If ・・・(もしも) 3章 相沢と真一郎2 地下室(といっても温室のうえ高い吹き抜けの窓からは明るい陽も入るのだが。)の研究所を出た真一郎はサングラスをしていても日差しに眩暈を覚えた。
『3月だっていうのにこんなに日差しが眼にしみるなんてな・・・。』 強い風に寒さを感じたがそれと同時に生きているのだとも感じられた。 そうして真一郎は地を踏みしめる喜びを感じていた。 真一郎はまずこの付近一帯を歩くことにした。 本当は相沢が用意してくれた車で出かけたほうが安全なのだろうとは思ったが とにかく自分の足で歩いてみたかった。 研究所のすぐ傍には大きな学園があった。 相沢はここの教授もやっているらしいが・・・。 真一郎は学園の正門の前で足を止めた。 授業中なのだろうか? 喧騒はなく学園内は静かなものだった。 中に入りたいと思わなかったわけではないが流石に部外者の自分が学園に入ることは躊躇われた。 それにどこに自分を知る者がいないとも限らない。 それから角を曲がると緩やかな坂道があってその先は・・・。 見覚えのある景色に真一郎は息をのんだ。 そうだ、ここをまっすぐ行けば小さな喫茶店があって。 真一郎はいつの間にか小走りになっていた。 そうして自身が思い出した喫茶店の前で立ち止まった。 「あった!!」 そこには赤い屋根のかわいいコーヒーショップがあった。 そうすると次々といろいろなことを思い出した。 次の角の左には商店街、それから、それから・・・。 真一郎は走りながらそれらを一つずつ確認していった。 そうしていつの間にか大きな公園の中にいた。 走りつかれて息があがっても真一郎は歩みを止める事をしなかった。 公園を歩き続けていると突然景色が開けそこから遠く海が見えた。 ボーっと音を立て悠々と船が泳いでる。 真一郎は自分がこの町に暮らしていたのだと感じていた。 覚えていなくても体が感覚が覚えている。 真一郎はそのままゆっくり歩き出すと公園の角を左に曲がった。 この先にはマンションがあったよな? ふと真一郎はそのマンションから見た夕陽を思い出していた。 そうだ。ベランダからすげえ綺麗な夕陽が見えたんだ。 海に落ちていく夕陽。 だからこのマンションで暮らすことを決めたんだ。 真一郎は思い出した一連の事に胸を弾ませてマンションまで走った。 だが、その足取りは次第に重くなる。 真一郎はその場所で呆然と立ちすくんだ。 マンションがあった場所は周りの建物からぬけ落ちてしまったように空き地だった。 確かにあったはずなのになくなった空間。 それはまるで失くした真一郎の記憶のようだった。 その後真一郎はどこをどう歩いたか覚えていない。自分の居場所を求めるように 徘徊しそうして気がつくと賑やかな学園近くの商店街まで戻ってきていた。 もう夕暮れ時で買い物帰りの主婦や部活を終えたのだろう学生たちが商店街で 買い食いやウィンドショッピングを楽しんでいる。 真一郎はなぜか人ごみが温かく感じた。たぶんみんな幸せそうにみえたからだ。 「オレも何か相沢に買っててやろうかな。」 そんなことを考えた真一郎は苦笑した。 買って行くもなにも真一郎が持っている財布の中身は相沢のものだ。 自分で稼いだ金でもないのにこれじゃあ意味ねえよな? そのまま商店街を進むと学生の恋人同士なんだろう、買い物を楽しむカップルをみかけた。 真一郎はなぜかその2人が気になった。 女性の方が少し年上だろうか?まだ少年の面影を残す青年はかなり美形で 遠目からも目だつ青い髪の色をしていた。 近づくにつれ真一郎は2人が男同士であることに気づいた。 よほど注意しなければ気づかないだろう。 2人に愛想よく笑いかけている八百屋のおばさんも気づいてはいない。 真一郎はそのカップルに微笑ましさと羨ましさを感じていた。 真一郎と相沢では外で手でも繋ごうもんなら周りから引かれてしまうだろう。 なのにこの2人は自然と手を繋ぎ隠すこともしない。 その時近づいた二人の会話が耳に入った。 「ケド、ホント久しぶりだよな。七海ちゃんと一緒にマンションに帰るなんて。」 「高等部卒業と大学部の入学祝いの両方ですからね。 今日は空君の好きなものを何でも作りますよ。」 「へへ、だったら・・・だよな?」 七海ちゃんと呼ばれた相手は少女のような微笑で「空くんったら」と窘めている。 結構オレ好みかもしれねえな。なんて考えているとその相手と目が合った。 一瞬相手の顔がこわばる。 真一郎はその瞬間心臓が止まってしまうのではないかと思うほどの衝撃を覚えた。 まずい。ひょっとして知り合いか?ケドオレは今変装してんだぜ?自分で鏡を みても「真一郎」 だとはわからねえぐらいにイメージを変えてある。 だが、相手の驚愕を覚える表情は普通のものではない。 真一郎はその場を逃げるようにくるりと向きを変え小走りで走り出した。 この場合そんな行動を取るほうがよほど目立つとは思ったが 心が、体が、ケタタましく警報音を鳴らしてる。 雑踏の中呼び止められたような気がしたが真一郎は振り返らなかった。 駆け足で(それでも尾行のことも考えてかなり道を選んで) 研究所まで戻った真一郎はそこでようやく後ろを振り返った。 「つけられてねえよな?」 すでに真っ暗になった道路はひっそりと静まり人の気配はない。もともと研究所は 入り組んでいる上、外部からの進入は出来ない仕組みになっている。 それにほっとしたようなそれいて寂しさを感じながら真一郎はIDカードを差込み声紋を認証をさせた。 そうすると体が震えだした。胸の中から勝手に湧き上がってくるわけのわからない感情を 止めることができない。なぜ、こんなに悲しいと思うのだろう。 真一郎のぼやけた視界の中に相沢が立っていた。 4章 学と廉1へ 3章はこれで終わりになります。。 ブログでは曖昧にしていた季節や時間をここでは書いています。(辻褄合わせのためです 苦笑) 書き足らないことがあったので3章は番外編を書いてみたんですがどうもイメージ とは違ったものになってしまい結局UPしてませんで・・・; 本編が終わってからゆっくり考えようと思います。 |