ウェディング狂奏曲 7





空と直が夜とらんの控え室に行っている間の事。




奏司と、梅谷に続き教会に来たのは真一郎と七海だった。
奏司と梅谷は真一郎と並んで入ってきた七海がまるでバージンロードを歩く
新郎のように見えた。
教会の醸す雰囲気もあるかもしれないが七海はキラキラと輝いていた。
真一郎がブラックのスーツに七海が淡いパープルのロングコートを羽織っていたのも要因の一つかもしれない。

奏司は「ほほう」と感嘆をもらした。

「真一郎も七海と結婚するみたいだな。」

冗談で言った奏司に真一郎が笑った。

「奏司うるせ〜ぞ。だいたいオレと七海は、ん〜な事しなくたってずっと昔から心も体も繋がってんだよ。まっ七海のウェディング姿は悪くねえと・・・。」

真一郎が最後まで言う前にグウの拳が飛んだ。

「ななちゃん痛え〜。」

大げさに頭を抱える真一郎を尻目に七海は奏司と梅谷に笑いかけた。

「おはようございます。梅谷先生、奏司さん。」

「七海先生もおはようございます。それにしてもいつ見ても七海先生は綺麗だなあ〜。
思わず見惚れてしまった。」

「梅谷先生ったら。」

苦笑する七海に真一郎はむっとすると梅谷を睨みつけた。
それを梅谷は誤解した。

「あっと挨拶が遅れました。私は水都先生や七海先生と同じ学園で
教師をやってる梅谷といいます。
真一郎さんは確か水都先生の弟さんでしたよね?」

梅谷は真一郎と水都が同一人物だということをしらない。
まあ、性格が真反対な上、生徒からも教師からも陰険教師と
恐れられる水都と真一郎が同じ人物とは信じ固いのも確かだが・・・。

梅谷の隣に居た奏司がクスリと笑いをもらした。

「どうかしましたか?」

「いいえ何も。」

梅谷に聞かれて奏司は付け足した。

「実は私は真一郎の兄なのです。」

「ええ、そうなんですか?」

梅谷は驚いて奏司と真一郎を見比べた。
どう見たってあまりこの2人は似ていない。
だが、水都と奏司はどこか似たところがあるような気がする。あくまで外見上の事だが。

「では水都先生も?」

「もちろん。水都も私の弟です。」

目を丸くする梅谷に真一郎が声を潜めた。

「奏司、いい加減なこと梅谷に吹き込むな!!」

「ウソではないだろう。お前は私の弟だ。それにお前は
水都の弟なのだろう?」

くくっと笑いを抑える奏司に真一郎はぐっと唇をかんだ。

「んだと!!そんなにお望みなら水都になってやるぜ、」

真一郎がポケットから眼鏡を取り出す前に七海が思いっきり真一郎の頭をグウで殴った。
それはさっきよりも強烈な当たりだった。

「ななちゃん?!」

「しんいちろうさん〜!!」

真一郎がひるんだ隙に七海は眼鏡を取り上げた。

「これは預かっておきましょうねえ〜。」

「うううっ」

顔は笑っているが声は笑っていない七海に真一郎は一歩後ずさった。

奏司と梅谷も見てみぬふりをした。
怒らせると一番怖いのは七海なのだ。


「それにしても梅谷先生と奏司さんが知り合いだった
なんて知りませんでした。」

先ほどの事などなかったように七海は2人に笑いかけた。

「いや、まあ今日知り合ったばかりなんですが。なんだか馬が合って。」

頭を掻く梅谷に奏司が笑った。

「私も梅谷先生は他人のような気がしない。
もし学園で水都が貴方に危害を加えるようなことがあれば
遠慮なく私に相談してください。」

「本当ですか?」

「もちろんですよ。」

「それは心強い。七海先生も何かあったら奏司さんを頼ったら
いい。何かと水都先生に絡まれているようだし。」

「そうですねえ。」

苦笑する七海に奏司は涼しい顔をして見せたが内心は大笑いしていた。




さすがの真一郎も3人のやり取りに言い返す気力もなかった。
奏司には言葉で敵わないことは子供の頃から身をもって知っていたし、
七海を敵にまわすのはもっと得策ではない。

「ちえ・・。」

落ち込む真一郎に七海が笑いかけた。

「ほら、真一郎、夜君とらんくんの結婚式なのにそんな顔してちゃ駄目だよ。」

「ああ。」

今だむくれている真一郎に七海はそっと手を差し出し
真一郎はその手を取った。

真一郎と七海はここに来るまで夜とらんの事、空と直それぞれの事を
話しながら歩いてきた。

知り合ったのは真一郎と七海がまだ学生の頃だった。
あいつらは真一郎のように両親はいなくて。けどそんなことを
感じさせないぐれえ元気がよくて、健気で、負けず嫌いで、そして何より強い糸で
結ばれていた。

だから余計にあいつらがバラバラになっちまう事がほっとけなかったんだって
真一郎は思う。
兄弟のように時には親のように見守ってきた。

そんな夜とらんが結婚してしまう。
それは2人にとっても感慨深いことだった。

真一郎はそんな感傷に浸りながら、遠い目をした。


「なあ、七海、相沢のやつ連れてくるかな。」

七海はそれに優しく微笑んだ。

「僕はいつか会えると信じています。」



                                               8話

またしても奏司さんと梅谷先生です(笑)この二人いいコンビになると思うんだけどなあ〜。