If ・・・(もしも)
  1章 真一郎の死





あの日、藤守の突き刺すような瞳がボロボロになったオレに
何かを伝えていた気がするんだ。

あの時お前はオレを伝えようとしていた?
冷たく突き刺すような瞳で立ち尽くすオレをただみていた。
今にも泣き出しそうな表情をして、

背を向けた藤守を追いかけることも出来ず、兄ちゃんの血の
ついた拳をオレは振り上げて嗚咽した。

炎に包まれた部屋から七海ちゃんとどうやって逃げだしたのか
オレは今も思い出せない・・。


                                 If (もしも・・)








マンションが焼けちまって、オレと七海ちゃんは奏司さんの所
で世話になってる。

オレは全然知らなかったんだけど、兄ちゃんと七海ちゃんが
住んでたマンションは兄ちゃんが所有していたもので
それでもってここは奏司さんの所有のマンションらしい。

「誰にも気兼ねしなくていいから。ずっとここにいてもいいんだよ。」

奏司さんはそれだけ言うと何も聞かずに空いてる部屋をオレと七海ちゃんに
提供してくれた。

本当はいいてえ事がいっぱいあったと思うんだ。

けど・・オレに何も言わなかった。
奏司さんも七海ちゃんもオレを責めたりしない。

いっそ「お前のせいだ」っと言われた方がどれだけ楽だろうって思う。

けどそうしないのは七海ちゃんも奏司さんも信じてるからだって思う。
『兄ちゃんはどこかで生きてる。』

あんな事をしたオレが言える事じゃねえけど。
オレもそう信じてる。
いつか兄ちゃんも藤守も帰ってくるって。


そう信じることこそが今のオレにとっての唯一の救いだったのかもしれない。








1月ぶりの学園―


教室の窓からオレは晴れ渡った大空を見上げてた。
普段とかわりねえ青空。聞こえてくる学生の喧騒。


オレはぽつりと空いた席をぼんやりみつめた。
まだ藤守がこの学園にいるようなそんな気がするんだ。

あの教室の扉から眠そうな眼を擦って
「なんで起こしてくれえなかったんだ」って怒鳴りながら
ボコボコ頭をたたいてくる藤守を思い出してオレは頭を振った。


あんなことがホンの1月前にあったなんて到底おもえねえほど
学園はあたりまえの日常なのに 藤守はどこにもいない。

オレはようやくそこで気づいたんだ。
登校してからずっと藤守の姿を探してる自分に。

そして本当にもう藤守はいないんだって事を。







その日オレは奏司さんのマンションに戻ってた。
学園のオレの部屋は短い間だったけど藤守との思い出があるから
辛えし。それに七海ちゃんの事が心配だったんだ。

だからオレは外泊が許される限り、こっちに戻ろうと思ってる。

七海ちゃんはあれから気丈に振舞ってるけど本当はかなり
辛いんだってオレは知ってる。
今日だってオレが部屋に入ったら電気もつけねえでぼっーと
してたんだぜ。

オレの顔を見て慌てて取り繕ってたけど。
無理しなくていいのにって思いながらオレは気づかねえふりをして
言った。


「七海ちゃん、今日何食べてえ?たまにはオレが作ってやるよ。」

「そんな、いいですよ。空くんは疲れたでしょう。私が作ります。」

「久しぶりに学校行ったぐらいで疲れねえって。それに今日はオレが作りてえ
気分なんだ。」

「だったら一緒に作りましょうか?」


オレと七海ちゃんが、そんなやり取りをしてたら突然玄関の扉が開く音がしたんだ。
ここは奏司さんのマンションなんだぜ?
インターホンもなくここに入ってくる人といったら・・?

オレと七海ちゃんはすぐに玄関へと向かった。
心臓がドキドキ脈打つ程の期待で出迎えたんだけど
オレたちの期待は玄関先で裏切られた。

そこに立っていたのは綾野ちゃんだったんだ。

しかも綾野ちゃんの風体は普段からは想像できないほどヨレヨレで表情は震えるほどに青ざめてた。


「綾野ちゃん?」

オレの呼びかけにようやく綾野ちゃんは顔をあげると震える声で
言ったんだ。





「真一郎が死んだ。」って

オレはその瞬間自分の中のすべてのものが崩れ落ちてくのを感じた。

「そんな・・・・ウソだよな。」

綾野ちゃんが崩れ落ちそうな表情のまま首を横に小さく振る。

「オレのせいだ。オレの・・・。」

突き上がってくる衝動を抑えることが出来なかった。
オレは部屋の奥ベランダまでいくとそこから飛び降りるつもりで身を乗り出した。
いや、そのつもりだった。

けどそこから先、体が思うとおり動かなかった。
それが誰の仕業かなんてオレにはわかりすぎてる。

「夜、頼む。オレを殺してくれ。頼むから殺してくれ!!」

懇願するように言っても夜はオレの体を自由にはしてはくれなかった。

「夜、お前にオレの体をやってもいい。心も体もお前にやる。だからオレを
消してくれよ!!」


夜はオレの体の自由を奪っただけでそれには何も応えなかった。
崩れるようにそこにしゃがみこむとオレを追いかけてきた
七海ちゃんがオレの体を支えてくれた。

「空くんのせいじゃありません。」

「違う・・オレのせいだ。オレが兄ちゃんを殺したんだ。」

「空君のせいじゃないないんだよ。」

七海ちゃんはもう1度オレにそういうとオレの体をぎゅっと抱き寄せた。
まるで母親が子供をあやすように。

「七海ちゃん?」

小さな七海ちゃんの肩が小刻みに震えてる。

「お願いです。空くん、どこにもいかないで。
空君までいなくなったら私は・・私は・・・」

「七海ちゃん・・・」



オレはこの時になって初めて藤守の事を怨んだ。
どうして兄ちゃんだったんだ?
オレを憎んでるのならなぜオレにしてくれなかった?

お前にだったら許せたって思う。



どれだけ泣いても枯れない悲しみをオレは七海ちゃんと抱きしめた。




                                    1章「綾野の告白」へ

あとがき

「If・・・もしも」連載開始しました。書きあがった後読み返して呆然としてしまいました。
暗すぎる(苦)
最後までこんな感じなので、駄目だ〜と思われた方は先に進まれないようにお願いします。