ハニーが大人になるまで 5





ベッドにとさっと下ろされて
綾野ちゃんはオレの髪を掻き揚げると優しくオレの額に触れた。

「熱はないみたいだね。」

今度は腕をとられた。
綾野ちゃんがオレの脈を計っている事はすぐにわかった。

「ん、早いな。血圧も少し上がってるかもしれない。風呂に入って
酔いが完全に回ったかな。」

綾野ちゃんはそういうとコップに水を汲んできた

「さっきの給仕さんが学くんが風呂に入っている間に薬を持って来てくれたんだ。
デザートもね。」

ウィンクつきで綾野ちゃんに言われて俺は酔っ払って倒れたことも忘れて破顔した。

「マジ?」

「ええ、でもデザートはもう少し落ち着いてからにしよう。」

起き上がれるかいと聞かれてオレは綾野ちゃんに支えられてゆっくりと起き上がった。
薬を含んでまたベットに横になると綾野ちゃんが優しくオレの濡れた髪を体をバスタオル
で拭いてくれた。

「いいよ。そんなのって綾野ちゃん?」

綾野ちゃんの顔がオレを覆って顔に触れるほど近くなる。
えっ?って思った時には遅かった。

唇がオレの額を捉えていた。

「あ、綾野ちゃん!?」

それは優しく触れるだけだった。
けど、それでもオレの額から全身に熱が駆け抜けたような気がした。

耳元に唇が触れ俺はびくっと体を震わせ綾野ちゃんとの体の間を手で
さえぎろうとしたらその腕を掴まれた。

「ますます顔が赤くなったよ。ひょっとして僕の事意識してる。」

「違うって、ってからかうなよ。」

「からかってなんてないよ。僕は本気だ。」

オレは体がますますカッとなった気がした。

「本気ってどういう・・・・。」

「まだわからない?」

綾野ちゃんはそのまま唇をオレの首筋に這わした。

「やめ・・・」

綾野ちゃんの指がオレの口びるをなぞる。
キスされたみたいな気がしてオレは全身が震えた。

「かわいいね。その反応、
体調の悪い君を襲うのはフェアじゃないと思ってる。
でもこういうチャンスは二度と来ないかもしれない。

だから・・・ごめん」

耳元でささやかれた綾野ちゃんの声は微かに震えていた。
同時に綾野ちゃんの手がオレの下半身に伸びてくる。
オレはようやくそれがどういうことかわかって抵抗するように体を大きく左右に動かした。

綾野ちゃんが好きなのはオレじゃねえし、オレが好きなのは綾野ちゃんじゃねえ。
そんなの自分を裏切ってしまうことと一緒だ。

「綾野ちゃん!!」

オレは精一杯で拒否するように声を張り上げた。

「綾野ちゃんがホントウに好きなのオレじゃねえだろ?
オレはそいつの代わりなんだろ。そんなのダメだって」

綾野ちゃんは驚いたように顔をあげてオレに微笑んだ。

「誰かの代わりが嫌なら君自身を好きになる。本気だといったろ。」

「・・・違っ、オレそんな事いってるわけじゃ、」

綾野ちゃんの手の動きがタオル越しに伝わってくる。
オレはぐっと力をいれて抵抗するように目を閉じた。

「・・・・香野が・・・かのが・・・。」

オレが香野の名前をだすと綾野ちゃんの指がとまった。


「こんな時に彼の名前を出すのは反則だよ。」

「でも・・・、」

綾野ちゃんはオレの唇にシーっと人差し指を押しあてた。
その時部屋のドアがくぐもった音を2回ならした。

「あ、綾野ちゃん誰か来たっ」

オレはここぞとばかりにこの手をどけてくれと主張する。
もう1度急かすように扉を叩く音が鳴る。

オレは大声を上げた。

「ちょっと待って、すぐ出るっ、」

綾野ちゃんは溜息をつくと仕方なくオレから離れた。
オレは慌ててバスタオルで体をおおうとベッドから飛び起きた。
天井と床がくっついたようにふらふらする。

綾野ちゃんも服を整えてから扉に向かった。

「はい、どなたです?」

綾野ちゃんが薄く扉を開けた瞬間オレは訪問者の顔をみなくても
一瞬にこの部屋が凍りついたような気がした。

バスルームに服を取りに行こうとしていたオレは思わず振り返った。

「どうしてここに?」

綾野ちゃんの表情が明らかに翳る。

「ここにいるのだろう。」

その声は学がよく知っている男のそれだった。
オレの酔いもいっぺんに醒めた気がしたほどだった。

男は綾野ちゃんを押しのけるとそのまま部屋に進入してきた。

そのまま部屋を見回しオレと目が合った。

「ガク、」

「か・・・い、」

「無粋ですね。」

背後で大げさなほどのため息をついた綾野ちゃんを芥はするどく睨みつける。

「学に何をした。」

「まだ、何もしてないよ。」

「するつもりだったということか?」

「もちろんそのつもりだったけどね。」

自笑するように綾野ちゃんは笑った。

「貴様・・・、」

今にも綾野ちゃんに掴みかかりそうな芥にオレは駆け寄った。

「芥、違っ、オレが」

オレの体からバスタオルが落ちた。オレは慌てて自分の裸を隠そうとしたが
芥はそのままオレの体を受け止めた。芥の息が近くなる。

「学、・・・酔ってるのか?」

「うん、・・・それで綾野ちゃんが介抱してくれただけなんだ。
ホントウだってだからさ、」

芥はふっとため息をつくとオレをそのままベッドに運ぶと腰掛けるように下ろされた。
そうして自分が着ていたロングコートとその下の薄手のセーターを脱ぎ
シャツとスラックスだけになった。

オレは芥のその一連の行動にドキドキした。

「これを羽織っていろ」

『オレの服がバスルームにある』ってことを言う余地はなかった。

言われた通りにオレは素肌に芥のセーターとコートを羽織った。
長身の芥のコートはオレにはぶかぶかで
足はすっかりと隠れてしまうほどだった。

ソファに掛けてあったオレの上着と鞄を芥が取りに行く。
脱ぎ散らかした靴を素足に履くと
芥に「ひとりで歩けるか」と聞かれオレはそれに頷いた。





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