ウェディング狂奏曲 10





この3人は以前「らん」にちょっかいかけて、こっぴどく夜の報復を受け
たんだ。
それ以来、夜にパシリさせられたけど、夜がこいつらの卒業の時に仕事を
世話したとかで夜にいろいろと恩があったりするようだ。
夜は結構面倒見がいいからな。

「そっか、元気でやってるなら何よりだ。」

梅谷がそういうと、聖堂のドアがゆっくりと開いて、クリスが顔を覗かせた。

「皆さんお久しぶりです。お変わりありませんか?」

「クリスくん立派になりましたね。」

七海が声を掛けるとクリスが破顔した。

「ドクターありがとうございます。
新郎、新婦の準備が整いましたのでまもなく式を始めます。」

クリスがそういうと梅谷が怪訝な顔をした。

「新郎、新婦ってあいつら男同士だろう?それに教会でそんな結婚式なんていいのか?」

「梅谷先生、いいんです。」

優しく微笑んだクリスに梅谷も「クリスがいうならいいのか」という気に
させられた。
クリスにはそういった不思議な力があるらしい。



それからまもなくして、厳かなオルガンの音色とともに夜がバージンロードに登場した。
ダークグレーのフロッグコートは長身で、カッコいい夜をとにかく引き立てた。

『う、マジでカッコいいかも・・』そう思った空に
夜が『あったりめえだろ?今更気づいたのか、てめえはおせえんだよ。』って言ったんだ。
それは夜の心の声なのか本当の声なのか空にはわからなかった。
(大体ここでは夜と空は別の人間という設定だし;)

「えっ?!」

「羽柴静かに。」

「悪い。」

直に窘められると夜がまた声を掛けてきた。

『たくよ。おめえはカッコ悪いな。』

「夜うるせえ〜!!」

また声を上げてしまった空に今度は後ろの座席にいた市川が声を掛けてきた。

「先輩どうかしたのか?」

「いや・・・。その・・・なんでもねえ。」

『くく』っと夜の笑い声が聞こえる。
といっても聞こえているのは空だけなのだろう。
くそ〜っと心の中で毒づいていると市川が小声で話かけてきた。

[なあ、空先輩、親父今日来るよなあ〜?]

[教授なら・・。]

空が最後まで言う前にクリスが言葉をさえぎった。

「新婦の入場です。」

教会の扉が開くと、純白のウェディングドレスに身を包んだらんがいた。
その隣でらんをエスコートしていたのはなんと相沢教授だった。

「親父・・・!?」

市川は呆然としていた。
市川にとっては複雑かもしれないなと空は思う。
教授は市川の父親だし。

けどオレや夜、それにらんや直には親がいないし。
研究所で育ったオレたちにとって親代わりといったら教授ぐらいなんだ。
市川わかってくれるよな?
そんなことを考えていると市川がぽつりとつぶやいた。

「らん先輩、すげえ綺麗、」

市川の言うとおりらんは綺麗だった。

らんが入場したばかりだって言うのに直は声を抑えてしゃくりあげた。
感極まったんだ。
その手をそっと握ると直も空の手を握り返してきた。

空と藤守の目の前で教授かららんの手を夜が引き継いだ。
空もその姿に感極まって胸がいっぱいになる。



いつか・・・オレも藤守と・・・。



                             
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