続・フラスコの中の真実 12 教授が帰り支度を始めたのが合図みてえに オレはようやく夢から覚めたように感覚を取り戻した。 けど誰もオレがそんな状態だったなんて気づかなかったみてえで。 たぶんオレはあんな夢(?)を見ながらも無意識にみんなに合わせて たんだろうな。 「芥?どうかした?」 すっかりオレを芥と呼ぶことにもなれた廉がオレを見上げてた。 「オレも親父と一緒に帰るな。」 廉が心元なく胸に手をあてたから オレは体をかがめると廉にだけ聞こえるようにつぶやいた。 「廉愛してるぜ。」 「ガクなに突然・・。」 廉は微かに頬を染めていた。 そして頬を掠めるぐらい唇を近づけるとキスされると思ったのか びくんとしていた。本当ならキスしたいところなんだけど、こうギャラリーが 多いとな。 「廉もそろそろ正直になれよ。そうやって頑な廉もらしいけどさ・・。 七海ちゃん寂しそうだぜ?」 ここまでお膳立てしても七海ちゃんを「お父さん」とは呼ばない 廉にオレは拗ねる様にいってやった。 そしたら廉のやつ真っ赤な顔をして小さく「うん」と頷いた。 わかってはいるんだよな? それから廉のやつ何を思ったのかいきなり オレに抱きついてきて頬にチュッってしてきたんだ。 流石のオレも驚いたって・・普段は奥手の廉がこんなことするなんて。 つうか目の前でその様子を見てた空先輩と藤守先輩が目のやり場に 困ってコホンとか咳払いしてるし。青はわたわたしながら顔を真っ赤に させてるし。教授はニコニコしてるしで。 「椎名くん、よければ芥と一緒に研究所の方にも遊びにおいで。 もちろん、君のお父さんやお友達も歓迎するよ。」 教授は空先輩と藤守先輩の方を見てそういったけど、二人はなぜか顔を引きつらせて 苦笑いしてた。 空先輩って化学嫌いだもんなあ〜。 「はい。今度は教授の研究所にお邪魔しまさせてもらいます。お父さんも一緒に。」 椎名の「お父さん」発言に七海ちゃんはすげえ驚いたみてえだった。 七海ちゃんが動揺することなんてないんだけど・・。 廉にお父さんって言われたことがうれしかったんだよな? 「はい。廉と一緒に行かせてもらいます。」 「七海と椎名が行くならもちろんオレも一緒な。」 「研究室で何されるかわからねえからな。」なんて冗談にもならねえ事をつけたした 水都に教授は微笑んだ。 「ああ。楽しみにしている。」と。 オレと教授は肩を並べて歩き出すと教授がそっとオレの手を握った。 「親父・・・?」 なんとなく照れくさかったけど離すことは出来なかった。 先ほどみた白昼夢で芥とつないだ手の事が頭を掠めたんだ。 あれは・・・ぼんやりしていたけど昔の教授の研究所だったよな。 けど・・なんで・・あれは本当に夢なのか?やけにリアルでそれに はっきりしてた・・・。 まさか、まだ芥がオレに隠してる何かがあるのか? また思考の奥にのめり込みそうになった時教授がオレに話しかけてきた。 「この歳になったら手をつなぐのは恥ずかしいものか?」 ひょっとして、オレが考え込んでたからそう思ったとか?俺は慌てて 否定した。 「ううん。オレ手繋ぐの好きだぜ。それよりオレ今から教授の研究所に行ってもいい?」 流石に今からだと迷惑かかるだろうなどと思っていたら教授が優しく笑った。 「芥なら大歓迎だといったろう。したい実験があるならすればいい。 なんなら徹夜してもいい。私も付き合おう。」 「マジマジ?だったらオレマジで貫徹しちゃうかも。」 これから実験できるという嬉しさとともに先ほどからずっと気になっている事が頭の中を 掠めてる。 ひょっとして教授の研究所に行けばわかるんじゃないかって確信めいたものがあったんだ。 オレはどうしてもそれが知りたかったんだ。 もし・・芥がまだオレに隠し事をしてるならそれがなんなのかってこと。 そしてなぜ芥はそれを隠さなければならねえのかってことを。 オレは今の状況が理解でいきなかった。 周りに映るものは色素が消えたようにモノクロになっててダブってる。 そしてぼんやりと思考の中 誰かがオレの服の中に指を滑り込ませてきて何かを確かめるように 体のあちこちを触れていく。 ううん。これは触れてるっていうより弄んでる。 明らかにアレが目的。 けど、どうして・誰が・・・なんでこんなことに・・・? 急激に湧き上がってくる何かにのまれるようにオレの意識が遠のこうとする。 この感覚はよく知ってる。けどなぜかその答えは霧につつまれたみてえに 思い出せない。すげえ大事なことなのに。 『ダメだって思い出せ。のまれちゃダメだ。』 大声で叫んだつもりだったがそれは声には出なかった。 けど、オレは自分の叫び声でなんとか留まることが出来たんだ。 オレは七海ちゃんのマンションから出た後、教授の新しい実験室に きたんだ。 綾野ちゃんの病院の中だって聞いてたけど実際には綾野ちゃんの 病院の地下に作られてた。 以前の教授の研究所を彷彿させる研究所なのかと思ったけど そんなことはなかった。 厳重に幾十にも掛けられた防犯システムも警護もここには全くなかったし。 研究所の各部屋は閉鎖的なものじゃなくて全室ガラス張りで どこで今なにが研究・実験されてるのかすぐわかるようになってた。 オレはわくわくしながらそのガラスの中に吸い寄せられるように顔面を 張り付かせた。 といってもこの時間だし研究所にはオレと教授しかいなかったんだけどな。 真新しい最新の機材に目を輝かせていたら教授が好きに使っていいって いってくれたんだ。 それでオレはもうとにかく夢中になって時間も、あれ程気にしてた芥のことも 忘れるぐらい没頭してしまっていた。 そしたら教授が「少し休もう。」と言ってコーヒーを持ってきてくれたんだ。 それも、教授がわざわざオレのために蒸留水で淹れてくれたんだぜ。 もお、それが最高にコクがあってうまくてさ。 ・・・それを飲んだ直後だった。 意識が鈍るような感覚が訪れて、めまいがして・・・何も考えられなくなって・・。 この意識がダブるような感覚には覚えがあるよな・・? オレはここまで思い出してようやくこの感覚の正体を思い出したんだ。 これは・・・芥がオレにずっと飲ませてた薬。 意識を朦朧とさせ、記憶を曖昧にさせる。 体を蹂躙するためにオレに使ってた・・・芥の薬。 そっか、オレはこの薬にもう免疫があるし、解毒剤も飲んでるから まだ意識だけは正常を保ててるんだ。 けど・・なんで、どうしてこんなものを・・芥じゃない誰がオレに飲ませたんだ? オレは朦朧とした五感の残りを研ぎ澄ませるように目を見開いた。 『教授?』 「ようやくお前を私のものにできる。この時がくるのをずっと待っていたのだ。 もう手放しはしない。お前を永遠に私のものにしてやる」 狂気に満ちた教授の瞳の中に捕らえられたオレがいた。 13話へ あとがき 次回は初っ端から・・かと。 ここまできたら、とにかく前進あるのみ!!
|