ハニーが大人になるまで 4





逃げ込むように風呂場に入ってオレは息を呑みこんだ。


部屋の角に作られたバスルームは全面ガラス張りで外の夜景が
きらびやかに輝いていた。
オレは一端電気をつけたもののスイッチを消した。
外から見えないとはわかっていても恥ずかしかったし
それにこの方が夜景が綺麗だった。


広いバスルームと浴槽。
その浴槽にはすでに湯が入っていてぶくぶく泡が出てる。(ジャグジーみたいな)
『入りてえな、』と思ったけれど火照った顔と体を冷ますほうが先だった。

蛇口を捻ると冷たい雨のシャワーが落ちてきた。

「冷めて!!」

火照ったからだが急激に冷えてくのがわかる。
そうすると我慢していた涙がシャワーと一緒に流れでた。
外の夜景がぼやける。


「何でオレ泣いてんだ?」


内側から湧き上がってくる感情を我慢することが出来なくて、
オレは涙が枯れるまで嗚咽して泣いた。
なんでこんなに悲しいのか涙が溢れてくるのか自分にも
わからなかった。
たぶんホントに酔ったんだって思う。
そう思いたかった。

涙も嗚咽も冷たいシャワーが洗い流した後、オレは今度は急激に
冷えてしまった体に身震いした。

熱くなったり、寒くなったり忙しいことだとオレは一人苦笑した。
そしたら少し落ち着いたような気がした。
オレはゆっくりと浴槽に足を付けた。

じんわりと温かな感触が伝わってくる。
そのまま体を沈めると温かな体温を纏っているようで気持ちよかった。

しばらく浸かっていたら浴室の外から綾野ちゃんの曇った声が聞こえた。



「学くん、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だぜ!!」

「そう?だったらお邪魔するよ。」

「へっ?」

オレが間の抜けた返事を返した時には綾野ちゃんは電気をつけて
風呂場に入って来た。

しかもすっ裸で。

「あっ、綾野ちゃん!?」

流石のオレも慌てた。

「大丈夫だって、男同士なんだから、香野くんとはいつも一緒に
入ってるし、」

綾野ちゃんはそういってシャワーを軽く浴びて浴槽に入ってきた。
広いと言っても男二人が入ると少し窮屈だ。
肩だって微かにあたって、
風呂の湯がざばってあふれ出す。


「そういえばバスルームの電気つけてなかったみたいだけど、」

綾野ちゃんはそこまで言ってオレの顔をじっと見ていた。
泣いていたなんて気づかれたくなかった。
オレは困って顔を逸らした。

「学くん、目が充血してる。」

「そっ、そうか。オレ酒に酔うと目が充血するんだ。」

「声も枯れてる・・・・」

「そっかな、ハハハ」

オレは誤魔化すように笑ったけど綾野ちゃんは真顔だった。

「僕のために泣いてくれたのかい?」

「違・・・」

「ありがとう、」

綾野ちゃんはそういうとオレの体をぎゅっと抱き寄せた。

「あ、綾野ちゃん、」

オレは体温が一気に上昇したような気がして、慌てて立ち上がった。
指先と足先がびりびりと震えて目の前が真っ暗になる。

「学くん、」

綾野ちゃんが慌ててオレの体をさせてくれた。

「綾野ちゃん、オレ大丈夫だから、」

「大丈夫じゃないだろ、僕は医者なんだから任せて、」



オレはバスタオルにくるまれて恥ずかしいことに綾野ちゃんに横抱きに
(お姫様だっこともいう)抱えられ大きなベッドに下ろされた。









学が逃げるようにバスルームに入っていった後、綾野はため息をついた。

「さて、どうしたものか?」

そうつぶやいてもう1度ため息をついた。
学は香野くんのように警戒心もなく感情もストレートでわかりやすい。
それははたして香野の育った環境(研究所という特殊な)だけによるものだけ
だろうか?

香野くんも学のように育てばあんな風に無邪気に笑ったり感情をあらわせるように
なったのだろうか?
綾野はそんな事を考えて表情を落とした。


今まで機会があればとずっと伺ってきた。
自分の心を弄んでいることを綾野自身が一番わかっている。
その感情のままに行動すれば大事な人が傷ついてしまうことも。

それでももう待つことに疲れてしまったのだ。

綾野は決心するとバスルームへ向かおうとした。
だがそれに『待った』をかけるように部屋をノックするものがあった。

「誰?」

綾野は舌打ちすると手短に言った。

「申し訳ありません。必要ないかもしれないですが・・・」

先ほどの給仕だとわかって綾野はすぐに戸を開けた。

「すみません。」

給仕は2度謝って綾野に先ほど学が所望したデザートと薬(酔い止め)
を手渡した。

「必要ないかと思ったのですが、」

「いえ、連れが喜びます」


気を利かせたのだろう。給仕はそれだけいうといそいそと立ち去っていった。
それを片付けていると今度は携帯のコールが鳴った。
それは綾野の携帯ではなく学の携帯だった。

綾野は特に慌てもせずコールがなり終わるのを待ったが、コールは留守電に
入っても再三続いた。
綾野はやむなく学の上着のポケットから携帯を取りだすと眉を細めた。

着信には『永瀬芥』の文字がうつる。

全く厄介な相手だと思う。
だが今日は邪魔をされるわけにはいかなかった。
綾野はそのまま携帯の電源を落とすを何事もなかったように携帯を学の上着の
ポケットに戻した。


そうして今度こそ全てを脱ぎさるとバスルームへ向かったのだった。





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ハニーが大人になるまで、CPは芥×学のはずなんですが方向がずれまくってきました(苦笑
っていうか私が綾野×学を読んでみたい願望がそうさせたというか(汗)

でもここでそうなっちゃうとストーリー戻せなくなってしまうのでここは自制しました。
いずれいつか・・・・(おい;)