前の芥がダブる 「かい・・・オレどうしてこんな事になってんだ?」 学が出した声はとても声といえるものじゃなかった。 芥が途端に顔をしかめた。 それは先ほど記憶の中でみた芥の泣き顔に似ていた。 「薬の耐久性がついてきたか、もう切れかけているのか。」 芥は吐き捨てるようにいうと、消毒の済んだ注射器に鮮やかな 赤い液体を注入した。 それは血のように赤く学は湧き上がってくる恐怖に震えた。 「や、」 体が心がその液体を拒んでいた。 それでも芥は震えて逃げる学の腕を掴んだ。 手足に巻きついた鎖がジャラジャラと激しい音をたてた。 「芥、まさかその薬、」 「心配するな。お前を薬付けにするつもりはない。」 耳元でささやかれて学の体が小刻みに震える。 少しずつだが学は自分を取り戻していた。 もう少し、もう少し時間があれば学は芥の意図がわかるような気がした。 学は時間を稼ぐことだけを考えた。 「それって薬害中毒症は起こさねえのか?」 ニヤリと含んだように芥は笑うと それには返事せずいきなり注射器を学の腕に突きたてた。 「つぅ!!」 痛みで顔をゆがめた学に芥は冷笑を浮かべた。 「お前と話をするつもりはない。」 芥は笑っていたけれど声は泣いているように震えていた。 「か・・い・・」 薬が五臓六腑体に回っていく感覚がわかる。 ようやく起き上がってきた思考がまた遠のいていく。 なのに体だけはすごくあつくて、あつくてどうしようもない。 「か・・・い、」 学は繋がれたまま縋りつくように芥に腕を伸ばす。 芥は学の腕を引き寄せると体ごと強く抱きよせた 学が目が覚めたのは翌朝のことだった。
もっとも学はここにつれてこられてからの(本人は連れてこられたこと すら記憶にない)記憶や、時間の感覚がはっきりしないので どの程度の時間がたっているのかは判断できなかった。 学はだるい体をゆっくりと起き上がらせると部屋の中を確かめた。 昨日は頭が働かなくて気づかなかったが まるで拷問室のような薄暗く狭い部屋は芥の研究室の部屋と よく似た冷たい部屋だった。 学はそれでここが相沢教授の研究室の中なのだと理解した。 学は昨日よりもよほど頭がすっきりしていた。 それでも、記憶が諸所飛んでいるような気がしたし実際に そうなんだろうと思う。 学は深く深呼吸すると思考をめぐらせた。 芥は一体何をしたいのか? それにオレは明らかに何か(実験の検体として?)されている。 記憶が混沌としてるんだから、記憶を操作する薬品の研究か、 あるいわ監禁されてるところを見ると別の目的があるのか。 そこまで考えて学は長いため息をついた。 学は今になって試飲に付き合ってきた薬品に疑問を感じられずにいられなかった。 今まで疑問におもわなかったわけじゃなかったが学は芥を心底 信じていた。そう、無邪気なまでに、疑うと言うことをしなかった。 けれど・・・、 この部屋の隅の一角にある薬品棚に目が留まって学はそれを確かめるように よろよろと立ち上がった。 「芥がそんな事するはずなんてねえっ」て学は自分の考えを打ちけしたかった。 薬品が綺麗に並んだ棚に学が手を伸ばそうとした時、廊下でガラガラと物音が して学は慌ててベッドに戻った。 案の定、この部屋にカードキーが差し込まれ、学はまるで息を殺すように布団の中に 体を潜めた。 「おはよう、市川くん、調子はどう?」 驚いたことにその声主は中原桐人の声だった。 学は恐る恐る布団からその相手を確かめた。 桐人はワゴンに豪勢な食事を載せていた。 それは学の好物なものばかりだった。 途端に、学の腹がぐぐっ〜と鳴った。 だが、そのワゴンに、昨日芥が学に打った薬がのっていることも 学は見逃さなかった。 途端に体が微かに震えだした。それほどまでにあれはヤバイものなのだ。 「あれ、市川くん、お腹すいてないの?」 桐人は気味が悪いほどにニヤニヤしていた。 知っている桐人とは別人のようにテンションが高くて学はそれにも警戒した。 「それとも・・・その調子じゃまだ薬が体に残ってる?」 中原はベッド脇に腰掛けると独り言のようにつぶやいた。 「残念だな、こんなチャンスはそうないんだけどねえ。」 中原の声は独りごととは思えないほど大きな声で言った。 「今日は芥が学会に参加していて留守なんだよ。 だから僕が君を楽しませてもらうことになってたんだけど、 薬が体に残ってたんじゃ使えないな。」 そういうと桐人は乱暴に学の髪をひっぱった。 「うっ、」 学は反応しそうになったがそれを必死に耐えた。 桐人の話から薬の効果が切れているとわかればまた使われてしまう だろう。 「全く君がいけないんだよ。芥の気持ちも知らないであんなおチビちゃんに 手を出したりするから・・・・。」 桐人はそこまで言うと言葉を切った。 そしてまるで人格がかわったように今度は怒鳴り声をあげた。 「お前の価値なんて永瀬部長のものだからあるんだよ。 でなければ僕が殺してる・・・、」 学は桐人の闇の部分をみたような気がしてぷるっと震えた。 それに気をよくしたのか桐人が笑った。 「だからしっかり部長のために奉仕しなくちゃね。」 桐人の表情は恍惚としていた。 桐人も薬を使っているのではないかと学が思ったほどだった。 桐人はワゴンをそのままにして部屋から出て行った。 自動で部屋のロックがかかる。 しばらく何も起きないことを確認してから学はワゴンに近づいた。 『芥がいないのなら・・・・。』 この薬の成分を調べるのは今しかなかった。 6章 囚われの学2へ |