直は先ほどから専門書を読んでいるのだが、
内容は全く頭には入っていない。
ずっとらんが直に話しかけてくるからだ。
「ねえ。ナオやっぱり明日ねえ・・・」
直は半ばいらいらしながら本を閉じた。
「もう らん ひつこいよ〜。ダメだっていったら
ダメ!!」
「いいでしょ。たまには、ね〜僕たちクリスマスだって
なかったんだよ。もうすぐお正月なのに・・。」
さっきから直とらんはこんな調子で言い争ってる。
らんがたまには4人で(直も空も一緒に)デートしたいなどと言いだ
したのだが始まりなのだがことの発端はクリスマスにあった。
真一郎と七海はクリスマスにはデートだとかで
オレたち相手にしてもらえなくて。
まあそんな事で我侭を言う歳でもないしね〜
羽柴は文句をいってたけれど。
仕方がないからクリスマスを4人?で祝うことになって。
空が作ったホットケーキにロウソクをたてて4人で食べたんだ。
確かにらんが言うとおりにぎやかな街のクリスマスとは
かけ離れてたと思う。
でも今は一緒に過ごせるだけで空は幸せだって言うし
オレも贅沢いえるときじゃないからそれでいいって言ったんだ。
えっ・・?クリスマスプレゼントはっどうしたって?
それはもちろんあげたけど・・・
まあそれほゴホン・・。 内緒だよ。
そんなわけでらんがふて腐れてるのもわかるんだけど・・。
「らん あのね。僕たちには多大な借金があるんだよ。
だからお金がかかるような事は出来ないの。」
「わかってるよ。だから一緒に歩くだけでいいって
いってるでしょ。」
「それだったら夜と二人で行っといで。体貸して上げるから。
羽柴には僕から話しておくよ。」
「それじゃあ ダメなの!!」
折れる気配を見せない直にらんは前から思っていたことを
提案した。
「じゃあね僕も今度ナオのお仕事手伝うから。
それとも僕は別のお仕事探した方がいい?」
どんなお仕事なら出来るだろうと真面目な顔で言い出した
らんに直は慌てた。
「いいよ。らんは仕事なんてしなくて。」
「そういうわけにはいかないでしょ。僕だって役にたちたい
んだもん。」
この勢いじゃホントに仕事でも探しに行きかねないらんに
直は大げさなほどのため息をついた。
「しょうがないな〜わかったから。でもらぶらぶら歩くだけだよ。」
羽柴にはオレから伝えとくから。」
「うん。」
らんは本当にうれしそうな笑みを浮かべて明日を待ち焦がれている
ようだった。
朝の苦手な直はもちろん目覚ましがなってもまだ眠った
ままだ。
ジリジリ耳元で鳴っていた目覚ましもいつの間にか止まってる。
何となく意識の底でオレじゃない誰かが止めたような
気がするんだけど・・。
「ねええ。ナオ ナオってば!起きてよナオ!!」
聞き覚えのある声が心地よい眠りを妨害する。
「頼むからもう少しだけ・・。」
布団を剥ぎ取られ冷たい冷気にさらされると直は無意識に
布団に包まろうとして身近にあった温かい感触を抱き寄せて・・。
「直ってばすごい事があったの。ほらみて!!」
耳元で聞こえる大声はらんの声。じゃあこの温かい感触はなに・・?
ようやく違和感に気づいたナオが目を開けると自分に覆いかぶさる
自分の姿が目に入った。
しかも相手は全裸。
さすがにこれには直もばっちりと目が覚めたようだ。
「ナオ みてよ。僕だよ。これ僕の体なんだよ。びっくりした?」
びっくりしたも何も一体どうなってんの?
あまりのことに声も出せない直に相手は満面に笑みを浮かべてる。
「ひょっとしてらん・・?」
ようやく直が出した声は驚きのあまり震えていた。
「うんそうなの。」
嬉しそうにうなづいたらんがいきなり直に飛びついてきた。
「うれしいナオ。これ僕の体なんだよ。夢じゃないんだよ!!」
らんの体は温かくて心臓もドキドキなっている。
どうしてこんな事になったのかわからないがこれほど
喜んでるらんを前に直は「よかったね。」と言う事しかできず・・。
その時いきなり部屋の扉が開いて、転がり込むように
慌てた空が駆け込んできたと思ったら・・・。
「藤守驚くな。今朝起きたら オレと夜が・・・。げっ!!!」
部屋に入るなり空は絶句した。
「もしかしたら藤守たちもって夜がいうから・・・。」
はっきり言って空にはらんも直も見た目ではわからない。
あられもない姿で抱き合う二人に空は顔を真っ赤に染めた。
「そんなカッコで抱き合って・・・。」
直の上におぶさるように乗っていたらんがにへっと笑うと
空をからかう。
「なんだ。空ひょっとして羨ましいの?」
下にいる直はたまったもんじゃない。
「何言ってんの!らんとにかく僕の上からどいてよ。」
「いいじゃない。僕ナオの体どうなってるか興味
あるんだもん。いいでしょ?」
「ちょっと らん何言ってんの!!」
慌ててらんを引き離そうとする直に別の気配が部屋に侵入して。
「だったらオレは空の体がどうなってんのか調べてみようか?」
直とらんはその声でようやく空の後ろにいるもう一人の人物に
気づいたようだ。
もちろんらんはそれが誰の声かすぐにわかる。
「夜・・・!!」
らんは直の体から離れるなり夜の胸に飛び込んだ。
「夜!!・・・夜の体だ。僕だけじゃなかったんだ。うれしい。」
しみじみと幸せをかみ締めるらんに夜は苦笑すると
そっとらんを抱き寄せた。
朝からラブラブモードに突入しそうな二人に
空と直は目のやり場に困る。
いつも互いの体の中で見てはいけないものを見た時のように
困ってはいたのだがやはり実体があるのと
ないのとではわけが違う。
そのままベットになだれ込みそうな勢いの二人に直は
コホンと咳払いをすると話し出した。
「でもらん この状況はちょっと考えないといけないよ。」
「そうだな。」
少しの間のあと意外にもそう答えたのは夜だった。
「この状態がいつまで続くかわかんねえが、事情を
話してオレとらんは真一郎の所にでも置いてもらったほうが
いいだろう。」
らんはこわごわと夜をみつめた。
深刻な話に手放しで喜べない事を悟ったようだ。
心配そうにみつめるらんの髪を夜は優しくなでた。
「まあ確かにオレもびっくりしたけどな。冬休み中でよかったじゃん。
寮にいるのも俺たちだけだしさ。」
空はいたって明るくそういうと夜もうなづいた。
「そういうことだ。らんそんな心配すんな。
いざとなったら仕事探して二人で一緒に住もうぜ。
それに今日は4人で出かけんだろ?」
「うん!!」
たちまち元気になったらんに夜は笑った。
「ホントらんって現金なのな。」
空と直も笑い出しらんはなんだか居心地の悪さを感じたけれど
それはけして悪くない気分だった。
|