しばらくして寝室から出てきた兄ちゃんと七海ちゃんは
今度はちゃんと身なりを整えてたけど、兄ちゃんはなんだか
罰が悪そうだった。
「何か飲み物でも入れましょうね。」
キッチンに入った七海ちゃんは手早く準備すると
夜にはコーヒーをらんにはココアとクッキーを差し出した。
「らんくんは昨夜から何も食べてないからお腹がすいたでしょう?」
らんは七海ちゃんからおそるおそると言った感じでココアを受け取ると
口に含んでいた。
オレはそんならんにやっぱり違和感みてえなのを感じた。。
らんがそんなに怯えてる理由もわからなかったし、昨日からの藤守の
ことも気になった。
らんが一息つくのを待って兄ちゃんが切り出した。
「それで、オレたちに話っつうのは?」
先ほどの茶化したような態度は兄ちゃんにはなかった。
「ああ。」と夜が話を切り出そうとした時らんがそれを制した。
「夜、僕が話すよ。」
らんはぽつりぽつりと昨夕自分が見たものを話しだした。
マンションへと急ぐ道と真っ赤な夕日。
家路を急ぐ子供たち。
突然耳についた雑音がなくなってマンションの前で白衣を着たあの男が
マンションを仰いでいるのを見たこと。
そしてその直後、ナオが心を閉ざしてしまった事。
らんはそこまで言うと口を閉じた。
・・・・まさか藤守が会った男って?
「あい・・・ざわ?」
らんがあえて口には出さなかった名をオレは言った。
その瞬間オレを取り囲んでるものすべてがぴりっと
張りつめたような気がした。
七海ちゃんも兄ちゃんも夜すらも表情が動かない。
「何で今頃・・・」
だってオレたちがあれほど焼け跡を探しても見つからなかったんだぜ?
オレはそんなはずはないと自分の考えを打ち消そうとしたら
思考の中に夜が入ってきた。
『空、現実から目をそらすな。』
夜に言われてオレははっとした。
現実に藤守はあいつとあったんだ。そして心を閉ざして・・。
「らん藤守は・・・藤守はどうなっちまったんだ!!心を閉ざしたっていうけど
大丈夫なのか?相沢に何かされたんじゃ・・・」
夜は最初の約束どおりオレのいいたい事は言わせてくれた
けど矢継ぎばやの言葉は続けさせてはくれなかった。
『空とにかく落ち着け、』
「けど・・・。」
『らんが震えてるだろ。』
「あっ」
気づくとらんはふるふると体を震わせていた。
オレがらんに「悪かった」と謝ると
七海ちゃんが俺に目で合図してらんに優しく話しかけた。
「らんくん、辛い思いをしましたね。でももう大丈夫ですよ。
私も夜くんもついてます。
それに話は少しずつでいいんです。無理だと思ったらそれ以上は
聴きませんから。」
「ああ、辛くなったらオレが変わってやってもいいんだぜ?」
「うん。夜それに七海もありがとう。でも僕ちゃんと自分で話すよ。」
七海ちゃんと夜の言葉に励まされてらんはまたぽつりぽつりと話し出した。
「あい・・沢とすれ違った時にあいつが何かナオにつぶやいたんだ。」
らんはごくりと唾を飲み込んだので俺たちも固唾を呑んでそれを見守った。
「何と言ったのかわかりますか?」
「その・・・『お前は知っているのか』っ。とか
『フラスコの中のもの』がどうとかって・・・ごめんなさい。
それ以上のことは僕もよくわからない。」
らんが自分を責めるように顔を降って夜はらんを抱き寄せた。
「いいんですよ。らんくんはよくがんばりました。
それで直君はどんな様子かわかりますか?」
「居場所はわかるよ・・でも僕が呼びかけても出てこなくて。
こんなに長く直が心を閉ざしたのは初めてだし
僕どうしてらいいかわからなくて。」
オレは藤守のことを思うといてもたってもいられねえ気分だった。
だってこんなに傍にいるのにオレになにか出来ることはねえのか?
オレが拳を作って感情を抑えていると
七海ちゃんが兄ちゃんに目で合図を送ってそれまで腕を組んで黙って
た兄ちゃんが立ち上がった。
「空、夜、らん、心配すんな。」
兄ちゃんはそういうとオレの肩を叩いた。
「これからちょっくら行って調べてくっから。」
兄ちゃんの口調は軽くかった。まるで近くに買い物にでも行くようなそんな
ノリだった。
「だったら私も一緒に。」
七海ちゃんが立ち上がろうとしたら兄ちゃんはそれを止めた。
「七海はここにいて直を呼び戻す方法を考えてくれ。
夜と空はらんと直の傍にいること。」
「あたりめえだろ。」
不貞腐れたように言った夜に兄ちゃんは俺たちに心配かけねえように
笑ってた。
「でも真一郎にもしもの事があったら・・・。」
七海ちゃんの危惧を兄ちゃんは笑い飛ばした。
「これはボス命令。な〜に大丈夫だって。もしやべえと思ったらそれ以上は
首をつっこんだりはしねえよ。」
わざと明るく振舞う兄ちゃんに七海ちゃんもそれ以上は何も言わなかったけど
不満はありありと表情にでていた。
「とりあえずあいつがここに来た目的を調べねえとな。
七海、直と空の事はまかせたぜ。」
あくまで軽い口調の兄ちゃんに七海ちゃんは小さくため息をついた。
「わかりました。でも真一郎、朝食ぐらい食べてからにしてくださいね。」
そのままの勢いで今にも飛び出しそうな兄ちゃんに七海ちゃんは
苦笑した。 たぶん兄ちゃん自身が一番いてもたってもいられなかったんだと思う。
「ああ。そうだな〜まずは腹ごしらえしねえとな。」
ニッと笑った兄ちゃんに釣られるようにようやくらんの頬も綻んでオレも
少しだけ気持ちを取り戻したような気がした。
ただ現実に打ちのめされてちゃだめだよな。 きっと今までと同じように一歩づつ進めば道は見えてくるはずだ。
今までだってそうしてきたんだし、これからだってそうだよな?
ちょっと楽観的かもしれねえって思ったけどオレは自分に勇気づける
ように言い聞かせた。
そしてオレは実際はらんの手だけど藤守にオレの気持ちを伝えるために ぎゅっと手を握った。
『藤守大丈夫だぜ。どんな事があってもオレはもうお前の手を離さねえしお前
と一緒の道を歩いてく。だから戻って来い。』
らんはオレの手が夜のものじゃないとわかってたみてえだったけど
振りほどくことはしなかった。
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またしても話が進んでませんで申し訳ない。
なかなか色っぽいシーンにもたどり着かないや(爆)