フラスコの中の真実 3






     
カーテンから朝の光が差し込んでる。
そろそろ起きねえとな?

オレは休みの日でも朝のジョギングだけはかかさねえ
ようにしている。
1日でもサボっちまうと体がなまっちまうような気がするんだ。

ベットの中から大きく伸びをしようとしたらオレの両腕は思うように
動かなくて。
しかもこの覚えのあるくすぐってえような感覚はなんだ?

寝ぼけ眼で目を開けると目の前にはキスできそうなほど近くに
藤守の唇があってオレはいっぺんに目が覚めた。

いやまあ結構こういうことも普段になってきてるから
そんなには驚かなくなってはいるんだけど・・。
藤守はオレの両腕に包まるように眠っていて俺は起こさねえように
自分の腕をそっと抜いた。

ってそこでオレはようやく昨夜の事を思い出した。

昨夜は藤守は調子が悪かったんだぜ?
けど・・・らんは出てきて夜としたってことだよな。
なら藤守のやつそんなに調子が悪くなかったのか?

オレはちょっとほっとしたような寂しいような気分になって
気持ちよさそうに布団に丸まってる藤守の背に手を伸ばした。


「まあ昨日は夜とらんに譲っちまったけど今日はオレたちがな。」

自分でも照れくさくなるような
独り言をつぶやいて、ベットからそっと出ようとしたらいきなり
藤守のやつがうなされてるように叫んだ。

「・・・オ・・いかないで!!」

オレは突然の事に驚いて藤守を凝視した。
さっきまで穏やかな寝顔をしていた藤守の表情は泣き出しそうに
崩れて布団に丸まった体も震えてる。

「藤守・・・藤守どうした!!藤守!!」

オレが肩を揺さぶると大きくブルっと体を震わせて藤守が目を開けた。

「藤守大丈夫か。」

オレが声を掛けても藤守の焦点はあっていない。
オレが藤守を抱きしめようとした瞬間頭痛が走って夜が代われコールを送ってきた。

「って何だよ。こんな時に・・。」

「空、それはらんだ。直じゃねえ。」

朝が苦手な直がこんな早朝から起きるはずはねえか?と思いながら
もオレは昨夜からの理不尽な事にイライラを募らせた。

「夜それってどういうことだよ?」

「とにかく今はオレに代われ、事情は後でゆっくり話すからよ。」

オレは無理やり夜に体を交代させられて引っ込まされた。

震えてた藤守だと思っていたらんは夜の顔を見ると
胸の中へ飛び込んてきた。

そのあと二人で何か真剣に話してたみてえだったけどその会話
はオレには聞こえなかった。
オレには聞かれちゃまずい会話ってわけだよな。
それにしても藤守はどうしたんだ?
そりゃ朝は苦手だってのはわかってるけど、まさか今日1日らんに
体を譲るってわけじゃねえよな。

そんなことを考えていたら夜がオレに話しかけてきた。

「空、話がある。」

夜は至って真面目だった。

「話って?」

「真一郎や七海にもな。」

「兄ちゃんたちにも?」

「ああ、それで話が終わるまではオレが表に出る。
まあお前が言いてえことがある時は、交代してやっけど。」


言葉使いは普段の軽い夜の口調なんだけどそこには逆らえない
雰囲気があってオレはしぶしぶ頷いた。



オレたちが部屋から出るとリビングにまだパジャマ姿の
七海ちゃんがいた。
まあまだ朝も早えしそんなに違和感は感じねえんだけど普段リビングに来る時は
きちんと着替えてる七海ちゃんにしては珍しいことだった。

「あら、おはようございます、羽柴君、直くん?体はもういいんですか。」


七海ちゃんは目を丸くしてオレたちを見てる。
オレはまあ日課のジョギングがあるから朝はいつも早えんだけど藤守が休みの日に早く起きる事なんてねえからな。

夜はけど七海ちゃんに挨拶されたのに返事もせずぶすっとして
七海ちゃんをじろじろと見下ろしてる。
それでオレも夜の目線の先にあるものがわかった。

七海ちゃんの首筋には明らかにそれとわかるものが数箇所残ってたんだ。
でもそりゃそうだよな。七海ちゃんと兄ちゃんだって昨日は久しぶりに・・・だった
わけだし。

ってやめろよ。夜、そんなにじろじろ見んなって。恥ずかしいだろ!!
心の中のオレの叫びは案の定夜に無視された。

七海ちゃんはオレの様子がおかしいのに気づいたのか表情を強張らせてる。

「悪いけどよ。今すぐ話があるから真一郎を呼んでもらえねえ?」

「あなたひょっとして夜くん?」

恐る恐るといった感じで七海ちゃんは聞き返してきて。

「ああ、こっちはらんだ。」

夜がらんを示すとらんは微かに震えてて七海ちゃんもそれで何か察した
みたいだった。

「わかりました。真一郎を起こしてきますね。」

けど七海ちゃんが寝室に行く前にその扉が開いた。

「なんだ、なんだ朝っぱらから騒がしいな〜」

オレはその瞬間見てはいけないものを見てしまったような気がした。

兄ちゃんはバスタオル1枚を腰に巻きつけてるだけで、いかにもナニをしました
っていうカッコだったんだ。

しかも兄ちゃんの体にもキスマークが散らばっていて・・・。
ってことは七海ちゃんが・・・つけたってことだよな?

オレはやばい事を想像しそうになってぶんぶんと顔を横に振った。
といっても今は体は夜に取られてるからそんな事はできねえんだけど
気持ちはそんな感じだった。



「おおっ空、直早えじゃねえか。」

兄ちゃんは特に隠そうともせず堂々とリビングに出てきたけど七海ちゃんの体はぷるぷる
と震えてる。

「全く・・・真一郎さん。その格好は何なんです?」

つかつかと兄ちゃんに近づいた七海ちゃんがグゥで兄ちゃんを殴ってる。

「痛えな〜。七海・・・昨夜はあんなに・・・って何だよ。ななちゃん痛えって・。」

兄ちゃんは七海ちゃんに耳を引っ張られて寝室へと連れ去られていく。

「ごめんなさいね。羽柴くん、直くん。もう少しそこで待っててくださいね。」

七海ちゃんはいつもの笑顔なんだけどそれはすげえ剣幕で見てるこっちの
方が怖えぐれえだった。
バタンとしまった扉の向こうが急に静かになってオレは
兄ちゃんがなんだか気の毒になった。


夜はらんを手招いてソファに腰掛けるとオレの意思とはまったく違う
複雑な表情で長いため息をもらした。
それはなんだか夜らしくねえ気がした。

「たく真一郎も平和ぼけしやがって。」


吐き捨てるようにそう言った夜の台詞が妙に引っかかってオレは急に
不安を覚えた。


                                       

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前後の繋がりを考えると空の一人称はちと変かな〜と思ったんだけど
書きやすかったもんでこうなりました(苦笑)


それよりもお話が全然進んでないような・・・(汗)