続・フラスコの中の真実 14







どれぐらい眠ったのかはわからなかった。
薬のせいですげえよく眠ったような気もしたけど、
たぶんそれほどたってなかったんじゃねえかって思う。

ぼやけた思考がいきなりはっきりと目覚めたって感じで
目が覚めた時案の定っていうか体中(特に腰のあたり)
がだるかった。
いつもあの薬を飲まされたあとはコレなんだ。

もっともその原因も今はわかってて・・・。

オレは上半身だけなんとか
起き上がって、無意識に服を整えようとしたけど
綺麗にされてて情交の痕らしいものも残されてなかった。

けど・・・何もなかったってわけじゃない。夢だったらどんなに
いいかっておもうけど。
この腰にくる鈍痛には覚えがあるし、記憶も朦朧としてるけど
覚えてる。




オレが目覚めたのはソファの上で(おそらく研究所の部屋のどこか)
部屋の照明は仄暗く冷たかった。
近くに教授の姿はないみたいだな?

部屋を見回してそれにほっとした。だってどんな顔して会えばいいかわかんねえし
それに・・・芥や廉を裏切ったような罪悪感だってあるし。

ううん、そんな罪悪感って言葉で片付けられない感情がオレの胸の中
で渦巻いてた。

特に芥のことは・・。
教授は芥とああいうことを以前からしてたってほのめかしてた。
今の教授は記憶が断片的にしか戻ってねえから、それが本当なのかは
わかんねえけど・・・。

だったらいっそオレの作った薬を教授に飲ませてみる・・・?

その時オレは「目には目を歯には歯を・・・」なんて台詞が浮かんで
そんな風に考えた自分にぞっとした。

もう人を傷つけたりする薬はつかわねえって、芥とそう決めただろ?

もし人の心のなかに種があったとして、その種が傷ついちまったら
芽が出ねえかもしれねえだろ?もし出たとしてもちゃんと成長できねえかも
しれないし。
薬はそれを補うためのものなんだ。
その種を芽を壊すような薬を使っちゃダメなんだ。

・・・けど教授はまだ薬に頼らないといけねえんだよな。
教授に抱かれた時、オレは芥を思い出してた。
いろんなことがごっちゃになってて、いつの芥なのかわかんなかったけど。

芥は。あの時オレにいろんなことを話した気がする。
オレが薬で忘れちまう事をわかってて。

芥は本当はオレに忘れてなんか欲しくなかったんだ。
今だからわかることだけどな。

だからってわけじゃねえけど教授がさっき言ったことは、
かなり本当のことなんじゃねえかって思ったんだ。

けど、一緒に廉と七海ちゃん家に行った教授も本当の教授だって思いてえ。
あんなに楽しそうに笑ってた教授がウソや虚空のものだとは思いたくねえだろ?

何が真実で何がウソなのか。ちゃんと見極めねえと、またみんなが傷ついちまう。




オレは重い足取りでソファから立ち上がるとふと目に付いたものに反射的に
手を伸ばしていた。
オレの白衣に長い髪が1つ付いてたんだ。オレの髪とは明らかに違う
細くて長い髪。芥の髪とよく似たその髪質はおそらく教授のもの。
きっとオレをここへ連れて来るときについたんだ。

オレはそれをおそるおそる指でつまんだ。
するとなんでかわかんねえけどぷるぷると指が震えだしたんだ。
まるで教授が直接オレの中に触れたみてえな・・・そんな感じだった。
その震えが全身に広がりそうになって、オレは慌ててそれをポケットに
しまいこんだ。

放り投げてしまうことも出来たんだけど出来なかったんだ。

「大丈夫だって、怖くねえ。」

・・・教授だって人間なんだぜ?
けど、なんでオレこんなにびびってるんだ?

ポケットの上からその髪をもう1度確認するように撫でると、先ほどの
振るえはなかった。

オレの研究所についたら遺伝子を調べてみよう。
芥のものも採取して。
遺伝子からその人の考え方までわかるわけじゃねえけど
傾向ってあるから・・・教授の見えるものがオレにもわかるかもしれねえし。





オレはよろとろと歩き出すと部屋をあとにした。

その後どうやって研究所を抜け出したのか歩いたのか覚えてねえんだけど。
気づいたら芥の研究所の近くまで来てたんだ。

東の空が少し明るくなっていて、オレはそれでようやくほっとして
近くにあった道路わきの塀に凭れるようにしゃがみこんだ。

薬の効果は切れてるはずなのに足は重くて、もう1歩だって歩け
そうにはなかった。
誰もいねえしちょっとぐらいここで寝てたっていいよな?

そう思って目を閉じようとしたら目の前で立ち止まった人の気配がしてオレは重い目を
持ち上げた。そこにいた人物にオレは目を見開いた。

「芥!!」

眠気が吹っ飛ぶほどに驚いた俺とは対照的に芥は冷ややかにオレをみつめてた。
それでもオレはよろよろと立ち上がると最後の力を振り絞るように
芥の胸に飛び込んでた。


「芥・・・芥・・・かい・・・。」

「ガク・・・!?」

なんで、なんてタイミングでこんな所にいんだよ。

芥がオレを支えるために背に腕を伸ばしてきてオレはいろんな思いが胸にあふれてくる。
言いたいことはいっぱいあんのに、いろんな想いがごっちゃになって言葉にならねえ。
けど、オレが今芥に伝えたいのはどんなに都合のいいやつだっていわれても
「愛してる」って事だけだ。



「芥、・・・・。」


すがり付くように芥の背に腕を絡めると芥はオレを抱きかかえてくれた。
オレは大きな胸に体を預けてそのまま深い眠りへと落ちていった。



15話へ

あとがき

次回は芥×ガク
教授に負けないようにがんばります(笑)