If ・・・(もしも)4章 学と廉2 その日の午後、学は珍しく部活にでてきた幽霊部員の一人羽野と化学準備室にいた。
今日は水の精製方をいくつか試してみるという実験だった。 なんでこんな初歩的な実験をすることになったかというと実は学が 次の中等部の理科の授業に選んだ課題だったからだ。 「なんといっても水は人間の源だからな。」 「何だかんだ言ってマナブちゃん、結構がんばってるよね。」 「ん〜、なんか化学嫌いってやつが多くて悔しいっていうかさ。」 学がそういうと羽野は苦笑いした。 「まあそうだろうなあ。」 「それにオレたちが卒業したら化学部誰もいなくなっちまうし・・。」 「それで、うちの部に来てくれそうな奴いた?」 「ん〜脈ありかなって思ったやつはいたんだけどな。目当ては芥みてえなんだ。」 芥が卒業してからすっかり寂しくなった化学部に学は大きくため息をついた。 「永瀬先輩にこっちに来てもらったらいいのに。」 「んなのできねえよ。芥忙しいんだぜ?」 「けど、このままだと本当に化学部廃部ってことにもなりかねないよ。」 「だよな。」 学がもう一度盛大にため息をついたとき化学室の扉をノックする音がした。 化学室は準備室の扉を隔てた向こうで学は声を張り上げた。 「悪い。今手え放せねえんだ。入ってこいよ。」 そうすると遠慮がちに化学室の音が開く音がした。 「ひょっとして羽柴先輩かなあ?」 「先輩卒業してからは全然こっちにはきてくれねえんだぜ。」 学の顔には「一人で毎日寂しいと」かいてあるようだった。羽野はそんな学に 心の中でわびることしか出来なかった。 「あの・・・失礼します。」 2人の背後で声がして振り返った。 そこには椎名が立っていた。 「あれ廉くん?」 先に反応したのは羽野の方だった。 学は目を丸くして羽野と椎名を見比べた。 「義広って椎名と知り合いなのか?」 「うん、風太の友達だから。マナブちゃんも廉と知り合いだっけ?」 「おう、っていっても今日、中等部の授業で初めて会ったんだけどな。 てそっか!!ひょっとして風太と椎名って同じクラス?」 「同じクラスです。」 学は首をかしげた。 教室で全く風太に気がつかなかったのだ。 「何まさか風太の事気づかなかったのか?」 羽野に睨まれて学はカラカラ乾いた笑みを浮かべた。 「オレのかわいい弟が目に入らないなんて・・・。」 兄バカな羽野に椎名と学は思わず顔を見合わせて苦笑した。 「ところで椎名は化学部に興味があってきたんだろ?だったら実験していけよ。」 「はい。」 元気良く返した椎名に学はわくわくする気持ちが抑えられなくなって 自分が持っていた実験道具をそのまま椎名に手渡した。 「えっ?」 「ほらほら早くしねえと実験する時間がなくなっちまうだろ?」 羽野は苦笑すると廉に耳打ちした。 「廉君マナブちゃんは人遣いあらいから覚悟したほうがいいよ。」 「もう変なこと椎名に吹き込むなよ、」 椎名はそれにきょとんとしたが思わずぷっと噴出した。その笑顔は少女のように可愛くて 学はそんな廉におもわず見とれてしまう。 「おっマナブちゃんと廉くんって何かいいかんじ。」 「へっ?わわ、義広何言ってんだよ。それより実験実験・・」 慌てて取り繕う学に羽野は笑いたいのを必死でこらえながら学のあとを追った。 学にとってその日の部活は久しぶりに楽しいものになったのだった。 それから毎日というもの廉は化学室に顔を出すようになっていた。 羽野はほとんど部活にはでてこないので廉と学2人だけの活動 なのだが、学はいつしか廉が来るのを楽しみに待つようになっていた。 「なあ、椎名は次の理科の授業で何をしてえ?」 「急に言われても・・・でも今日の授業はちょっと・・。」 今日の学の授業は「昆虫の持つある種のフェロモンについて」だった。まあ求愛行動ってやつだ。 「性フェルモンの話か?なんかみんないつになく真剣だったよな。 やっぱ年頃の話だったか?」 けらけら笑う学に廉は頬を少し染めて抗議するように学を見やる。 だが学はそんな廉に気づいていない。 「でも。人は昆虫のようにただ臭いに惹かれるわけじゃないよ。」 「けどオレは同じ仲間の匂いとか、惹かれる匂いってのはあるんじゃねえかって思うけど。」 「それって何か科学的な根拠があるの?」 廉にしてはやけにこの件につっかかってる事に学は「んっ〜?」と頭を唸った。 「それを調べるのがまたいいんじゃねえ?って廉どうかしたのか?」 ようやくこの時になって学は廉の機嫌が悪いことに気づいた。 「なんでもない。」 「そっか?」 廉が鈍い学に小さく溜息をして、もうこの話から話題を変えようとしたとき なんの前びれもなく化学室の扉が開いた。 そこにはいつも廉が中等部の窓からから見ていた芥が立っていた。 「永瀬教授?!」 廉は憧れの先輩の突然の登場に今までの事も忘れて心臓が高鳴った。頬もほんのり 赤く染まるが、もちろん本人はそんなことに気づいていない。 芥は学の傍にいた廉をちらっとだけ見ると特に興味のないというように学に視線を移した。 「芥?珍しいなこっちくるなんて、どうかしたのか?」 「頼んでおいたデーター、期限は今日までのはずだったが、」 「そうだっけ?」 冷たく突き刺すような芥の視線にも学は全く動じず首をかしげた。 「まさか忘れていたというのではないだろうな。」 「えっとははは・・・。」 芥がますます眉間にしわをよせたので学は慌てた。 「悪い芥、データーは仕上がってるんだけど寮に置いてきちまってる。 今からでもかまわねえ?」 「大学部の方に持って来い。」 「わかった。」 芥はそういってようやく学の傍にいた廉に目を向けた。 廉はそれであわててペコリとお辞儀した。 「あのオレ・・・椎名廉って言います。よろしくお願いします。」 「オレは永瀬芥だ・・・。よろしく・・。」 芥はそう返すと微笑んだ。あの芥が笑う? 学といる時でさえほとんど笑ったことがない芥が。 学はあまりにも驚いて芥を凝視したほどだった。 「学何をしている。早く行って来い。」 「ああ。うん。」 「廉悪いけど今日の部活はなしな。後任せていいか?」 「気にしないで、オレやっとくから。」 「頼んだぜ。」 学は2人の事が気になったが化学室を出て行くしか仕方がなかった。 4章 三角関係1へ ここから |