ハニーが大人になるまで 2 通されたのは個室じゃなかったけどカウンターのコーナーで
外側からは死角になるように作られていた。 しかも眼前は夜の海。 海は真っ暗だったけど行き行く船や目の前の大きなブリッジ、 その上を走る車が煌いていた。 2人だけの贅沢な夜景。 オレと芥はこういうところに来たことはねえけどきっとカップル 専用の席なんじゃねえかって思う。 そういえば綾野ちゃんはこのレストランではかなり特別な ようだった。 「綾野さま、支配人からです。」 オレたちが食事をしていると うやうやしく給仕がワインボトルを持ってきてくれた。 綾野ちゃんはそれに苦笑していた。 「すまない。今日は車で来ていて、」 「それは気がつかなくて。」 給仕の人は慌てて深く頭を下げた。 「いえ、僕の方こそせっかくのオーナーからの差し入れなのに、」 綾野ちゃんは本当にすまなさそうに言ってからオレの顔を まじまじと見た 「そうだ。学くん、君はどう?お酒は嗜むんだろ?」 「オレ??」 夢中でステーキを食べていたオレは顔にソースがついてことにさえ 気づかず顔を上げた。 そしたらナフキンで綾野ちゃんがオレの唇を拭った。 「あっ綾野ちゃん?」 「ごめん、ついソースがついていたものだから、いつもの癖で」 給仕の人のいる前で顔がかっとなったが、やっぱ今日のオレは香野の代わり なんだって思うと、ほっとした。 けど香野は未成年だからアルコールは飲めねえよな。 そんな事を考えながていると給仕の人と目が合った。 「少しぐらいはアルコールも大丈夫だけど、」 「だったら飲んでみない。このワインはオーナーが直接 フランスから取り寄せたものなんだ。」 それを聞いてオレは相当高いものなんだろうな〜っと 心の中で思った。 「なら飲んでみようかな。」 給仕の人は少しほっとしたようだった。 「綾野さまも今日はお車をこちらに置いていかれてはどうでしょう。」 『このワインお好きだったでしょう?』と聞かれて綾野ちゃんが 微笑む。 「そうだね。だったらお言葉に甘えてそうさせてもらおうかな?」 「是非そうなさってください。」 冷えたグラスが二つ用意されオレと綾野ちゃんは 改めてグラスを傾ける。 「乾杯!!」 「乾杯!!」 ワインの味なんてわからないオレでも美味しいと思った。 給仕が去ったあとオレは小声でいった。 「綾野ちゃんってすげえんだな。ここのオーナーと知り合いなのか」 「そんなことないですよ。 ただ以前オーナーの大切な人がこのホテルに 泊まった時に急に具合が悪くなってその時たまたま居合わせた だけです。」 「そうなのか?」 「ええ、だからすごい事なんてないんです。」 綾野ちゃんはそういったけどオレはやっぱりすごいなって思った。 「学君顔真っ赤だけど大丈夫?」 「へっ?」 綾野ちゃんに言われてオレははじめてぼうっと体が熱くなってる 事に気づいた。 「あはは、ちっと酔っちまったかも。」 喉が渇いていたこともあったけどワインの口当たりが良くてつい すすんでしまっていた。 「水もらった方がいいね。」 「うん。それよりかオレちょっと顔洗ってきてもいいか?」 「気持ち悪いのかい?」 「そうじゃねえんだけど、顔ほてって、」 オレは椅子から立ち上がろうとしてあれっ?て思った。 体がぐらっと傾く。床が目の前に迫る。 「学くん!?」 咄嗟に手を床についたけど目の焦点が定まらねえ。 「学くん大丈夫!?」 綾野ちゃんが駆け寄ってオレを支えてくれた。 「どうなされました?」 顔は見えなかったけど声でさっきの給仕さんだとわかる。 「すまない。つれが酔ってしまったようなんだ。 空いている部屋はないかな。」 「あっはい、すぐにご用意します。」 「あ、綾野ちゃん、オレ大丈夫だって、」 「ええ、でも大事をとっておいたほうがいい。 それに僕も少し酔ってしまったし。」 給仕は無言のままそれに頷くと退出していった。 綾野ちゃんはオレを椅子に戻し、絞ったタオルをほてった 顔に当てがってくれた。 「すげえ気持ちいい。」 「水も飲んだほうがいいです。」 差し出された水は冷たくてまるでオレの全身へと染み渡って いくようだった。 「なんかただの水なのにすげえ美味い。」 綾野ちゃんは微笑んでオレの髪を優しく掻き揚げる。 その手は冷たくて心地よかった。 綾野ちゃんの顔が息がかかるぐらいオレに近づいく。 「あ、綾野ちゃん?」 その時背後から声がした。 「お部屋の準備が整いました。」 「ありがとう、学くん歩ける?おぶろうか?」 とんでもないことを言われてオレはカラカラと笑った。 「香野じゃねえんだからそれはちょっと、」 それに綾野ちゃんは苦笑した。 「香野くんにはアルコールを飲ませたりしませんがね。」 オレは一人でゆっくり椅子から立ち上がった。 「デザートあったのに食えなくて残念だったな〜。」 それに給仕が微笑んだ。 「大丈夫ですよ。後で落ち着かれましたらお部屋にお持ちします。」 「本当?」 「はい。」 その道のプロフェッショナルという感じの給仕は綾野ちゃんとオレを支えてくれ そのまま部屋まで案内してくれた。 ハニーが大人になるまで3話へ
|