If ・・・(もしも)5章 真実の扉 2 一折笑った後、兄ちゃんが頭をかいた。
「ってオレも空の事言える状況じゃねえんだよな?」 少し真面目になった兄ちゃんの顔をオレは覗きこんだ。 「なんだよ?」 「実はここに逃げ込んだはいいけど、この部屋から出られなくなっちまったんだ。」 「へ?」 「開いてる部屋に咄嗟に飛び込んだはよかったが、どうやら内側からは開かねえみてえでよ。」 状況からするに笑い事ではないんだけど兄ちゃんにはどこか楽しそうだった。 「それってオレたち閉じ込められちまったってことだろ?」 どうすりゃいいんだって考えながらオレは薄暗い部屋の中を歩きながら見回してみた。 地下室のしかも倉庫って感じの所だから窓一つなくて、あるのは兄ちゃん とオレが入ってきただろう入り口だけだった。 オレはそこまで行って試しに戸を引っ張ったり、押したりしてみたが固くしまった扉は 開く気配さえねえんだ。 それに兄ちゃんの言うとおり内側には戸を開けられるような鍵も何もないし。 一体どういう部屋なんだ? これじゃあ外に人が来るのを待つしかねえけどオレが見つかるとまずいから ここに逃げこんだんなら意味ねえし・・。 オレが戸の前で考え込んでると兄ちゃんに「無理だろ?諦めろ、」って言われた。 けど諦めろって言われてもだぜ? 「空、明日の朝には何とかなるからよ。んなに心配すんなって。 それよりもいい機会だからな。話してえことがいっぱいあるんだ。 こっちこいよ。」 明日にはなんとなるって事がどういうことかわからなかったけど オレも兄ちゃんには山ほど聞いてもらいたい事があった。 七海ちゃんとのこともそうだけどな。 兄ちゃんは許してくれるだろうか? オレはこの時にはもう兄ちゃんの手に七海ちゃんを委ねるつもりでいた。 七海ちゃんの薬指には兄ちゃんとの思い出の指輪が今も光ってる。 オレはこの1年の間七海ちゃんがオレの生きてく支えに、そしてオレ自身が七海ちゃんの支えに なれた、その事だけで充分だった。 オレは兄ちゃんがしめした(兄ちゃんの隣の)場所に並んで腰を下ろした。 「そら・・・。」 今までになく真剣に名を呼ばれてオレは兄ちゃんの横顔を見た。 「兄ちゃん?」 「オレはもうお前たちの所には戻れねえんだ。」 「どうして?」 「オレが相沢側の人間になっちまったからだ。」 「ウソだろ?」 「ウソじゃねえ。本当だ。」 オレは膝の上にあった拳をぎゅっと握り締めた。 綾野ちゃんが相沢側の人間だったのはこれ以上オレたちに危害が加わらない為だったって オレは思ってる。 兄ちゃんが死んでからは(と思い込んでからは)綾野ちゃんはここへの出入りもしてねえって 言ってたし。 だから兄ちゃんもそうなんじゃねえかって思うと、 オレはなお更ここから一緒に抜け出さなきゃならねえって思った。 「兄ちゃんが相沢側の人間になった理由はなんだよ? 相沢の動向を探るためなのか?それとも相沢に近づいて隙をみてやっつけるつもりなのか?」 「んなじゃねえよ。」 「だったら何だよ!!」 オレは知らない間に大声を上げてた。そんなつもりじゃなかったのに。 答えを迫った俺を兄ちゃんは暗がりだっていうのに眩しそうにみつめていた。 オレはそんな兄ちゃんが本当に遠くに行ってしまうような気がして焦燥感 が胸を襲った。 「惚れちまったんだ。相沢をここに置いてくなんてできねえぐれえに、」 オレは聞き違いだって思った。兄ちゃんが「相沢に惚れた」ってそんなことウソだって。 「違うよな?んなのウソだよな!!」 「なんで、んなウソつかねえといけねえんだ?」 「兄ちゃん?!」 オレは胸から上がってきた怒りとも悲しみともわからないものに駆られて兄ちゃんに飛びかかってた。 「うわあああ・・・。」 さっきまで縋っていた胸にオレは拳をあてドンドンと叩いた。 「違う」って言って欲しかった。何かわけがあるんだって。 「七海ちゃんはどうすんだよ。兄ちゃんじゃなきゃ七海ちゃんは駄目なんだ。 オレだって、兄ちゃんがいなかったらどうしていいかわかんねえよ。」 ドンドンと胸を叩くと兄ちゃんはオレの背にそっと腕を回した。 「たく、いつまでたってもガキみてえな事言いやがって・・。オレは死んだことになってるだろ? だったら今のままでいいじゃねえか。」 「でも兄ちゃんは生きてるだろ!!」 「空、お前の知ってるオレは死んだんだっ。オレは今は相沢の恋人だ。」 兄ちゃんはそういうとオレがドンドンと叩いていた胸を開くようにシャツのボタンをゆっくりと外した。 そしてそれを指し示しすようにオレに見せた。 心臓を貫くようにそのキズ跡は痛々しく残っていた。 「あっ・・・。」 兄ちゃんを叩いていた拳が小刻みに震えて落ちた。 「空・・お前を責めてるわけじゃねえんだ。けどもう戻れねえってのは本当なんだ。」 兄ちゃんはボタンを元に戻すとオレの髪をくしゃくしゃした。 「空ありがとうな。」 そういって笑った兄ちゃんはオレの知っているあの頃の兄ちゃんだった。 真実の扉 3 ![]()
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