If ・・・(もしも)4章 学と廉1 ※3章は学と廉そして芥のお話です。 今までと同じ話なの?ってぐらい最初ノリが軽いです。だんだん暗くなって いきますが・・(苦笑) それは学(市川)が高2になって一ヶ月ほどのゴールデンウィーク
明けの日のことだった。 「ちわ〜っす!!」 職員室に元気よく入ってきた市川を呼び出した梅谷は深くため息をついた。 「市川、職員室に来て『ちわ〜っす』はないだろう?」 「へへ、そうかなあ?」 「全くお前はいつまでたってもだなあ。この間も廊下を・・・」 くどくどとまだまだ説教の続きそうな梅ちゃんに学は嬉しそうに満面の笑みをみせた。 「それで梅ちゃんオレに何か用なのか?」 まだまだいい足りない梅谷だったがもう1度大きくため息をつくと肩を落とした。 市川には何を行っても無駄だというのもよ〜くわかっている梅谷だった。 「なんかしんねえけどそんな落ち込むなよ。なんか悩みがあるんだったら オレが聞いてやるからさ。」 まるで「オレにまかせろ」という風に胸をはる市川にますます眉間にしわをよせる梅谷だったが 当の本人は全く悪びれてはいないというのはわかってる。 「お前は・・本当にちっともわかってないんだな。」 ぼつりと口の中で梅谷が言ったことは学には伝わってはいない。 梅谷は姿勢を正すと話題を変えた。 「今日市川を呼び出した件だけどな、お前科学誌のネ○チャーに論文を発表しただろう。」 梅谷にとってはこの何も考えていなさそうな(というと失礼なのだが) 学がそんな快挙をやってのけたって事は信じられないことだったが 学は理数系(ことに化学においてはあの相沢教授でさえ認めるほど) の才能を持っているらしい。 「ひょっとしてアレ梅ちゃん読んでくれたのか?すっげえオレ嬉しい!!でも アレ英訳してくれたのは芥な。オレ英語からっきり駄目でさあ・・。」 聞いてもいないことを話し出した学に梅谷は苦笑いした。 けれど自慢したりしないところが学らしいとも思う。 おそらくそういった観念は学にはないのかもしれない。 「いや、論文の話じゃなくてな。市川お前中等部に理科を教えに行くつもりはないか?」 「へっ??」 唐突のことに流石の学も一瞬絶句した。 「中坊に??」 「そうだ、うちは理数系で有名な小坊から大学までの一貫校だろ?なのに 中等部の理科嫌い、化学嫌いが深刻らしい。それで一クラスに週1ペースでいいからお前に理科の楽しさ伝えてもらえねえかって?」 「えええええっ!!!」 それまで黙ってきいてた学は突然絶叫した。 「梅ちゃんマジ??けどオレ教師免許もってるわけじゃねえし・・それに授業だってあるんだぜ?」 「相沢教授や永瀬の助手もこなすお前が化学や物理、生物の授業を受けんでもいいだろう。 それに授業をお前一人で教えろってわけじゃないんだ。まあ中坊も歳が近いお前からいろいろな話を聞けばいい刺激になるんじゃないかっていうことらしい。」 「ううっ・・でもそれだったらオレより芥の方が向いてるんじゃねえのか?」 「永瀬は忙しいって断ったらしいぞ。それにお前の方が適任じゃないかって 中等部の先生も言ってた。どうだ、化学の楽しさを伝えてみたくはないか?」 そこまで言われると流石に学もこくりと頷いた。 というかこの言葉に学が弱いことを梅谷は知っていた。 「教科書どうりでなくてもいいらしいしな。」 「ってことは好きな授業をしていいんだな?」 「まあ、ある程度は教科書に沿ってくれたらと言うことだったがな。」 「そっか、じゃあオレやってみる。」 こうして学の中等部通いが始まることになった。 「ちわ〜っす!!」 中等部の教室に入った学の第一声はその挨拶だった。 みんな呆然と制服は高等部のものだが自分たちとそう変わらない(ともすると中坊より幼くみえる) 市川を凝視した。 「んな怖え顔すんなって・・。みんな理科や化学ってだけで引いてねえか?」 な、この中で理科苦手ってやついるか?」 人懐っこい市川の笑顔にお互いの顔を見合わせるものもいる。 どうしていいかわからないってかんじだ。 「正直に答えていいんだぜ?」 そうすると大方3分の2近くが手を上げた。 それに市川は内心苦笑しながら近くにいる生徒に聞いた。 「どんなところが嫌え?」 「あんまし実用的じゃないのに覚えないといけないことは沢山あるから・・。」 「確かにそうだよなあ〜」 市川はそれに頷くと大半の生徒も同様のようで頷いてる。 それで今度は手を上げなかった生徒に聞いてみた。 「じゃあ手をあげなかったやつは?何人かいたよな?」 恐る恐る手上げた数人のうちの一人と学は目が合った。 その生徒はまるでまだ小学生のようにあどけない容姿で女の子のような華奢な体つきだった。 「えっと、お前名前は?」 「椎名・・です。」 頼りなさげにそういった生徒に学は聞いた。 「理科の授業好きか?」 彼は恐る恐る手を上げた時と違ってにこやかに「はい。」と答えた。 「どんな所が好きなんだ?」 「わからないこと、不思議なことがいっぱいあるから。もっとオレの知らないこと があるんじゃないかって。」 市川はその椎名の返答にうんうんって頷いた。 「オレも椎名の意見に賛成な。オレたち人間は向上心があって欲深えんだ。 自分の知らないことを知りたい。もっともっと追求してえって 本来そういう生き物なんだ。 そうやってずっとずっと長い時間かかっていろいろなことが解明されてきた。 この世界がどんな風にできたのか。人間の構造がどうなってるのか。 理科ってのはもっとも俺たちと密接したこと取り上げてんだぜ。 さっき実用的じゃねえっていったやつがいたけど自分の体の構造ってどうなってるとか興味ねえか? もしさ、病気や怪我になった時自分の体の事知ってるのと知らねえのとは 違うと思うんだ。 まあそんなたいそうなことでなくてもいいんだけどな。 ふと疑問に思ったことを調べてみるだけでもいい。 例えば「なぜ空は青いのか?」とか「雨はどっからくるんだ?」とか。 そこまで学が言うと何人かがくすりと笑う。 「おお今そこ笑ったな。けど一度はそんなこと子供の頃かんがえたことねえか。オレはあるぞ・・!!」 市川が力説するととどっと笑いが漏れた。でもそれは学を茶化してのものじゃなく同じような 経験があるからだ。その証拠にみんなきらきらした目で学の話を聞いている。 「オレの授業はそんな疑問をみんなで解き明かしてこうって授業だからな。 沢山実験して自分の目で体で確かめてこうぜ。」 学はすっかり中坊の生徒に受け入れられ、授業もあっという間に終わった感じだった。 学が教室をでると慌てたように先ほどの少年が追いかけてきた。 「市川先生!!」 先生という言葉がどうもしっくり行かない学はそれが自分の ことだ認識するまでしばらくかかった。 「あの?」 困ったように椎名が学を見上げてる 「えと椎名だったよな?」 「はい。」 はにかんだように微笑んだ椎名があまりに綺麗だったので 思わず学は見惚れてしまった。 本当に同じ男とは思えないほどに椎名は華奢でかわいかった。 「市川先生は相沢教授や永瀬教授の助手もされてるんですよね?」 「まあ、そうだけど・・。それより椎名その市川先生ってやめろよ。」 「えっ?」 「敬語もな。歳もそんなかわらねえんだし。ため口でいいって。」 「けど・・・。」 口をつぐんだ椎名は何をどう話せばいいのかわからなくなったようだった。 学はそんな椎名に笑った。 「んなに困ることか?だったら先輩って呼べよ。」 「はい。市川先輩」 元気よく返事した椎名を学は改めてかわいいなと思ってしまう。 「椎名は化学に興味あるんだろ?」 大きくそれに頷いた椎名の瞳はキラキラと輝いていた。 それは学と同じ純粋に化学に焦がれてる瞳だった。 「もしよかったらさ放課後高等部の化学実験室に来いよ。 部活やってるからさ。」 「ひょっとしてそこに永瀬教授もこられるんですか?」 椎名の質問に学は苦笑した。 化学部は芥の人気で一時はすげえ部員がいたんだけど昨年芥が卒業してからは 幽霊部員も入れて3人という寂しい部になっている。 椎名も芥が目当てなのかと思うと学は妬けるようななんとも 複雑な気分になってしまう。 「芥は卒業してからほとんどこっちにはこねえな。」 「そうですか。」 明らかに落胆を見せた椎名に学も落胆する。椎名は違うと思ったのに・・・。 そこで2人の間を隔てるチャイムが鳴った。 「すみません。先輩忙しいのにオレ呼び止めて・・。」 「んなの気にしなくていいって。 椎名、芥はいねえけど、化学部よかったらいつでも来いよ。」 「はい。」 元気よく頷いて教室に帰っていく椎名の背を学は消えるまで見送った。 「ちょっと期待してもいいかな?」 椎名の背にそうつぶやいて学は苦笑した。 だがその答えは意外と早く知ることになる。 4章 学と廉2へ |