フラスコの中の真実 2






     
らんはぽつりぽつりと夜に今夕自分に起こった出来事を
話した。

らんがあいつを見たと言うのは真実なのだろう。
信じたくはねえが、だからって直視しねえわけにはいかねえ。

夜はしばらく物思いに耽っていたがやがてぽつりと言った


「あいつが生きてたなんてな。」

「夜信じてくれるの?」

「あたりめえだろ。」

「けどなんで今頃・・・。」

体を震わせるらんを労わるように夜は優しくらんの肩を抱いた。

「それはわかんねえな・・・けど。
オレたちはあの頃みてえに一人じゃねえだろ?
空や直にはオレたちがいる。それに・・・」

夜は言葉では認めたくはなかったが真一郎や七海
奏司や綾乃それに市川や永瀬だって今ではオレたちの仲間だと
付け加えた。

「それにあの頃のようにただヤラレテルだけのオレたちじゃねえしな。」

最後の言葉は夜は自分自身に力強くいいきかせるように言った。
もう2度と直とらんに辛い思いをさせねえためにだ。

「だから大丈夫だって。」

「でもナオは・・・。」

「直だってそんなことはわかってるはずだぜ。ただあんまし突然だったから
驚いちまったんだろよ。」

それでもまだ心配そうにしているらんを夜は抱き寄せるとベットに
一緒に潜った。

「直のことだ。明日になったらひょっこり帰ってくるかもしれねえし
今日はもうらんも寝な。」

らんは精神的にかなりまいってる。
こういうとき直には逃げ場があってもらんにはないのだ。
だから夜は自分がらんのすべてを受け止めてやりてえといつも
思ってる。


「それでもダメなら明日空や真一郎たちに相談すればいいだろ。」

「うん。」

小さく頷いて自分の胸に顔を埋めたらんの肩を夜はぎゅっと抱き寄せた。

どちらにせよ「あいつの事」は明日にでもきちんと真一郎たちに話さねえと
いけないだろう。
が、今はすこしでもらんを安心させてやる事が夜には先決だった。

しばらくして安らかな寝息を立てはじめたらんに安堵して夜もいつの
間にか眠りへと落ちていった。









その晩らんは夢の中で直に会った。
直は深い心の闇の中にいた。

「ナオ、ナオ・・・僕だよ。戻ってきて。」

らんが呼びかけると直はチラりとこちらをみたが急に何かに
おびえるように震えだした。

「お前なんかにくぅちゃんは渡さないから・・絶対渡さないんだから!!」

目の前の直は見る見るうちにらんのよく知ってる子供の頃の
ナオへと変わっていった。
直の震える腕の中にはやっぱり子供の頃の空がいた。

「ナオ僕は何もしないよ。僕はナオの味方だよ。」

「そんなの信じない。こっちにこないで!!」

直はそういうと傍にあった空間から何か拾うとそれををらんに
向かって投げた。
それはらんの目の前で大きな石に変わった。
精神世界ではお互いの意志さえ強ければなんでも思い通りになる。

「ナオ!!」

らんがそれをよける前に石は粉々に砕けた。
直の顔がそれをみてますますこわばった。
らんはしまったと思った。よけなければよかったのだ。

「お前なんかあっちいけ!!
くぅちゃんは何があっても絶対に渡さないんだから。」

空を抱いたまま直は記憶のもっと奥へと走り去っていった。

「ナオ、ナオ待って!!」


心の中には直の足音だけが響きわたる。
途方にくれたらんはそこでペタリとしゃがみこんだ。

これではナオの居場所がわかってもナオは戻らない。
それでもらんは自分を抱きしめる温かいぬくもりに励まされた。

ナオ気づいてよ。本当の空はどこ?
ナオのこんなに傍にいるんだよ。



だが、らんの声はただ空しく響くだけだった。




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ちと短めで申し訳ないです。3話あまり間隔あけずに更新したいですね。