ウェディング狂奏曲 12
「ふ〜ん、兄ちゃんと七海ちゃんのって?」
そこで流石の空も不自然さに気づいた。
「えっ?!七海ちゃんと兄ちゃんの子って??」
教授は苦笑した。
「ああ。本当にあの2人の子供なのだ。それより真一郎、七海、廉はずっとお前たちの事待ってたんだ。行ってあげなさい。」
真一郎と七海は教授に背を押されるようにまだ小さな男の子の所に向かった。
「廉くん?」
風太と走り回っていた男の子は七海を見上げると恥ずかしそうに
教授の後ろに隠れた。
七海ちゃんは崩れそうな表情を堪えていた。
「なな、大丈夫。少しずつな。」
七海の肩を抱いてた真一郎が廉の視線になるようにしゃがみこんだ。
「廉、俺と七海はずっとずっと廉の事待ってたんだぜ。」
その言葉に廉が反応した。
「ひょっとしてお父さん??」
「ああそうだ。廉のお父さんだ。」
おずおずとだったが廉は七海が差し出した手を握った。
七海はそのまま廉をぎゅっと抱きしめると大泣きした。
「廉・・・ごめんね。」って
空と直はその光景に事情は知らなくても胸がいっぱいになっていた。
2人には親がいないから余計にそう感じたのかもしれない。
教授は腕の中の赤ん坊をあやしながら空と直にこっそりと耳打ちした。
七海は教授の研究所にいた時からずっと男同士で子が残せないかという研究をしていたらしい。
七海ちゃんは兄ちゃんの子が欲しかったんだ。
教授が言うには論理的には無理なことじゃないらしい。
万能細胞(組織を作る元素の細胞)があれば男であっても卵子を作るのは可能なのだそうだ。
ただ問題はそうやって受精卵が出来ても男の体の構造では受精卵を
育てることが出来ないってことだ。
七海ちゃんは空と直が学園に入った頃、やはりその思いを諦めることが
できなくて教授のアメリカの研究所まで行ったんだ。
そうして七海ちゃんの努力が結ばれて廉は産まれた。
けど廉は体が弱くて研究所から出ることが出来なかったんだって。
七海ちゃんは研究所に残るといったそうだが、教授がそれを許さなかったらしい。
教授は理由はいわなかったがそれはオレたちの事があたんじゃないかって思う。
かわりに絶対に何があっても廉の病気を治して2人の元に連れて行くと約束した
・・それが今日になったということを教授は教えてくれた。
それを聞いてますます直と空は胸に熱いものがこみ上げてきた。
奏司と綾野は顔を見合わせると3人の下へ駆け寄った。
「廉くん。はじめまして。君のお父さんの兄の綾乃だよ。」
「同じく兄の奏司だ。今日から私たちも廉くんの家族だ。」
そういうと後ろでその様子を見ていた梅谷もジ〜ンと感極まっていた。
次は夜とらんの番だった。
「教授・・・。義広が抱いている赤ん坊ってひょっとして。」
「そうだ。青くんだ。」
「えっ?」
空と直はわけもわからないまま驚きの声を上げた。
らんは微笑みを浮かべると直に抱えていたブーケを差し出した。
「何?」
不思議そうに受け取った直にらんが微笑んだ。
「受け取ったって事はやっぱり次はナオの番だよ。」
「な、らんが勝手に渡してきたんだろ?」
らんはくすくす笑いながらナオに背を向けた。
「僕新しい家族が出来たみたい。でも直もずっとずっと僕の家族だよ。」
そういうとらんは夜と2人で義広の抱いている赤ん坊の元へといった。
「羽野、ありがとう。」
「どういたしまして・・。」
羽野の手から赤ん坊を受け取ったらんは慈しむようにその子をぎゅっと胸に抱きしめた。
その赤ん坊を一目見て空も直も気づいたんだ。
「まさかって・・・・。」
「勘がいいな。そうだ。夜くんとらんくんの子だ。」
「何だと〜!?」
そうではないかと思っていても教授から事実を聞かされた空は絶句した。
「うっせ〜ぞ。空、お前は今日から青のオジだからな。どうだ『おじさん』ってといわれる気分はよ。」
「オレがオジさんなら夜は親父だろう。たく、結婚する前に子供までつくってたなんて。」
空がぶつくさ文句を言うと教授が言った。
「らんくんがどうしても夜との子供が欲しいと頼み込みにきたんだ。
まあ、七海の研究が役にたったというわけだ。」
直はらんが抱える赤ん坊に引き寄せられた。
「藤守?」
赤ん坊は夜にも空にもらんにも直にもよく似ている気がした。
「青、はじめまして。」
らんは母親のようにその子に優しく語り掛けていた。
その姿を直はじっと見つめた。
「ナオも抱っこする?」
「うん。」
直はおそるおそるらんから赤ん坊を受け取った。
「小さくて温かい・・。」
抱かれた赤ん坊はつぶらな瞳で直をみつめると直の指をその小さな手でぎゅっと握りしめた。
「青、直も青の家族だよ。」
「青くん、よろしくね。」
優しく青を抱く直にもらんのような想いがあるんだってことを空は感じていた。
「なあ、藤守、オレも抱っこしてみてえんだけど。」
「空お前は駄目だ!!」
空が赤ん坊を抱こうとすると夜がパシっ手を叩いた。
「夜、何でだよ。」
「オレもまだなのにお前に抱かせるわけねえだろ。」
理由を聞いて空は噴出した。
「ハハハハ・・夜、お前ガキすぎ。」
「うっせえ〜ぞ、誰がなんと言おうとオレが先だ!!」
夜が大きな声を上げたせいか青がいきなり泣き出した。
「もうしょうがないんだから」
らんが慌てて直の腕からあかちゃんを抱き上げた。
「よしよし、大丈夫だよ。」
らんはいいお母さん(?)になりそうだ。
その様子を今まで微笑ましく見ていた市川は何を思ったのか
ニコニコしながら教授のもとに行った。
市川が見ていたのは教授の腕ですやすや眠る赤ちゃんだった。
「なあ親父、先輩たちの子どものことはわかったけど
親父が抱いている赤ちゃんは?その子オレに似てる気がするんだけど。
ひょっとしてオレと芥の子か・・?」
「そんなわけがないだろう!!」
返事を返したのは教授ではなく永瀬だった。
その永瀬の声はいつもの平静さのカケラもなかった。
「うっ、」
市川は永瀬の一言で撃沈した。
ま、そりゃ流石にありえないわな。
そう空が思っていると教授が可笑しそうに笑った。
「香野は芥と学の子ではないがお前たちとは切っても切れぬ縁があるぞ〜。」
「そう・・なのか?」
「ああ、私の子だからな。」
「えええええっ〜!!!」
絶叫した市川とは対象的に永瀬は深いため息をついた。
前々から空が思っていたことだが、市川と永瀬って本当に正反対の性格している。
「じゃあオレの弟ってこと?」
そうだと頷いた教授は市川に言った。
「それで学に折り入って頼みたいことがあるのだが・・。」
「もちろんいいぜ。」
内容も聞かずに返事した市川に永瀬は苦虫をかんだような顔をした。
ろくなことではないと思っているのだろう。
「私は今度別の研究所にしばらく移ることになってな。それで、綾野に香野
を預けることになった。その間、学も香野の面倒を見てやってほしいのだが・・・。」
「そんなことお安い御用だって。なんといってもオレの弟だもんな。」
香野を抱き上げた学は嬉しそうに芥に見せた。
「芥、オレたちの弟。すげえかわいい。」
無邪気に笑う市川に永瀬はなんともいえぬ表情をした。
「ほら芥も抱いてみろって。」
市川に無理やりちかく押し付けられて永瀬が赤ん坊を抱いた。
それは普段の永瀬からは想像もできないものだったが意外と様になっていた。
教会の鐘を夜とらんがならす。
その間「青」を抱っこする順番争いがおこって、今はじゃんけんに勝った広夢が青を抱いている。
次はクリスらしい。
カーンカーン・・・。響き渡る教会の鐘。
みんなの笑顔に空は胸がいっぱいになって直の手を取った。
「なあ藤守、オレたちも結婚しよう。」
一瞬の間のあと直は「うん。」って頷いた。
「えっ?」
聞き間違えたと思うほどそれはあっさりしていて空は直をみた。
けれど直は耳まで真っ赤になっていた。
そこでパシャっとカメラのフラッシュが光った。
「空と直くんの婚約の瞬間撮っちゃった〜。」
「なっ、祭ちゃん!!違う、絶対に違うっ、」
「ええ違うのか?」
「違うったら、違うの!!」
「潔悪いよ。ナオ」
「うるさい!!」
ますます真っ赤になった直の顔に空は微笑んだ。
「ナオ、愛してる。」
完結
あとがき
ブログに通って読んでくださったお客様、そしてサイトで読んでくださった
お客様も本当にありがとうございました〜!!
連載から4ヶ月。
はじめはもっと短編の予定で、サイト2周年記念頃には完結も考えていたんですが
なぜかこうなってしまいました(苦笑;)
しおりさんから全キャラ登場のリクエストをもらった時に「夜とらんの結婚式しかない!!」と
思い立ちまして。。。(どうしてそうなったのかは不明;)でもすごく楽しかったデス。
やっぱりHAPPYな内容だと書いてるほうもHAPPYな気持ちになります〜。
「夜、らん幸せになってねえ!!」
次回は「If・・・」連載開始予定なんですが。こちらはダークです(暗;)
沈んだらまた余所見するかもしれませんが時間かけても完結を目指します。
よかったらIfもよろしくデス。。
|