ウェディング狂奏曲 11 夜とらんの「誓いのキス」は長かった。 2人は手をとると見つめあい、引きあうように唇を触れ合わせた。 そうして角度をかえ、キスはどんどん深くなっていく。 空は直と握っていた手に妙な汗をかいた。 もっとも直の方はそれどころではなく、顔から火が出そうなほど 真っ赤になっていた。 夜とらんは空と直に似すぎてるのだ。 大体、誓いのキスなんて「ちゅ」っと触れる程度のものだと思うのだが、 夜とらんのは全く違ってた。 空と直だけでなく参列者すべてが見てはいけないものを見てしまった時のような バツの悪さを感じながら目が離せなくなっていた。 そんな中祭のカメラのフラッシュが光る。 『あいつら、ぜってえ〜、最初から企んでたんだ〜!!』 空は心の中で毒づいた。 その長く、やけに濃厚なキスを見せ付けた2人はキスが終わると荒い息を継いだ。 特にらんの吐息は教会に響いて妙に色っぽかった。 ようやく離れた二人にクリスがたしなめる様に「コホン」と咳払いした。 クリスも真っ赤になっていた。 みんなの笑顔と拍手、そしてフラワーシャワーが注ぐバージンロードを 夜とらんが手を取り歩いていく。 空はその2人の姿が急にぼやける。 空は不覚にもこみ上げてくる熱いものに耐えられなくなって瞳をぬぐった。 直も同じだったようでしゃくりあげていた。 傍にいた教授が優しく微笑んだ。 「藤守くんも結婚する時は私がエスコートしよう。」 「ええっ??あ、でもオレは結婚なんて・・。」 真っ赤になってる直に教授は構わず言葉を続けた。 「別に恥ずかしがることはないだろう?空くんとは恋人なのだし、これからをずっと約束しているのだろう?」 ますます顔を真っ赤にさせる直に空まで恥ずかしさが伝染しそうだった。 「いいな〜今度は空先輩と藤守先輩かあ〜。」 参戦してきた市川に教授が言った。 「学も芥と結婚する時は私がエスコートしてやるぞ。」 「マジ親父??」 「ああ、ただし芥が望むかどうかは別の話だが・・。」 「ううっそれは・・・。」 確かに・・・そんなことを永瀬がするはずないなと空が思っていたら、案の定永瀬が渋い顔をして深いため息をついた。 だが、永瀬と市川、兄弟で恋人同士だって言うのに父親の教授は特にその事を気に留めてはいないらしい。そこが教授らしいというか。なんというか。 空がそんなことを考えていると、やけに賑やかな声が教会の外から飛び込んできた。 「おぎゃああ。」「ぶえ〜ん」 子供の泣き声・・・?それも赤ん坊・・? バージンロードを抜けた夜とらんが走り回るチビっこ二人と赤ん坊を抱く中原と羽野に目を細めた。二人のうちの一人は羽野の弟の風太だがもう一人は空も知らない子どもだった。 「教授、なんとかしてくださいよ!!」 羽野は手馴れた手つきで赤ん坊をあやしているが、中原の方は空が見ても抱き方がまずい。 ずり落ちそうな赤ん坊は居心地の悪さに泣き叫んでいた。 「桐人、そんな抱き方では駄目だ!!」 教授は慌てて中原に駆け寄ると泣きじゃくる赤ん坊を抱き上げた。 教授が抱き上げるとぐずっていた子がしゃくりながら泣き止んだ。 それはまさに「お父さんです。」といった感じで妙にサマになっていた。 「香野はいい子だな〜。それにしても桐人、お前一人で見られなかったのか?」 窘められて中原はげんなりした。 「教授、オレ一人で子供3人なんて無理ですよ。」 どうやら中原は教授に式の間子供たちの面倒を見るように言われていたらしい。 だが、面倒見きれなくなって羽野を助っ人にしたんだ。 まあ、羽野は弟の風太を(仕事で忙しい両親に代わって)育ててきたわけだし 人選としては悪くはない。 その様子を見ていた直が苦笑した。 「教授、研究室の子ですか?」 「まあ、そうなのだが・・。」 直の質問に教授の歯切れは悪かった。 空と直より後から出て来た七海と真一郎が風太と一緒に走り回っていた子供をみて 足を止めた。 「相沢教授、ひょっとして・・?」 「ああ、そうだ。廉だ。」 「あっ・・。」 七海はその場に立ち尽くすとみんなが見てる前だって言うのにハラハラと泣き出した。傍にいた真一郎が七海の肩をそっと抱き寄せる。 「あの子七海ちゃんの知り合いなのか?」 教授に空が小声でたずねると教授が言った。 「廉は真一郎と七海の子供だ。」と 最終話へ
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