If ・・・(もしも)5章 真実の扉 1 ※青を追って研究所に辿り着いた空の話に戻っています。 オレは用心深く注意しながら研究所の廊下を進んだ。
研究所の室の数は多くて人の気配がしない所もあったが 人が明らかにいる部屋もあった。 まずいな、制服じゃ目立ちすぎる。 それにこんなに広くちゃ青がどこにいるのかなんて見当もつかねえ。 それでもオレは自分の記憶を辿るように一歩一歩、足早に歩き続けた。 そしたら突き当たりガラス張り扉の向こうに青が走り去っていくのが見えたんだ。 オレは大声で呼び止めたいのを寸でで堪えた。 すぐ傍の部屋に研究員たちの話し声がする。 物音に細心の注意を払ってガラス扉の前まできたオレは舌打ちした。 この扉にはカードの差し込む口があって、暗証番号を 入力しねえと向こう側にはいけねえシステムになっていたんだ。 「くそっ!」 オレは扉の前で地団駄した。 一体どうすりゃいいんだ!! その時背後の部屋から研究員たちが廊下に出てくる気配がしたんだ。 オレは咄嗟に向かい側の部屋に隠れようとノブを回したが部屋は堅くしまって開かない。 別の部屋を当たろうと思った時には遅かった。 オレは音もなく背後に忍び寄った人の気配にその時になって気づいたんだ。 あれだけ周りに注意を払っていたのに・・・。 すぐ後ろにある人の生温かい感触と冷たい息遣いを感じてオレの体が小刻みに震えだす。 まさかこの気配は・・相沢・・? オレは恐怖で振り返ることが出来なかった。 そして次の瞬間オレは背後から一撃でやられてた。 「たく・・ざまねえ有様だな、」 朦朧とする意識の中聞こえた声は懐かしい声だった気がした。 どれぐらい気を失っていただろう。 オレが目を覚ましたのは薄暗い研究室の一室だった。オレの体には薄手のタオルケット が掛けられていた。 ゆっくりと冷たい床から体を起こすと一人の研究員と目が合った。 やっぱり捕まっちまったんだと思うとオレは情けねえやら自分の無力さに腹立たしい 思いでいっぱいだった。 せめて青だけは助けてやりてえ、なんとかならねえものかと交渉の手段を考えていたら 見張っていた研究員がオレに話しかけてきた。 「空大丈夫か、手加減したつもりだったんだけどよ、どっか痛むか?」 オレはあまりに驚いて瞳を大きく見開いた。 まさか・・・まさか・・この声、 「なんだ、お化けでもみたような顔しやがって、まだ気づいてねえって?」 期待へと変わっていく思い、今度こそ、今後こそ本当にそうなのか? 研究員はかけていた眼鏡を外し、白衣と頭を覆っていたキャップも外した。 オレの前に現れたのは幻でも夢でもなく「兄ちゃん」だったんだ。 兄ちゃんはオレの前で得意げな笑みを浮かべていた。 それでもオレはまだ半信半疑のままだった。 「にい・・ちゃん?」 これは夢じゃねえよな?夢じゃねえんだよな? 「空、ちょっと見ねえ間に逞しくなったな。」 兄ちゃんにそう言われてようやくオレは血が全身に駆け巡るように兄ちゃんが生きて るんだって事を全身で感じられた。 オレは体中から溢れてくる喜びとか嬉しさとか、『犯した罪』の意識や、それらが一気に 噴出してくるのを押さえることができなかった。 「兄ちゃん!!」 オレが嗚咽をあげながら兄ちゃんの胸に飛び込むと兄ちゃんはオレを子供のように 抱きしめてくれた。 「兄ちゃん、ごめんな、オレ、オレ・・。」 「バカ野郎〜!!空は謝るような事してねえだろ?」 「けど、オレが刺したせいで・・。」 オレが最後まで言う前に兄ちゃんは言葉をさえぎった。 「んなの、気にしてねえって、それにオレはちゃんと生きてる・・そうだろ?」 トクントクンと兄ちゃんの心臓の音を感じてオレは「うん」と頷きながら 兄ちゃんの胸に子供のように擦り寄った。恥ずかしいとかそんなことは思わなかった。 たぶん兄ちゃんが生きてるって事をもっと感じたかったんだ。 「けど・・」 オレはそこまで言って重要なことを忘れていたことを思い出して慌てて兄ちゃんから離れた。 あまりに驚いて嬉しくて飛んじまったんだ。 「兄ちゃん、青のやつが研究所に入り込んじまって大変なんだ!!」 オレが血相変えてるってのに兄ちゃんは全然落ち着き払っていた。 「ああ、それなら心配いらねえぜ。」 「なんで?」 「青はオレが外に逃がした。もう2度とここには来ねえように「きつ〜く』言っておいたから 大丈夫だろう。」 「そっか。よかった〜。」 オレはとりあえず安堵した。兄ちゃんがそういうのなら間違いねえって。 「そうそう、青に「空兄ちゃんも助けてあげて!!」って頼まれたんだった。」 「はあ?」 オレは間抜けた返事をしていた。 あいつ、ひょっとしてオレが追ってること知っててここに入ったってか? けどなんで・・?オレをここに連れてくるのがハナから目的だったとか。 だとすると兄ちゃんに会わせるためか? いろいろ考えてみたがどれもオレが納得できる所には至らなかった。 どうにも青の行動の理由がいまひとつわからねえ。 まあ後で聞けばわかるだろうけど。 「でもまあ、オレでも出来なかった相沢の本拠地に乗り込んだんだ。 空には40点ぐらいはやらなきゃいけねえよな。」 「40点かよ?」 オレが苦笑すると兄ちゃんはニッと笑った。 「赤点は免れたじゃねえか。」 「追試もだろう?」 「まあしょうがねえな。それもまけといてやるか?」 オレと兄ちゃんは顔を見合わせてぷっと吹き出した。 1年ぶりだって事も、あんなことがあったって事も乗り越えてオレと兄ちゃんは今心の中 から笑っているんだって思う。 オレは七海ちゃんに一刻も早く「兄ちゃん」の事を伝えたくてたまらなくなった。 だがオレはこの後兄ちゃんから衝撃的な事実を聞かされることになる。 5章 真実の扉 2へ |