ハニーが大人になるまで 3





案内された部屋に入った瞬間オレは目を疑った。
暗がりの闇の中、海がぼうっと浮かんでいた。その中に宝石のように光る灯り。

電気がついてそれが窓の向こうの夜景だとわかってもオレは夢を見てい
たようだった。


「あのさ、この部屋ってすげえ部屋なのか?」

「ジュニアスイートでございます。」

「ジュニアスイート?!」

流石に酔いも冷めそうなほどに俺は驚いた。
だってこんな贅沢ででかい部屋初めてオレは見た。

「ごゆっくりなさってください。」

給仕さんはうやうやしく頭を下げると退出していった。



「ベッドに横になったほうがいい。」

綾野ちゃんに肩をかしてもらってオレは見たことねえ程大きな
ベッドになだれ込んだ。

「ごめんな、綾野ちゃん、」

「いいえ、それよりどうです?体の方は、」

オレは目を開けると回ってしまいそうで瞳を閉じた。

「う〜ん、目の前がぐるぐるする。」

「寝たほうがいいですね。」

「でもこんな高そうな部屋大丈夫なのか?」

「子供がそんな事心配しなくていいよ。」

「子供ってオレ香野じゃねえし。」

「そうでした。」

綾野ちゃんはすぐ傍で笑ったみたいだった。

「せっかくだから酔いがさめたらここのお風呂入るといいですよ。
眺めが最高にいいいって評判だから、」

「そうなのか?じゃあ行ってみようかな。」

今すぐにも飛び出していこうとしてオレはやっぱりっていうか
体がくらくらして綾野ちゃんが慌てて制した。

「今入ったらますます酔いが回る。時間はたっぷりあるんだから。」

「あっ、」


オレは言われたとおりベッドに戻る。
そうしたら綾野ちゃんがくすりと笑った。
それは言葉にしなくても「やっぱり子供だ。」と言っているような気がした。

なんとも居心地が悪くなってオレはシーツをぐっとかぶった。
沈黙の時間が流れる。

オレは唾をごくりと飲み込むといつも聞きたくて
聞けなかったことを口にしようとした。



「綾野ちゃんとさ・・・、」

言い出してオレは何と言ってよいのかわからなくなって口を閉じた。

「オレと香野くんの事かい?」

その通りだったからオレは驚いた。ずっと聞いてみてえって思ってたんだ。
けど香野がいるときには聞けねえしそうじゃなくても芥がいるし。
オレは綾野ちゃんの問いに答えなかったけど綾野ちゃんはぽつりぽつりと
話し始めた。


「僕は香野くんとは血縁がないんだ。」

オレはなんとなくそうじゃねえかなって思ってたんだ。

オレと両親にも親子の血縁関係はねえんだ。
大人になるまで知らなかったことだけどパスポートを取る時に戸籍欄に
「養子」なっててそれで初めて知った。

香野とオレは歳は離れてるけど瓜二つだし。
そして養子だってことも境遇が似てる。

ただの偶然ではねえ気がする。

「やっぱそうだったんだ。」

「学くん知ってたの?」

「なんとなくだけど。けどなんで綾野ちゃんは香野の保護者になろうって?」

「香野くんのお父さんは僕にとって大切な人だったから、」

綾野ちゃんの顔がちゃんと見られなかった。
『大切な人だった』って過去のことって事だ。

「その人はもういない。」

つぶやくように言った綾野ちゃんの表情は微笑んでいても悲しかった。

オレは切ない想いで心が痛んだ。
大切な人って綾野ちゃんの好きな人だったってことがわかったから。
同時にその人に子供がいたってことは綾野ちゃんとは添い遂げられなかった
んだって。

「香野はその人に似てるのか?」

聞いてしまった後、『しまったっ』て思った。
もし香野に似ていたら俺にも似てるって事になっちまう。

「全然、と言いたいところだけど、最近似てるなって思うこともあるよ。
頑固なところとか、一つのことに夢中になると周りが見えなくなる
ところとか、」

「辛いって思うことねえ?」

「全くないっていったらうそになるけど、香野くんといられたら僕は幸せだから、」

「そっか、」

オレはなんでかわからええけど泣き出してしまいそうだった。
切なくて、辛くて、オレのことじゃねえのに、
綾野ちゃんはオレの目の前で微笑んでいると言うのに。


「あのさ、オレ、やっぱ風呂入ってくるな、」

「えっでも、」

「大丈夫だって、水かぶってくるだけだから、」


ほてった体を冷やしたいと言ってオレは
ベッドから飛び出した。
眩暈が襲ってきたけれどそれはなんとか気力で切り抜けた。

綾野ちゃんに泣き顔なんかみせたくなかったから。




                                  ハニーが大人になるまで4話へ 

ちと短かったでしょうか?

私のお話の中では『どうやら綾野ちゃんは相沢教授が好きだった』
というのが定着しつつありまして・・・(苦笑)

はじめは裏切り者って怒っていたんですよ(笑
ゲーム内で綾野ちゃんの裏切りでどんだけ頭にきたことか。
信じてたのに情報流してたのはあんただったのか!?って(おい;)
でもきっと綾野ちゃんにも事情があったんだって思うようになって、
その辺の解釈を含めたお話が私の中では多くなってきてるような気がします。